AO Trauma Courseレポート Saarland University, Saarbrücken, Germany, 2024/6/12 - 14 柳澤 洋平 先生 (筑波大学附属病院)

2024年6月12日から14日までドイツHomburgで行われた22nd. Homburg AO Trauma Blended Masters Course -Pelvic and Acetabulum(With Human Anatomical Specimens)-に参加してきました。簡単ではありますが、以下にコースの概要と個人的な学びに関して報告します。

ドイツHomburgのSaarland大学で行われる本コースは22回目となりました。ドイツ語でのコースと英語でのコースが隔年で行われています。自身2021年のAO Fellowship(Saarland大学)中にもドイツ語でのコースに参加した経験があります。とても学習量が多く充実したコースであり、英語のコースでもう一度勉強したいということ、またSaarland大学のTim Pohlemann教授(現AO President)のご退官前の最後のコースということもあり、今回参加してきました。

(オープニングでのPohlemann教授とスライド。P/A(Pelvic & Acetabulum) Family…。2003年に開催された東京コースの際の澤口先生のお写真もありました)

コースに先立って事前学習として、オンデマンド配信動画を視聴しました。31個の動画(1つ15分前後)があります。骨盤骨折、寛骨臼骨折の解剖、疫学、バイオメカニズム、治療、手術アプローチ・固定法、小児、高齢者、治療の歴史といった多岐にわたる内容に関する動画で、骨盤・寛骨臼骨折の知識を網羅的に学習できるコンテンツです(これらのコンテンツの内容も従実しており、初めて聴く内容も多くありました。この内容を学習するだけでも非常に価値があります)。そして寛骨臼骨折の骨折型分類を回答するプレテストもあります。事前学習コンテンツを終了し、現地でのコースに参加することとなります。

Saarland大学で行われた3日間の現地でのコースには世界各国より60人の参加者(日本からは慈恵会医科大学柏病院 稲垣直哉先生も)がおり、International FacultyとしてアメリカよりEric Johnson先生、Keith Mayo先生、インドよりKumar Sen Ramesh先生がいらしていました。コースは講義、スモールグループディスカッション、模擬骨での実技、そしてご献体での実技とポストテストで構成されていました。講義はオンデマンド動画の内容とは重複しない形で行われ、寛骨臼骨折の単純X線像から骨折型を分類し(写真1)、またCT水平断像(矢状断、冠状断はほとんど提示されませんでした)での骨折線の入り方から受傷時の股関節の肢位と受傷エネルギーの方向を予測する方法など、とても印象的なものばかりでした。

(寛骨臼骨折型分類の講義中のスライドの一つ。主要所見と骨折型の対比表)

解剖(ご献体には骨折が作成されています)実習ではアプローチと整復、内固定、そして固定後に透視装置を用いてインプラント設置位置と整復位を評価しました。アプローチはIlioinguinal 、AIP、Pararectus、Kocher-Langenbeck approach、surgical dislocation、仙骨後方approachについて学びました。前回参加した際には、Pararectus approachは学習課題に含まれていませんでしたので、本アプローチが広く認知されてきていることを実感しました。内固定ではPosterior column screw、Infra-acetabular screw、pubic screwの挿入をFacultyの先生と各国の参加者と共に各々の経験などを共有しながら技術を共有出来たことはとても良い学びになりました。また事前に寛骨臼周囲に挿入されたscrewの透視での設置位置の評価を行う実習(ポストテストでの口頭試問)もありました(写真2)。透視の照射方向の調整を自身で行い股関節との関係など設置位置が的確かどうかを評価するもので、実際の手術時以外にはなかなか経験することの出来ない内容であり、こちらも大変勉強になりました。コースの最後にはポストテストがありました。テストは骨盤輪骨折の骨折型をAO分類で解答する10題と寛骨臼骨折の骨折型をJudet and Letournel分類で解答する10題のペーパーテストがありました。口頭試問ではご献体でのIlioinguinal approachとKocher-Langenbeck approachがあり、上述の透視でのscrewの評価に関するものがありました。実技試験ではスモールグループのメンバーで骨盤輪骨折を有する多発外傷患者の初期治療を行う課題(シミュレーターを用いて)がありました。Shock Vitalのシミュレーターに対して、各国から集まった参加者と協力して様々な初期治療を施していくもので、母国語が英語でないもの同士で緊迫した状況下でコミュニケーションをとり治療にあたるという、中々経験することの出来ない体験となりました。事前学習とプレテスト、現地での本コースからポストテストまで、寛骨臼骨折・骨盤輪骨折を系統的に学習する今回のコースへ参加することで、これまでの知識に新たな知識を加え、自身の考えと手技を見つめ直し1段階ブラッシュアップさせることに繋がったと実感しています。

(Alexander Hofmann先生より透視の見方、評価方法について講義を受ける様子)

今回のコース参加にあたり、AO Trauma Japanより御援助をいただきました。事務局の皆さま、理事・委員の先生方、そして日本の会員の皆さまに心より感謝申し上げます。今回得られた知識を臨床に活かし、治療成績向上のために、さらなるスキルの向上を目指してまいります。最後にこのコースに参加して一番印象に残った言葉を紹介してこの報告を締めさせていただきます。「骨盤・寛骨臼骨折の治療に完璧は無い。オープンマインド、オープンディスカッションでこれからも治療を進歩させる必要がある」、AOの精神がここにあると改めて思いました。

(Saarland大学病院と筆者。中央左奥の建物が、外傷、手と機能再建センター(ドイツ語: Klinik für Unfall-, Hand- und Wiederherstellungschirurgie))