University Hospital Munich, Ludwig-Maximillian-University, Germany, 2023/10/16 - 11/24 髙田 大輔 先生 (京都岡本記念病院 整形外科)

2023年10月16日から11月24日までの6週間、ドイツ・ミュンヘンのUniversity Hospital Munich, Ludwig-Maximillian-University (LMU)での研修に参加させていただきました。

LMUはドイツ国内第2位の規模を誇る大学病院で、市街中心部のCampus Innenstadtと郊外のCampus Großhadernに施設を構えています。自分はmain hospitalである後者での研修に参加しました。病院の外観は堅牢な要塞のようであり、1400床を超える病床や、約60名の整形外科スタッフが勤務する規模の大きさに圧倒されました。全部で36室ある手術室のうち6室が整形外科に割り当てられており、日々15〜20件の手術が効率的に運営されています。LMUではMuskuloskelettalen Universitätszentrums München (MUM)という名称で整形外科班・外傷班が統合運営されており、上級医達は外傷治療だけでなく変性疾患の手術も行うなど、幅広い技術を持っていることが印象的でした。

写真1. 巨大なCampus Großhadernの外観

左の建物には外来・病棟が入っており、手術室や救急外来・ICUは今も建設中の右側の建物に配置されています。

研修は毎朝7:15の病棟回診から始まります。整形外科の病棟は複数あるため、回診もいくつかのグループに分かれて全患者の診察が行われていました。7:40からはカンファレンスが行われ、当直のレジデントたちが夜間の救急搬送症例を提示していました。その後は多発外傷患者などが入院するICU回診に参加し、8時過ぎには手術室に向かうという流れでした。手術開始が遅い日は病棟でコーヒーを飲みながら雑談する時間を設けることができ、あるレジデントはこの時間を”unofficial conference”と表現していました。勤務終了後はプライベートを優先する社会環境の中にあって、この時間帯は日本でいう”飲み会”の役割を果たしているのかもしれません。

写真2. Morning conferenceの様子

映画館のような広いスクリーンがある講堂で毎朝救急症例がdiscussionされていました。

自分の研修の中心は手術見学であり、手洗いして参加した手術は多岐にわたりました。ドイツも日本と同じく高齢化社会を迎えており、脆弱性骨折症例が多くを占めていました。骨折の手術内容や治療方針はAOの原則に基づいており、日本での臨床経験が間違っていないことを確認できました。一方で、高齢者骨折治療における人工関節置換術の頻度の高さは印象的でした。例えば高齢者の上腕骨近位部4-part骨折では、骨接合術でなく基本的にRSAが選択されており、これはドイツ人特有の合理性を反映しているのではないかと感じました。最も勉強したかった骨盤輪・寛骨臼骨折については滞在中に約10件経験できました。Modified Stoppa approachによる骨接合のみならず、経皮的screw固定、spinopelvic fixation、高齢者寛骨臼骨折に対するAcute THA等、様々な手技を学びました。特に重症の骨盤・脊椎外傷はCarl Neuerburg教授が中心になって治療されており、症例ごとに治療戦略や手術手技のpitfallを説明していただき非常に勉強になりました。Common fractureに対しても、fibula nailやpatella plate等、日本では未採用のインプラントも目にすることができたのは興味深い体験でした。Gustilo3B, 3Cといった重度四肢外傷に対しては単独術者によるorthoplastic surgeryではなく、他科とのコラボレーション治療が行われていました。軟部組織再建は形成外科、膝窩動脈損傷は血管外科医が担当しており、これらの手術にも執刀医に交渉して参加・見学することができました。

写真3. 外傷部門の教授であるDr. Carl Neueuburgと

特に骨盤輪・寛骨臼骨折について丁寧にご指導いただきました。

毎日14:45からは術後カンファレンスがあり、当日の術後症例と翌日の術前症例のプレゼンが行われ、その後は業務終了となります。自分は興味のある症例があれば手術に参加していましたので、術後カンファレンスへの参加機会はさほど多くありませんでした。定時の16:30を超えるような手術は翌日以降に延期されており、これには日本との大きな差を感じました。ドイツ社会では顧客 (患者)よりも労働者の環境が圧倒的に優先されており、この風土には大きなカルチャーショックを受けました。しかしこうした環境の中でも圧倒的なマンパワーと施設規模によって効率的に診療が行われており、医療資源の集約化の重要性を改めて実感しました。

冬のドイツは日没が早く、病院を出る頃には既に空が薄暗くなっていました。しかし日本と比べて圧倒的にプライベートの時間を多く確保できたので、夜にはドイツビールを味わい、土日にはミュンヘン市内やドイツ国内各地の観光を楽しむことができました。ブンデスリーガ11連覇中のFCバイエルン・ミュンヘンの試合観戦、バイエルン国立歌劇場でのオペラ観劇なども良い思い出になりました。記録的な円安は厳しいものでしたが、それ以上の価値のある経験を得られたと思います。

今回の研修を通じて、今まで漠然としたイメージしかなかったドイツの医療事情を肌で味わうことができました。また多くの先生方から指導いただいただけでなく、同年代の医師が第一線で活躍している姿に触発され、外傷治療に対するモチベーションに繋がりました。自身の視野が広がったことを実感しており、AO Trauma Fellowshipへの参加を考えている先生方にはぜひお勧めしたいと思います。

最後に、今回のfellowshipを支えてくださった滋賀医大今井晋二教授をはじめ、AOの先生方、京都岡本記念病院の皆様、そして単独での渡航を許可してくれた家族に心から感謝します。この経験を活かし、より良い外傷診療が行えるように努力したいと思います。

写真4. 最終日に整形外科ドクター達と

6週間フレンドリーに接していただき充実したfellowshipを送ることができました。