Saarland University Medical Center, 2025/07/07〜08/15 安藤 治朗 先生 (自治医科大学附属病院)
2025年7月7日から8月14日までの6週間、ドイツのザールラント大学医療センター(Saarland University Medical Center)の外傷、手外科、機能再建センターで研修して参りましたので、ここにご報告させていただきます。
研修施設への希望として、ヨーロッパであること、手洗いをして手術に参加できる施設であること、骨盤手術に強い施設であること、手外科に強い施設であることを挙げました。以上の希望からザールラント大学医療センターをマッチングしていただき、本研修を行うこととなりました。
同大学医療センターはドイツの南西部位置するザールラント州のホンブルグという町にあります。フランスとの国境に位置しております。日本でいうと北海道と似たような天候で、研修期間中の最高気温は25度前後でとても快適に過ごすことができました。人口は42,000人程度の小さい町で、30分電車に乗ると大きい街であるザールブリュッケン、カイザースラウテルンに行くことができます。小さい町で刺激が少ないため、研修に集中することができました。

ザールラント大学は州立の大学で医学部のみがホンブルグにあります。今回外傷、手外科、機能再建センターで研修をしましたが、科の名前通り整形外傷と手外科を主に行っております。外傷に関しては脊椎外傷、膝の靭帯再建や半月板損傷に対する治療なども行っており、多彩で幅広い範囲を担当している科です。建物は歴史ある施設と近代的な施設が混在していましたが概ねきれいで過ごしやすい施設でした。
当施設には外傷治療のために州全体や隣国から患者が紹介されてきます。研修中には同大学を頼って、ウクライナやルクセンブルグから紹介されてきた難治症例もありました。手術室は科専用手術室が2室あり、月曜から金曜までの平日は1日6-10件の手術を行います。そのほかに、大腿骨転子部骨折や大腿骨骨幹部手術、創外固定手術は、別枠として緊急手術を行なっていました。

手術は主に指導医クラスの上級医師が担当していました。昨年同大学に就任された主任教授のEmmanouil Liodakis先生も難治骨折を中心に多くの手術を担当されておりました。時折橈骨遠位端骨折や足関節骨折などのベーシックな手術も教授が担当されていましたが、これはドイツの保険制度の関係によるもののようです。
手術は前述した通り、平日の時間内に多く行われております。手術が遅延し時間外から開始しそうな症例は、翌日以降に手術を組み直しになります。ドイツでは医師やスタッフの労働時間をとても重要視しており、時間外労働は罰金になることもあるようです。医師の労働時間を優先する関係で手術の担当が手術前日や当日に変わることも多いようです。日本では現在働き方改革で仕事シフトなどを調整している施設も多いと思いますが、欧米の働き方はある程度参考にしても良いかもしれません。

私は主に難治骨折手術、手外科手術の助手に入らせてもらい、手術を中心に研修をしました。開放骨折、骨盤輪骨折、寛骨臼骨折、他院の手術後の合併症などの興味のある症例の手術に入りました。手外科疾患では陳旧性屈筋腱断裂、SLAC損傷、拘縮手術などを経験しました。自分の拙い英語でも、丁寧な指導をしていただき、大変勉強になりました。ドイツでは日本で未導入なインプラントや手術道具を多く使用されており、手術の選択肢自体は日本より多い印象で興味深かったです。また、ドイツの患者は日本の患者と比べて肥満患者が多く、肥満患者に対する手術時の工夫が色々と行われており参考になりました。臨床以外にも、Bergita Ganse教授に同大学の研究室を紹介していただき、科で取り組まれている骨癒合促進に関する研究や新規インプラント作成に関する研究についてご指導をいただきました。
最後に、研修を快諾し送り出してくださった竹下克志教授をはじめとする自治医科大学整形外科教室医局員の先生方に感謝申し上げます。また、渡航前に助言をいただいた明石医療センターの脇貴洋先生、筑波大学病院の柳澤洋平先生、フェローシップ中に指導をいただいた東京慈恵会医科大学の稲垣直哉先生、筑波大学の河村季生先生に感謝申し上げます。今回の経験を今後のキャリアに活かしていきたいと思います。