「AO Trauma Masters Course Pelvis and Acetabular Fracture Management with Anatomical Specimens」に参加して     名古屋,  2022/11/10 - 11/12 吉田 昌弘 先生 (藤田医科大学病院 高度救命救急センター 救急科)

2022年11月10日~11月12日まで名古屋市で開催された「AO Trauma Masters Course Pelvis and Acetabular Fracture Management with Anatomical Specimens」に参加させていただきましたのでその内容を報告させていただきます。

私は実はAO Pelvic courseの参加は今回で4回目となります。初めてのAO Pelvic course参加は2009年のDavosで開催された時でありまして、当時は自分の所属する病院で寛骨臼骨折の手術をできる術者は皆無の状況でした。そこで骨盤、寛骨臼骨折の手術がしたいために整形外科に入局した整形外科3年目の自分が幸運にもDavosに送りだしてもらえまして、初めてのIlio-inguinal approachのカダバートレーニングをDavosで経験することができました。当時日本人で唯一、澤口先生がPelvic courseのFacultyとしておられ直接実習で御指導いただけたこと、そしてドイツ人に交じって不安そうであった自分に優しく気をかけてくださったRommens先生がFacultyとしておられたことを今でも鮮明に覚えています。

その後、2013年に札幌でのPelvic courseを、2019年には10年ぶりにDavosでのPelvic courseを再度受講させていただきました。自分が経験症例を積み重ねていっていることも相まってどのCourseでも新たな知見や発見と出会うことができました。そして骨盤・寛骨臼骨折治療が自分のライフワークのメインとなった今、一つの節目としてここ名古屋で「AO Trauma Masters course Pelvis and Acetabular Fracture Management with Anatomical Specimens」を受講することとなりました。

コース終了後にRommens先生と撮影

今回はRommens先生が日本で講師をされるのが最後かもしれないとの噂もお聞きして是非お会いしたいとの希望もあり参加させていただきました。

まず初日は骨盤骨折の座学が中心のプログラムでありました。これまで参加したコースとやや趣が異なり、聴講する座席がすでにグループディスカッション用の座席となっており、すぐにグループディスカッションに移行できるスタイルとなっていました。また参加条件としてそれなりに骨盤・寛骨臼骨折手術症例の経験がある参加者が中心となっているため、ディスカッションがメインと言っても良いくらいに討論が盛り上がっている印象を受けました。

Facultyは経験豊かな国内Facultyの先生を中心にRommens先生を中心とした豪華な海外Facultyの先生方が参加されておられました。特に印象的であったのが今回自分は初めてお会いしたタイのBangkok HospitalのVajara先生の講義ですが、IS screw、TITS screwの講義を非常にわかりやすいスライドとわかりやすい英語で講演されておられました。Bangkok HospitalではNavigationを併用し理論立てて骨盤骨折の治療をされているのがわかりそのプレゼン能力の高さも含め非常に刺激を受けました

また初日の最後には自分がここ数年治療と研究を継続しているFragility fractures of the pelvis(FFP)についての講義をRommens先生がされておられました。いうまでもなくRommens分類を発表された先生ですが、2009年のDavosでの講義でもすでに恥骨骨折を認めたらCTで仙骨骨折の有無を調べるべきと述べられていたことを記憶しております。

今回の講義ではここ数年のFFPに対する治療法とそのエビデンスについてまとめて説明されおられました。またディスカッションを通してFFP分類のtype IIとtype IVbの微妙なニュアンスの違いを直接質問できる機会もあり非常に有意義な時間を過ごすことができました。FFPのみならず骨盤骨折の治療においてはSpinopelvic fixationの適応を含めた手術法の選択、EUAを含めた治療ストラテジー、後療法等いまだ解決していない要素が多いためこれらをExpertの先生方とCase discussionを積み重ねていくことは非常に有意義なものとなりました。

ボーンモデルでの実習

2日目は寛骨臼骨折治療中心のプログラムでありレントゲンを中心とした分類の講義とトレーニング、各種アプローチについての講義がありました。

特に主に陳旧例に用いられるExtended Iliofemoral approachに関してはCarlos先生のように陳旧例に精通されている先生でも5例程度しか経験がないと言われていたことが印象的でした。このCarlos先生の寛骨臼骨折のDelayed reconstructionの講義は圧巻の一言であり、多くの陳旧性寛骨臼骨折症例がIlio-inguinal approachとK-L approachのcombined approachできれいに治療がなされており、Carlos先生の陳旧例に対する徹底した治療方針に感銘をうけました。

その他、鈴木先生から骨盤輪と寛骨臼骨折合併例の手術ストラテジーの講義があり、これは実臨床でしばしば悩ましい問題であったため、今回の講義を受けて非常に理解が深まりました。また近年高齢者の寛骨臼骨折症例も増加しており、Acute THAの選択肢も出てきますが、これに関してもBW Min先生、澤口先生の講義で理解が深まりました。

最終日は名古屋市立大学でカダバー実習が行われました。2009年に初めてカダバートレーニングに参加した時は是非自分が切りたいという思いが強かったのですが今回は是非Expertの細かい所作を確認したいという思いで参加させていただきました。
特にRommens先生のIlio-inguinal approachの実演は非常に印象深いものとなりました。自分が普段メインアプローチで用いているということもあり、目の前で見学させていただきました。今まで自分も何度も繰り返し行ってきたアプローチではありますが外腹斜筋やConjoint tendonの切開すべき絶妙な位置、Iliopectineal fasciaの切開時の細かい所作も再確認することができました。今回特に海外Facultyの先生方は非常に丁寧にデモンストレーションをしてくださりその結果時間はやや押すこととなりましたが、それなりに経験がある参加者にとってはExpertの丁寧なデモンストレーションを直接確認できる時間が最も有意義であると感じました。

野田先生より修了書授与

また今回Chairpersonである野田先生にModified Stoppa approachを直接御指導いただき、これもまた非常に有意義な時間となりました。さらに上田先生のPararectus approach、 鈴木先生のModified Iliofemoral approach、澤口先生のK-L approach、Trochanteric flip with surgical dislocationのデモンストレーションも非常に興味深く参考となりました。

今回のコース全体を通して感じたのはやはりそれなりに骨盤寛骨臼骨折治療の経験のある参加者がさらに理解を深め、ディスカッションを重ね、カダバートレーニングでExpertの手技の細かい所作を確認できるということがこのコースの最大のポイントと感じました。

名古屋市立大学にて参加者全員にて撮影

今回AO Pelvic course参加4回目であり、その他様々な骨盤トレーニングコースにこれまで参加してきましたが今回のコースが間違いなく最も実りのあるトレーニングコースであったと感じております。この経験を糧に今後もさらに骨盤寛骨臼骨折治療において知識、技術を深め、日々研鑽を積んでいきたいと考えております。今回のコースの企画に携われたAO Traumaスタッフの皆様、Facultyの皆様に感謝申しあげます。