University medical center Hamburg₋Eppendorf, Germany, 2024/06/09~06/27 光石 直史 先生 (彦根市立病院 整形外科)

この度、令和6年9月2日~27日までの4週間、ドイツハンブルグにあるUniversity medical center Hamburg₋Eppendorfに、AO Trauma Visit the expert Fellowshipとして研修する機会を頂きましたのでご報告させて頂きます。以前の先生方の報告にもあるようにAO Trauma Visit the expert Fellowshipは、ある分野のスペシャリストにあらかじめコンタクトを取って受け入れが可能な状態を得てから、Fellowshipの募集に応募するというもので、それがAO Trauma Fellowshipとの大きな違いで、AO Trauma Fellowshipの時のように研修先との調整を行ってくれるコーディネーターが基本的には存在せず、その後の受け入れ先とのやり取りや、住むところの手配なども独力で行わなければならないというところがその特徴です。

今回このFellowshipに応募しようとした理由についてですが、近年、脛骨高原骨折のおける後内側、後外側骨片の整復固定を必要とするケースに遭遇することが多く、治療コンセプトの構築に難渋する経験が増えていた中、2018年香港でのAO Trauma Courseで、韓国のProf Dr JK OhにHug Plateを使用したModified anterolateral approachによる後外側骨片の整復固定法を中心に実技指導いただく機会を持つことができたことがきっかけで、後方骨片の治療に精力的に取り組むようになったことがそのはじめとなります。その後も日本で開催されるAO Courseや骨折治療学会で来日頂いたときなどに症例相談を受けていただくなどつながりを頂き、かなり積極的に脛骨高原骨折に取り組むことができるようになりました。ただ、当骨折は自施設にそれほどたくさん集まるわけでもなく、またケースバイケースで悩ましい症例も多く、症例相談以外に短期間にたくさんの症例を経験勉強できる方法がないものかと熱望し方法を模索しておりました。

骨折治療という臨床性質上、日帰りや数日の手術見学という方法では現実的に難しく、膝周囲の外傷、特に、脛骨高原骨折をたくさんやっている施設がないかを調べていたら、AO Traumaのmy AOサイトでTibia head groupを主宰しているProf Dr Karl-Heinz Froschのサイトを見つけ、あつかましくもConnectを依頼したら快く受け入れていただき、またダメもとで研修の受け入れをしていただけないかという依頼をしたところ快くWelcomeの返事を頂き、今回の応募の流れとなりました。そのあとは、むこうの大学の秘書さんを通じてスケジュール調整、必要書類の準備を進めていったのですが、メールのやり取りが直前までなかなかうまくいかず、Fellowshipの正式なスケジュール決定が開始1か月前にやっと通知されるなど準備がハラハラドキドキで前回2017年に参加したAO Trauma Fellowshipが、コーディネーターのおかげであまり苦労なく調整していただけたことに今になって感謝する次第です。結局状況を見かねたAO Trauma Japan本部の秘書さんに介入していただき、なんとか出発にこぎつけられたことは感謝以外の何物でもありません。

さて、今回の研修ですが、AO Trauma Japanから、事前に研修におけるLearning Objectの設定を求められ脛骨高原骨折治療について詳細目標を報告し、現地で研修開始となりました。ハンブルグはドイツ北部にあるベルリンに次ぐ第2の都市で、人口は約170万人ほどです。University medical center Hamburg₋Eppendorf は、Hamburg国際空港から電車で30分程でアクセスできる便利なところにあります。

写真1: University medical center Hamburg₋Eppendorf

整形外科は、外傷外科、脊椎外科、骨軟部腫瘍外科があり、整形外科外傷外科の中に、膝関節外科、肘関節外科、手外科などの専門クリニックをもっています。今回は、膝関節外科チームに所属し、手術見学を中心に研修を行うことになりました。毎朝7時からカンファレンスを行い、その後8時から手術開始という流れでした。膝関節外科は骨折以外にも複合靭帯損傷再建、骨切り術など様々な手術が行われておりました。ただ基本的には、私の興味に合わせて自由に研修してもらって構わないと許可を頂きましたので、手術見学を希望していた脛骨高原骨折の症例を中心に手術見学を行いました。しかし、いくら有名病院といっても研修の短期間にうまく症例が集中することはやはり難しいようで、私の前にアメリカから見学しに来たDrは、2週間の滞在で1件もなかったということを聞きました。私の滞在中1か月での症例は4例でした。後内側、後外側骨片の併発症例がほとんどで、後外側骨片に対するfemoral epicondyle osteotomyを併用したExtended approachや、微小陥没骨片に対する鏡視下併用の整復術など、同骨折に対する様々な戦略を直に見ることができました。

一番期待していた腹臥位でのFrosch Approachによる後外側骨片に対するバットレスプレーティングを必要とする症例は体験できませんでしたが、研修中にProf Froschが、my AOにプレゼンテーションした動画を見て勉強することで補完することができました。また臨床的に疑問に思っていたことを質問すると論文を踏まえて明快に答えていただきました。提供いただけた資料(論文、動画など)も踏まえると学ぶには十分な症例数かなと思いました。また、当然他の外傷も別の部屋で行われており、興味深い難症例(肘関節脱臼骨折 ピロン骨折、インプラント周囲骨折など)がたくさんあり、今回は病院との契約の関係ですべて見学することに徹しました。田舎の病院に勤めていると外傷手術は自分でするもので、冷静に他人が手術するのを見ることがほとんどなかったため、エキスパートが執刀する様々な外傷手術をたくさん見ることができたこともよい経験でした。

写真2: Prof Dr Karl-Heinz Froschと筆者

今回のFellowshipは、Learning Objectをあらかじめ設定し、経験したことをなるべく早く記憶に留めておき、知識の整理を促すようなオンラインジャーナルという部分がFellowshipサイト内にあって、特に今回経験した症例と基本的な知識の整理などを1週間ごとに行っていくことと、最後にHost centerを評価することが修了書を発行する条件になっているようでした。AO Trauma JapanによるFellowshipにおける効率的な学習を促す、素晴らしいシステムだと思いました。今回も大変学びの多い研修となりました。

最後に、このような機会を頂きましたAO Trauma Japanの皆様、長期出張の快諾を頂きました岐阜大学整形外科 秋山治彦教授、彦根市立病院整形外科 堀裕彦先生はじめスタッフの皆様に感謝申し上げます。