AO Trauma Faculty Education Program (FEP) Hong Kong, 2017/6/3-4 松井 健太郎先生 (帝京大学)
2017年6月3日から4日に香港で行われたFaculty Educational Program(FEP)に参加しましたので、体験記を報告します。
FEPは香港で開催される1.5日間の“Live event”、コース参加の5週前からネット上で行う事前学習/準備の“Online preparation”、その後1週間の“Online follow-up”からなります。参加するにあたり、私の周りにいる過去の参加者にFEP印象を伺ったところ、「事前学習が大変だったが、行ってよかった。」とおっしゃる方がほとんどでした。ちょうど日本のAOコースで、Practical exerciseやORPなどの内容の改変作業が行われようとしていることもあり、本コース参加への動機付けはバッチリだったのですが、やはり“Online preparation”で一度ならず心が折れかけました。しかし、Live eventが終わった現在は、過去の参加者と同様、「参加してよかった、良い経験だった。」と思える素晴らしいコースであったと思います。
“Online preparation”は香港でのコース開催の5週前から始まります。その詳細は、昨年参加された土田、小林両先生の報告が詳しいので参照してください。今回もほとんど一緒であったと思います。1週ごとに読み物と、オンラインクイズ、掲示板への意見投稿がおもな作業です。1週目はIntroductionで、自己紹介と簡単なアンケートのみでしたが、2週目が私にとって一番の障壁でした。第2週のテーマはHow people learnでした。「成人教育とは如何なるものか」を学ぶために提供される読み物を読み、オンラインクイズに答え、掲示板でディスカッションをしないといけません。ここで出てくる英語が厄介です。日常会話でも臨床医学英語でも出てこない教育用語が出てくるため、理解にかなり難渋します。「単語を全て訳しても結局意味が理解できない」という状況になりました。結果として、この週から落ちこぼれることになり、本来は毎週こなしていかなくてはならない課題を2週目で早々と諦め、5週目に入り慌ててやることなりました。ですが、この方法は決してお勧めできません。3、4週目の課題として、Live eventで自分がプレゼンする資料を準備という作業が必要になります。これら全てを1週間でやるのはかなりきついので、これから参加される方は着実に1週ごとの課題を期限内にやりきる事をお勧めします。
Live eventは香港で1日半かけて行われます。日本からの移動は、先方から提案された通りに羽田発のCathay Pacificで行きました。日本からのスターアライアンスでの手配を頼んでみましたが、適当な時間の便がなく諦めました。もう一人の日本からの参加者である、札幌徳洲会の上田先生も幸い同じ便でしたので、羽田空港から道中をともにしました。香港国際空港ではホテルからの迎えが待っており、リムジンで宿泊先であるMira Hong Kongへ連れて行ってくれます。香港はチップ文化があるとのことを、車内で上田先生が教えてくださいましたが、二人とも適切な額の香港ドルを持っていなかったため、知らなかったことにしました。ホテルに到着したのは22時ごろでしたが、夜でも30度近くある香港の暑さもあり、二人でビールを飲もうということになりました。二人とも翌日からのLive event がとても心配だったので、ホテルのバーで済ますことにしました。ホテル5階の中庭が洒落たバーになっていますが屋外でした。蒸し暑い中それぞれ2本のビールを飲んで合計400ドルも支払いました。次に行かれる方はご注意ください。ただ、そんなホテルだけあり、部屋にポケットワイファイが設置されています。わざわざ日本からレンタルしたり、現地でSIMを買う必要はありません。これも今後参加される先生には重要な情報です。ただし、観光などホテルから出かける時間はほとんどありませんので、そもそも不要です。
Live Event1日目は朝7:45からホテル内の会議室でスタートしました。それまでにホテル内で朝食を済ませて参加しましたが、会議室ロビーには休憩時間ごとにコーヒーと、軽食というには豪華な食事が配置されますので、万が一寝坊してもお腹がすいて困ることはなさそうです。最終日にはなんと屋台までありました。ちなみに、そこの“マカオエッグタルト”は絶品でした。
Faculty は3名、参加者はアジア各国から17名でした。韓国、インドネシア、台湾、香港、シンガポール、マレーシア、フィリピン、日本という構成です。参加するにあたり、「多国の先生は、よほど英語がペラペラで、成人教育についてのトレーニングは当然のように受けており、しかもオシが強い人ばかりなんだろうなぁ」と勝手に想像していました。しかし、始まって時がたつほどに、それが杞憂であったことがわかりました。もちろん英語を日常生活で使用している国の人もいますが、皆が流暢な英語を話すわけではありませんでした。また、皆紳士で控え目で好感のもてる人ばかりでした。会の最後には、同じFEPを受講した同士という雰囲気が生まれました。これもFEPの重要なポイントなのだと思います。余談ですが、人口の多い中国、インドはそれぞれの国でFEPを開催しているため、香港でのFEPには参加しないようです。 初日の最初は、「Introduction」セッションでした。このセッションは唯一車座になっての座学です。Hong KongのLap Ki Chan先生の司会で、「今までで受けた学習機会でもっともよかったものと悪かったもの」を参加者がプレゼンしていきます。昨年の土田、小林両先生は「プレゼンする機会なく済んだ」と書いていらしたこともあり、私も聞き役に徹することを強く心に決め立候補しませんでしたが、上田先生はしっかりとプレゼンされていました。参加者の経験談を通して、成人教育の7つの基本原則を再度共有することがこのセッションの主題でした。ここで最も印象に残ることといえば、ホテルのエアコンがパワフルで、会議室は異常に寒く、半袖で参加していた私はこのセッションの途中から凍えながら時が過ぎるのを待った事です。20分のcoffee breakでは、私を含め多くの参加者がジャケットを取りに部屋に戻っていました。適切な学習環境が重要であることを学びました。
