Harborview Medical Center, USA, 2024/7/29-9/6 籾井 健太 先生 (九州大学病院 救命救急センター)

2024年7月29日から9月6日までの6週間、アメリカのシアトルにあるHarborview Medical Centerでフェローシップを行う機会をいただきましたので報告させていただきます。

元々、私は英語が大変苦手であり、海外での研修など縁遠く、特にフェローシップ制度を利用することを意識したことはございませんでした。そんな私がフェローシップ制度に応募する契機となったのは、ひとつは重度四肢外傷治療に関する研究会に一緒に参加している九州全県の仲間達がAOフェローシップを経験し、その先生たちの報告会を見聞きしたこと、2つ目は長崎医療センターの宮本先生に海外研修の魅力や意義を伺い、自信がない私の背中を強く押してくださったこと、3つ目はアメリカからのトラベリングフェローで日本を訪問していた先生と交流する機会をいただき、直接お話しした際に、その先生から「骨盤や重度四肢の知識をさらに深めたいのであれば、海外を経験するべきだ」と強く後押しされたことでした。 研修先を決めるに当たって、私の希望は「骨盤手術をたくさん見ることができる場所に行きたい」ということでした。私が普段から交流させていただいている骨盤をたくさん治療されている先生の多くがドイツでのフェローシップを経験されていましたが、トラベリングフェローで来ていたUCアーバインのJohn Scolaro先生から「骨盤の勉強をするならシアトルのHarborview Medical Centerかボルチモアかヒューストンのどれかに行くべきだ」とアドバイスを受け、昔から教科書で読んでいたシアトルに行きたいと思い、希望させていただきました。

写真1:観光シーズンでほぼ毎日晴天の過ごしやすい気候(シアトル)

Harborview Medical Centerはワシントン州唯一のレベル1トラウマセンターでワシントン州を含めた5つの州の四肢骨盤脊椎外傷をカバーしている病院です。

6機のヘリコプターと救急車が稼働しながら、連日、手術が必要になる整形外傷患者が搬送されてきます。この施設は28の手術室を備えていますが、整形外傷に対して使用できる手術室は17室あり、7-8例の手術が並行して行われている状況でした。

写真2:Harborview Medical Center病院入り口

アメリカでは我々オブザーバーは手洗いをして手術の助手をすることができませんが、清潔にならないからこそ、細かなテクニックなどをたくさんメモすることができ、いろいろな手術を見て回ることができるというメリットがあります。個人的にはスクラブなしの方が私には合っていたと感じます。最終的に経験することができた骨折手術は寛骨臼21件、骨盤輪26件、上腕骨5件、肩甲骨2件、大腿骨13件、脛骨17件、足関節6件、膝蓋骨1件と多くの手術を見ることができました。

写真3:Nork教授と手術場で

手術自体の印象としては完璧な整復位を追求する姿勢と後輩に対する教育の姿勢に感銘を受けました。Attending doctorと呼ばれる指導医が10名、その元についているFellow doctorが5名、それぞれのチームに数名ずつのResident doctorがつく、という構成になっていますが、多くの四肢骨折の手術は皮膚切開から展開まではFellow doctorが行います。Attending doctorは複数の手術を掛け持ちしながら、渡り鳥のように回っていき、大事なポイントではFellowと交代したり、時には熱心に指導したりしながらFellowに手術を完遂させます。いくつかの手術は7時間から8時間かかっていましたが、その熱意に圧倒されました。骨盤手術に関しては年間200例以上の骨盤を扱っている2人のAttending doctorについてまわりましたが、本当に多くのテクニックを学ぶことができました。

研修以外ではAttending doctorと湖に行ってヨットクルーズを行ったり、食事に行ったりと温かく迎え入れてくださいました。

また、同時期にコロンビアからvisit the expert fellowshipとしてきていた先生と本当に仲良くなることができ、医療だけではなく、色々な議論や話をすることができ、素晴らしい交流となりました。

写真6:Nork教授の自宅でコロンビアから来ている
AO fellowship doctorとNork夫妻とともに

今回のフェローシップに際して、ご尽力いただきましたAO Trauma Japanの皆様、九州大学教授にお許しをいただく際に一緒にお願いしてくださった長崎医療センターの宮本俊之先生、不慣れな海外生活のアドバイスを準備の段階から山ほどくださった長崎医療センターの太田真悟先生夫妻、留守の間のカバーをしてくださった九州大学病院救命救急センターの皆様には深く感謝申し上げます。