University Medical Centre of the Johannes Gutenberg-University Mainz, Germany, 2025/08/04〜09/12 太田 光俊 先生 (北海道大学整形外科)

2025年8月4日から6週間、ドイツ・ヨハネスグーテンベルク大学病院にて研修の機会をいただきましたのでご報告いたします。

ヨハネスグーテンベルク大学は脆弱性骨盤骨折(FFP)の分類を提唱したRommens教授が長年在籍していたことでよく知られています。私は現在の主任教授であるGercek教授率いる外傷整形外科に所属し、研修期間中に約80例の骨折手術に助手として参加しました(うち15例は骨盤・寛骨臼骨折)。

骨盤・寛骨臼骨折ではModified-Stoppa に1st windowを併用することが多く、丁寧かつ正確な操作により関節面の整復がスムーズに行われていました。脆弱性骨盤骨折に対してはIS screwやTITS screwの洗練された挿入手技を間近に見ることができ、仙腸関節固定デバイスiFuseを用いた手術も盛んに行われていました。

左Wegner先生,右Gercek教授

驚いたのは、大腿骨近位部骨折は「来院から24時間以内に手術を行うこと」が法律で義務づけられている点です。そのため休日や夜間でも迅速な対応が徹底されていました。定期手術であっても17時を超える場合は翌日に延期されますが、緊急手術は柔軟に対応されており、週末も一定数の手術が行われていました。

また、広範な骨欠損に対する髄内釘(Precice System)によるBone Transportにも立ち会いました。これは磁力で伸縮可能な髄内釘であり、Ilizarovなどの創外固定器が不要なため術直後から疑似治癒状態にすることができるデバイスで、従来の方法より低侵襲かつ快適に行える点に深く感銘を受けました。

執刀は基本的に専門医以上の医師が担当し、レジデントが執刀することはありませんでした。研究などの学術活動は“勤務外の自己研鑽”と位置づけられており、日本同様、勤務後や週末の時間を使って自主的に研究を進める姿に親近感を覚えました。

渡航前には整形外科の秘書さんとメールでやり取りを行いましたが、事前にB型肝炎、麻疹、Covidなどのワクチン接種証明書の提出を求められました。また宿舎は自分で探す必要があり、私はWunderflatsというサイトで病院から徒歩15分ほどのアパートを見つけました。通勤にちょうど良い距離で、滞在中は快適に過ごせました。

毎週土曜日に開かれる大聖堂前の朝市では、新鮮な果物や野菜、ハムやパンを買い、帰りに立ち寄るカフェでカプチーノを飲むのが小さな楽しみでした。また、ライン川沿いのワインフェスティバルにも参加し、マインツの美味しい白ワインを存分に堪能しました。さらに、FSV Mainz 05の試合を、チームドクターを務めるGercek教授のご厚意で観戦させていただき、地域に根ざしたスポーツ文化の熱量を肌で感じることができました。

隣町のWiesbadenでのワインフェス
Hanke先生と大学のサマーフェスで
Gercek教授とサッカー観戦

言語の壁と克服については、どこの国でもそうだと思いますが積極性が重んじられます。ドイツ語が堪能であれば素晴らしいですが、少なくとも英語で闊達な会話ができることが望ましいでしょう。積極的なコミュニケーションを心掛けたことで、整形外科医や麻酔科医、手術室スタッフとも良好な関係を築けたと感じます。

今回の研修では、骨盤外傷を含めた豊富な症例を経験するとともに、診療体制や文化の違いを直接体験することができました。このような機会を与えてくださった北大整形外科の先生方、そしてAO Trauma Japanの皆様に心より感謝申し上げます。今回の学びを糧に、今後も北海道と日本の整形外科診療・研究・教育に貢献してまいりたいと思います。