AO Trauma Course—Managing Pediatric Fractures参加者レポート 品川, 2025/7/10-12 若本 諒 先生 (三沢市立三沢病院)

2025年7月10日から12日にかけて品川で開催された AO Trauma Course—Managing Pediatric Fractures に参加いたしました。

直近2年間で AO Trauma Course—Basic Principles of Fracture Management(以下 Basic コース)および Advanced Principles of Fracture Management(以下 Advanced コース)を受講した流れで、2022年以来3年ぶりに開催される本コースを知り、小児骨折治療を系統立てて学ぶ絶好の機会と考え、即決で参加を申し込みました。

私が住む青森県は年間出生数が1万人を下回る少子化が進んだ地域であり、他県に比べ小児骨折を治療する機会が少ないと感じています。現状では小児骨折に遭遇するたびに『小児四肢骨折治療の実際』(井上 博)や『小児骨折治療』(松村 福広)を参照したり、上級医の経験に基づく指導を受けたりしながら対応しています。本コースの Chairperson である松村 福広先生のお言葉を借りれば、まさに「小児整形外傷を治療する機会は減っているにもかかわらず、患者や家族の要求はむしろ高まっている」状態であると感じています。そのため行き当たりばったりの治療では、いつか変形治癒や機能障害を生じ、訴訟に発展するのではないかという不安を常に抱えていました。症例数が少ないため On-the-job training だけで実力を養うには限界があり、これまで系統立った指導を受けたこともなかったため、私の知識には偏りがあると自覚していました。そこで本コースに参加し、これまで身につけた知識や治療戦略が世界標準や国内の参加医師とどの程度異なるのかを確認するとともに、将来遭遇するかもしれない未知の骨折を機能障害なく治療する方法を学び、小児骨折治療の基礎を固めたいと考えました。また、これまで使用経験のなかった Titanium Elastic Nailing(TEN) の Practical Exercise(PE)も、本コース参加を決めた大きな魅力の一つでした。

Davos で行われる Pediatric Course は4日間と伺っていますが、品川での本コースは2日半と短期集中型で、非常に濃密な時間を過ごしました。参加者は約30名で、Basic コースと Advanced コースを修了した整形外科専門医という参加要件であったことから、私と同年代の若手医師から、各病院で中堅・ベテランとして活躍されている先生方まで、幅広い年齢層が集まった印象です。会場はプロジェクターを使用できる会議室で、4つのグループに分かれて着席し、2日半の間、同じ7〜8名のメンバーで討論を重ねました。

Faculty は National Faculty が7名(Chairperson 松村 福広先生、上田 泰久先生、金崎 彰三先生、佐藤 徹先生、重本 顕史先生、善家 雄吉先生、宮本 俊之先生)、International Faculty がメキシコの Pedro Jorba 先生、Regional Faculty がマレーシアの Saw Aik 先生と香港の Everlyn Kuong 先生の計10名で、熱心なご指導をいただきました。

コースは12の Module(テーマ)に分かれ、総論 → 下肢 → 上肢 の順で進行しました。各 Module の冒頭では Plenary Session として Warm-up Cases が提示され、現時点での治療方針を Audience Response System(ARS)(挙手式)で回答します。その後、講義と Small Group Discussion(SGD)や PE を行い、Module の最後に同じ症例を再度 ARS で回答して、自身の思考変化をリアルタイムに「見える化」する流れでした。症例によって考え方が大きく変わることもあれば、ほとんど変わらないこともあり、主体的に学ぶことで知識が整理されていく実感が得られました。

講義や SGD、PE の進行を海外 Faculty が担当する場面も多く、Basic コースや Advanced コースと比べて英語力が求められる場面が増えました。私のグループには英語が堪能な先生が多く、Faculty とのやり取りが活発でした。私は英語が不得手で尻込みしがちでしたが、国内 Faculty が適宜サマリーや通訳をしてくださり、消化不良を起こさずに学習を進められました。

