University Medical Centre of the Johannes Gutenberg-University Mainz, Germany, 2024/4/29-6/7 田野 敦寛 先生 (横浜市立みなと赤十字病院)

2024年4月29日から6月7日の6週間にドイツ・マインツのヨハネスグーテンベルク大学病院で研修しましたので報告させていただきます。マインツ市はフランクフルト空港から電車で20分ほどにあるラインラント・プファルツ州の人口20万人の州都で、市の東部にはライン川が流れる風光明媚な都市です。大学病院はマインツ中央駅から徒歩15分の小高い丘の上にあり、緑豊かな広い敷地の中に複数の施設が並び、その一角に整形外科・外傷センター(Zentrum für Orthopädie und Unfallchirurgie ; ZOU)があります。ショックセンターとつながっており、州の救急治療の要としてドクターヘリ搬送も盛んです。

写真1.整形外科・外傷外科センター:施設の外観と表札

同施設は前任のRommens教授の頃から数多くの世界各国のフェローを受けて入れており、日本からも過去に多数の先生が留学されています。2022年からは外傷整形外科としてGercek教授が赴任され、整形外科一般(関節・脊椎・腫瘍・小児)のDress教授とともに、10名の上級医(Oberärzte)と20名ほどの専門医・助手(Fach & Assistenzärzte)をかかえる大きな一つの組織となっています。

マインツの医局秘書を通じて留学前~滞在中は様々な相談をすることができました。渡航前に麻疹・水痘・新型コロナなどの各種予防接種証明書の提出を求められましたが、それ以外は特別な準備なく渡航できました。決められた宿泊先はないので、民泊アプリで探し、病院から徒歩30分程度の自然豊かな郊外のアパートに滞在できました。ドイツは電車やバス、電動自転車などの交通手段は非常に充実しており、慣れればスマホアプリで簡単に利用できました。

研修については先輩方のレポートのとおりで、朝7時45分、夕方は15時30分(金曜は15時)からカンファレンスが始まります。全体アナウンス、新規入院患者のプレゼン、手術症例報告、入院症例の経過相談、翌日以降の手術スケジュール調整と人員配備などが1時間ほどで手際よく行われます。カンファは基本ドイツ語ですので、提示されるレントゲン画像を見ながら、いくつかの翻訳アプリを試用しつつ参加していました。会話のスピードや音量を拾って瞬時に翻訳する技術にはまだ改善の余地がありそうですが、ある程度の単語と内容は理解でき、アプリの発展が今後期待できそうです。研修中、気になることはスタッフに聞けばその都度英語で教えてくれました。水曜朝は30分ほどのレクチャーがあり、滞在中は老年病内科による高齢者マネジメントや血管外科による肺梗塞症治療などの話がありました。夕方のカンファ後は、担当医が上級医に入院患者の相談をしつつ、たまに病棟回診について回っていました。ドイツでは看護師などの医療スタッフ不足が問題となっており、近年は改善されつつあるも、今でもたまに入院制限をせざるを得ない状況だそうです。日本だったら数日くらいは入院させるような骨折患者でも、外来日帰り手術で対応されていました。保険事情の違いこそあれども、働き方改革や人員不足に悩まされる日本も今後そうなりつつあるのかもしれません。

整形外科・外傷センターには専用の入院用手術室(4室)と外来用手術室(2室)があり、絶え間なく回転していました。高齢者大腿骨骨折や開放骨折などは夜間休日に当直スタッフが緊急手術対応していました。ZOUの医師スタッフ数は多いので、常に忙しいというわけではなく、臨床・研究・教育のバランスが取れている印象を持ちました。手術室が整形外科・外傷専用であるためか、麻酔科医師や手術看護師、放射線科技師スタッフは、整形外科・外傷の知識が豊富で、非常に洗練された動きをされていました。研修中は主に入院用手術室にこもって、気になる外傷を中心に計60件超の手術にScrab inして、執刀医より直接的に手技やプロセスを勉強させていただきました。

写真2.ZOUチームとカンファレンス室にて

Gercek教授は日々の多忙なスケジュールの合間を縫って、多数の手術を執刀されていました。私の研修期間中も骨盤寛骨臼骨折手術をはじめとして、脊椎外傷の頸椎 pedicle screw挿入、橈骨遠位端骨折、人工肘関節置換術、手指骨折のplate固定、植皮など、幅広い分野に対してメスを握りつつ、若手医師にも技術指導している姿は圧巻でした。Gercek教授のPHSの着信音が某スパイ映画のテーマソングであるところにユーモアを感じましたが、ミッションを次々にこなされる姿に似合っていました。個人的には、寛骨臼骨折に対する前後方展開の手術に助手として参加でき、長時間に及ぶ大手術でしたが、手術体位の細かなセッティングから仮固定のK-wireの位置や筋鉤のかけかたに至るまで、懇切丁寧にご指導いただき貴重な経験となりました。