初日2つ目のセッションは「Giving a lecture」でした。ここから参加者を2つのグループに分け、別々の部屋でセッションが進行します。ここでの課題は、事前に準備していた7分間のレクチャーを行うこと、そのフィードバックを受けること、他の参加者のレクチャーを評価者として聞きフィードバックをすることでした。事前学習で学んだ、良いレクチャーを行うためのポイント、フィードバックの4ステップについて会得することが目的でした。
評価者からのフィードバックは、以下の定型(4ステップ)的に行うことが徹底されます。最初のステップでは、「What went well ?」と発表者に尋ねます。その回答に呼応する形で、評価者が考える「What went well ?」を発表者に伝えるのが次のステップです。第3のステップは、「What will you do differently next time?」 と参加者に尋ね、最後に評価者が考える「What you should do differently next time」 を発表者に伝えます。「What went well ?」は「うまくいったところは?」というのが日本語訳だと思いますが、多くの日本人はそんなこと聞かれ慣れてないので、気持ち悪がるかもしれません。何れにしても最初の2ステップでは、いわゆるポジティブフィードバックと、相手のコメントに対してのポジティブなreflectionが重要だと理解しました。第3、4のステップでは、「もう一度やるとすればどこを変える?」と聞くことになります。ここで初めて変更するべき点を詳らかにするわけですが、決してネガティブフィードバックになってはいけません。さらには、「こうすればよくなる」というようなコメントもバツです、間接的に今回のプレゼンがダメであったということになります。単に「次回どのようにしたいか?」という話し方に徹することが重要です。この一連のフィードバック方法は技術です。しかも、これまで習ったことのない技術でした。身につけるためにも。AOコースのみならず、日々の教育業務でも実践していきたいと思いました。
昼食を挟み、午後のセッションは「Facilitating small group discussion」でした。ここでの課題は、事前に準備した10分間のSmall Group Discussion(SGD)を他の参加者を対象に行う事、他の参加者が行うSGDを評価することです。レクチャー同様ここでも重要なことは、”Learning outcome”と”Take home message”設定することです。議論のゴール明確にするということになります。SGDでFacultyがすべきことは、症例に基づいたディスカッションを通して、そのゴールに向かってただひたすらにすすむだけです。時に静まりがちな、SGDいかに活性化するかを考えていかなくてはならないと感じました。
1日目の最後は「Summary」セッションでした。4人ずつのグループに分かれ、一日を通して何を学んだかを話し合い、ホワイトボードに書き出し、最後に皆でそれを見てまわりながらディスカッションをし、Welcome dinnerに向かいました。レストランはMira Hotelと同じビルの中にある中華料理店でした。ちなみに下の階には麺屋武蔵や無印良品があり、日本かと錯覚しました。料理はいずれも非常に美味しく、しかも大量に出てきます。FacultyやAOのスタッフと大きな円卓を囲み、非常に楽しい時間を過ごしました。このような場で、英語で社交的に交流することは、時にコース以上に疲れますが、良い経験です。
2日目は半日で終了でした。メインは「Teaching practical skills」セッションでした。ここでの実技は、二人一組となり20分のPractical exercise(PE)講師を行う事と、他の参加者のPEを評価することです。それ以外の時はPE受講生役として参加して、悪い参加者を演じて講師を困らせます。PEはこれまでのレクチャーやSGDと比べて、格段に受講生の自由度が高くなるため、様々なハプニングが生じ得ることを実感しました。ここでもやはり重要なことは、設定したLearning outcomeに向かった指導を厳守し、参加者の知識を実践的なものにすることだと理解しました。最後は1時間のサマリーセッションで、「このコースで学んだ一番のこと」を共有しあって終了です。お土産として、自分のレクチャー、SGD時の映像を記録したUSBが配布されます。昼食を食べて、また空港まで送ってもらい、帰国の途につきました。コース後の第6週目は、post-courseとしてのe-learningがあり全てが終了になります。
終わってみれば、非常に楽しく有意義な会でした。これまで学んだことのない、様々な教育技術と哲学を知ることができました。
今回、参加する機会を与えていただいたAO Trauma Japanの皆様に深謝いたします。