本コースは Basic コースや Advanced コースと比べ、特に SGD の時間が長く設定されており、症例ベースの討論を通じて多くの学びを得ることができました。SGD では AO が提示する基本的方針に加え、参加者各自の意見や Faculty の国ごとの常識を踏まえた活発な討論が行われました。ひとつの骨折に対して多くの治療アプローチが存在し、そのいずれもが良好な成績をもたらし得ると実感しました。Saw Aik 先生が「これは“ある時・ある場所・ある術者”の1例であって、この方法だけが正解というわけではない」と繰り返し述べられていたことが印象的です。Pedro Jorba 先生のお住まいであるメキシコでは Pavlik Harness(いわゆるリーメンビューゲル装具)がスーパーマーケットで販売され、受傷当日に購入して装着できるそうですが、日本ではオーダーメイドのため装着まで1週間必要と伝えたところ、「It’s crazy.」との反応で、日本でも既製品があれば便利だと痛感しました。Everlyn Kuong 先生は講義や PE 中、ホワイトボードに大きく図示したり、参加者を指名してピン刺入経路を説明させたりと、全身を使った参加型指導を行ってくださいました。私は SGD 中に看護師役の Everlyn Kuong 先生と橈骨遠位端骨折の Casting をロールプレイし、一連の流れを体験できました。今後は同先生のスタイルで Casting を実践したいと思っています。

Practical Exercise は TEN に関するものが2コマ(大腿骨、前腕骨幹部・橈骨頭)、Triplane 骨折の作成と内固定が1コマ、上腕骨顆上骨折の創外固定と鋼線固定を学ぶ1コマの計4コマでした。いずれも海外 Faculty が司会進行を務め、国内 Faculty がサマリーやフォローを行う体制でした。プロジェクターで流れる動画や講義で AO 流の手順を学ぶだけでなく、テーブルインストラクターの先生方から臨床経験に基づく細かなコツを数多く伺うことができました。特に Saw Aik 先生からご教示いただいた大腿骨 TEN の刺入点を決める One-Two-One の法則、上腕骨顆上骨折の創外固定ピンで橈骨神経を損傷しない安全域(肘屈曲90°・前腕回内外中間位で前腕橈側縁の延長線より近位1.5 cm 以内)など、教科書には載っていない実践的知識は明日から臨床で即活用できると感じました。

話は変わりますが、初日の夜には Faculty も交えた全体懇親会が開かれ、同年代の先生や10〜20年以上先輩の先生方と多くの意見交換ができました。悩みや思いを共有し、同じ課題や目標を持つ、あるいは既に乗り越えた先生方と出会えたことで、心強い仲間を得られたと感じています。


印象に残ったフレーズ

  • 「回旋変形は絶対に矯正されない」
  • 「歩けない年齢の下肢骨折は Non-Accidental Injury を疑え」
  • 「十分な固定性を得るため、成長軟骨板を貫くことをいとわない」
  • 「関節内骨折は成人同様、Anatomical Reduction と Absolute Stability で固定を」
  • 「大腿骨頚部骨折の整復は妥協しない」
  • 「抜釘は “the bone looks like a bone again” で」

2日半のコースを終え、どのような些細な疑問にも Faculty の先生方が真正面から答えてくださる AO コースならではの環境で過ごせたことは、何ものにも代えがたい貴重な経験となりました。最大の学びは、良好な治療成績に至る道筋は一つではないということです。国内でも施設によって方法は異なり、海外に目を向ければさらに多彩なアプローチが存在します。数多くの選択肢の中から、正確な診断と各骨折の自然経過を踏まえた適切な治療を選択すれば、機能障害を残さず良好な成績を得られることを再認識しました。Saw Aik 先生が最後にくださったメッセージ「あなたの子どもの幸せを本気で願って治療にあたっていると、両親に思ってもらえるようにしなさい」を胸に、今後も真摯に学び続け、小児骨折治療に取り組んでまいります。

最後になりましたが、熱心にご指導くださった国内外の Faculty の先生方、そしてコース運営に尽力された AO Trauma Japan の皆さまに心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。