整形外科と外傷が協力体制をとっているため、関節外科医による外傷手術にも多数入ることができました。高齢者上腕骨近位端骨折に対するリバースショルダーやTHA周囲骨折や高齢者寛骨臼の粉砕症例に対するCageを用いた一期的THAなど、専門分野ならではの圧倒的なテクニックと速さを体験することができました。外傷専門ではなくても、基礎となるAO骨折治療の理論については理解が得られており、関節外科や脊椎、腫瘍の先生に至るまで広く浸透しており、当たり前のように実践されていたのが印象的でした。

写真3.背の高い整形外傷のGercek教授(左)と脊椎外科のNowak博士(右)

今回の研修で私のスーパーバイザーであるOberärzteのArand先生は高齢者骨盤骨折に対する経皮的スクリュー固定術に長けており、細やかな透視のチェック方法や手術手技を教えていただきました。目新しいものとしては、iFUSEインプラントと呼ばれるハイドロコーティングされた三角柱のインプラントをみかけました。後日調べますと、日本国内でも使用例があるようですが、マインツでは、高齢者の脆弱性骨盤輪骨折において固定強度を高める目的でIS screwの代替として用いられていました。臨床成績に関してはまあまあよいそうで、現在研究中とのことですが、感染した場合に抜去困難であるなど課題も多いようです。

写真4. 高齢者脆弱性骨折に用いられたiFUSE(三角柱インプラント)

手術室は昼休みなく連続して入れ替えがあるので、決まった休憩時間はありませんが、空いた時間には、ドイツ名物のプレッツェルを食べながら休憩室で手術看護師さんと世間話をしたり、Oberärzteの先生について回り、医局で過去の症例をみて議論したり、研究について教えてもらったり、ERのオンコールで呼ばれて帯同させてもらったりして過ごしていました。研修に慣れたころにはOberärzteの先生方にマインツ市内のレストランに夕食に連れて行ってもらいました。日本とドイツの医療の違いなどについて色々と聞かれ、意見を交わしあいながら有意義な時間を過ごせました。年齢も近い彼らのキャリア形成の話は大変興味深く、ワインを片手にフランクな内容の話も聞くことができました。

5月のヨーロッパということで気候も良く日も長いことから、アフター5や休日は積極的に出かけていました。マインツの先生方はオフでも仲が良く、Gercek教授は地元のサッカーチームに所属しており、Arand先生はレガッタチームの国内女子優勝経験者であり、今でもOberärzteの先生方とチームを組んでは、たまに大会に出場されているようです。私も滞在中に運動しようと感じ、ちょうど開催されていたマインツ市内のハーフマラソン大会に飛び入り参加してヘロヘロになりながらも何とか完走しました。街の景色を見る余裕はありませんでしたが、コロナ明けのにぎやかな雰囲気を楽しむことができました。ドイツといえばビールを思い浮かべますが、ライン川流域は有名な白ワインの産地で、市内広場では定期的にワイン祭りが開催されており、旬のホワイトアスパラガス(spargel)とともにワインを堪能できました。マインツ郊外に足を延ばせばブドウ畑が辺り一面に広がっており、雄大な素晴らしい景色に出会うことができました。

写真5. マインツ市内のレストランにて Arand先生(左)、Wollstädter先生(中央)

あっという間に6週間が過ぎてしまい、気まぐれなドイツ鉄道(DB)に慣れたころには帰国となってしまいました。今回の研修に関して、様々な方々に大変お世話になりました。言語が通じづらい中でも、外傷治療に対する情熱を伝え、私を積極的に暖かく迎えいれてくれたマインツ大学のZOUのスタッフの皆様に感謝を申し上げます。また、このような機会を与えていただいたAO Trauma Japanの皆様、渡航前に様々なアドバイスをいただいたfellowshipの先輩方、私の不在期間中に外傷治療を継続いただいた横浜市立みなと赤十字病院の整形外科スタッフの皆様に感謝を申し上げます。今回の貴重な経験を、今後の日常診療や後輩指導に役立てたいと思います。

写真6. マインツ市近郊のリューデスハイムに広がるブドウ畑