John Hunter Hospital, Australia, 2017/7/3-8/11 城下 卓也先生 (熊本赤十字病院)

2017年7月3日から8月11日までの6週間、オーストラリア, NewcastleにあるJohn Hunter Hospital(JHH)に留学する機会を得たので報告させていただきます。
現在、整形外科、国際医療救援部に所属しながら、主に外傷手術、人工関節手術を中心に行っており、今回のFellowshipの目標は、オーストラリアの外傷診療の流れを経験すること、骨盤骨折を含む整形外科外傷手術と人工関節周囲骨折について学ぶこととしました。

NewcastleはSydneyの北160㎞に位置し、人口44万人のオーストラリアでは7番目に大きな都市です。石炭の輸出港として重要である一方で、内陸に30分ほど行ったところにあるHunter valleyはワインの産地として有名です。現地は冬でしたので海には入れませんでしたが、サーフィンでも有名な場所です。John Hunter Hospitalは、Newcastle郊外の自然保護区が隣接するのどかな環境にあり、New South Wales(NSW)州の北東部のHunter New England 地区(180万人)をカバーする796床の総合病院です。
重症外傷を多数受け入れているLevel1外傷センターであり、NSWでは唯一成人と小児の外傷を受け入れることが可能な施設です。手術室は15室あり、整形外科は5室を使用することができます。うち4室が手の外科、人工関節、小児整形、肩外科、外傷後再建手術などに使用され、1室が整形外傷手術に対する緊急手術のために毎日24時間使用可能です。

Fellowship期間中は、外傷部門の部長でありNewcastle大のTraumatologyの教授でもあるBalogh先生がFellowshipの責任者として対応してくださりました。
Balogh先生は、骨盤骨折、四肢外傷手術を行う一方で、重症外傷の質の管理、研究、教育を行っています。外傷部門にいる整形外科医は2名ですが、整形外科には52名(うちコンサルタント20名)の整形外科医が所属し、年間3000件程度の外傷手術を行い、その他人工関節、スポーツ、小児整形外科などを含めると1万件/年程度手術を行っています。整形外傷on callは6チームに分かれており、当日または翌日には手術が行われていました。
月曜日と木曜日には、Orthopaedic trauma X-ray meetingがあります。毎回、術後症例、検討症例、申し送りが30例ほど提示されます。Fellowship初日は、このカンファレンスから始まりました。若手医師による早口のプレゼンテーションと指導医によるディスカッションが繰り広げられており、初日からオーストラリア英語の洗礼を受けた形となりました。徐々にオーストラリア英語に慣れてはいきましたが、リスニングには最後まで苦労しました。

初日のカンファレンス後は、Balogh先生の両側寛骨臼骨折(横骨折+後壁)の手術がありました。Kocher-Langenbeck approachでの展開から整復は早く、後壁と後柱にプレートが迷いなく当てられ4時間半で両側の手術は終了しました。その後の6週間で9件の骨盤輪骨折、寛骨臼骨折の手術をみることができました。寛骨臼骨折は、骨折型に応じてModified Stoppa + Ilioinguinal approachやK-L approachで広範囲に展開してプレート固定が行われていました。前柱には日本では見ることのできないQuadrilateral surface plateが当てられていました。一方、骨盤輪骨折については前方を恥骨プレートまたは創外固定(Low route)で安定化させ、後方をB型骨折については透視下にISスクリューで固定し、転位のある仙骨骨折については後方からプレート固定を行っていました。短時間での低侵襲手術で、術翌日には積極的に離床させていました。今回のFellowshipの目的の一つが、低侵襲での骨盤スクリュー固定でしたので、期間中に5件のISスクリュー固定を経験することができ、そのうち1件はsacral dysmorphism(仙骨異形成)の症例であったため、より理解を深めることができました。骨盤骨折以外にも、多発外傷、粉砕した関節内骨折、インプラント周囲骨折など症例には事欠かず、Balogh先生以外の整形外科の先生方にも快く手術に受け入れていいただきました。また、Balogh先生は肋骨骨折手術も多く行っており、Flail chestの症例には積極的に肋骨固定を行っていました。側方切開で大きく展開し肩甲骨を挙上させて、3-4本の肋骨をプレートで固定していました。
毎週火曜日は、Balogh先生の外来日でした。過去の手術症例がフォローされているため、6週間で経験した症例に加えて、過去の難治症例を見ることができました。オーストラリアならではというところでは、テレビ電話での遠隔外来診療が行われており非常に興味深かったです。また、研究活動も活発に行われており、外傷、整形外科の医師、看護師の研究の進捗状況がプレゼンされ、毎週のように議論されていました。期間中に、外傷カンファレンスと整形外科カンファレンスで発表する機会があり、日本赤十字、熊本赤十字病院の紹介、難治症例(Polytrauma、両側寛骨臼骨折、Pilon開放骨折など)について報告させていただきました。日本で行った両側寛骨臼骨折症例とBalogh先生の症例を比較してディスカッションすることができ、良い経験となりました。

また、同時期にスペインからのフェローが滞在しており、手術、外来、救急とほぼ一緒に行動していたため、オーストラリア、スペインと日本の医療システム、手術適応や手技、医師の働き方などを比較することができました。スペインと日本の医師と比べて、オーストラリアでは整形外科と麻酔科の人数が多いためか、手術が余裕を持って行われているようでした。多くの手術を行いながらも、勉強会、研究、ディスカッション(雑談)の時間などが十分に確保できているようでした。また、オーストラリアでは整形外傷の位置づけが高いと感じました。外傷部門では、整形外科医であるBalogh先生が部長を務め、頭部、胸腹部外傷を含めた多発外傷を、救急での初期治療からICUでの集中治療、整形外科での機能再建手術までを管理しています。当院における外傷診療では救命に重点が置かれ、整形外科外傷は後回しにされる傾向がありますが、社会復帰を含めた予後を考えると整形外科医が多発外傷診療をコントロールすることは理にかなっていると感じました。

6週間のAO Trauma Fellowshipでは、手術手技のみならず、医療システムや英語での診療など多くのことを学ぶことができ、今後の整形外科医としての立ち位置を改めて確認する良い機会となりました。今回のオーストラリアでの経験を、日本での日々の外傷治療に生かしていきたいと考えています。最後に、貴重な留学の機会を与えて下さいましたAO Trauma Japan理事長 澤口毅先生をはじめAO諸先生方、快く送り出してくださった熊本赤十字病院の皆様に深く御礼申し上げます。