Germany, 2015/2/2-3/13 北田 真平先生 (兵庫県立西宮病院)
2015年2月2日から3月13日まで6週間のAO Trauma Fellowshipの機会を頂き、ドイツのMainzにあるJohannes-Gutenberg UniversityのTrauma Centerで研修させていただきましたので、ご報告致します。
MainzはFrankfurtからローカル線で40~50分の距離にある人口20万人程度の小さな街です。街の中心部にはドイツ三大聖堂の一つに数えられるマインツ大聖堂が雄大にそびえ立ち、またその近くには画家のシャガールが晩年ステンドグラス制作に勤しんだ聖ステファン教会もあり、宗教色の強い街です。また街中からほど近い場所には、雄大なライン川が滔々と流れ、その流域に数あまた残存する古城を眺めることができるライン川下りの起点となっています。
Johannes-Gutenberg University Hospitalは市街地から徒歩15分程度の場所にあり、広大な敷地の中には診療科ごとの建物が独立して建てられています。Trauma Centerは最も背の高い診療棟の中にあり、屋上にはヘリポートも有していました。近郊から内因性疾患の患者も含めて1日4-5件のヘリ搬送があるとのことでした。
Trauma Centerは元々独立した診療科でしたが、2013年4月に整形外科学講座と統合され、一体となって教室の運営がなされています。Trauma部門のトップはRommens教授、整形外科のトップはDrees教授で、上級医であるOberarztは10名、その下で働くアシスタント医が20名ほど在籍しています。主任教授のRommens先生は2012年に脆弱性骨盤輪骨折(FFP: Fragility Fracture of Pelvis)の分類を提唱され、本邦でもその有用性から急速に分類を使用する機会が増えてきました。私が勤務する病院でも、高齢者の骨盤輪骨折が増加し、その治療方法に思い悩むことがありましたので、Fellowshipのお話を頂いたときに、まずRommens先生の下で勉強したいと思い、申込みをさせて頂きました。Rommens先生は非常に紳士的な雰囲気の漂う先生で、凛とした佇まいからは威厳を感じました。その一方で看護師やリハビリスタッフにも気さくに声を掛けておられ、とても親近感を感じる先生です。
2月2日よりFellowshipが始まりましたが、私が研修する期間は他の国からの研修のオファーは全てブロックしてもらい、6週間の研修期間を独り占めできるという非常にありがたい環境を提供して頂きました。
業務は毎朝7時半のカンファレンスから始まります。前日の予定手術および夜間に行われた緊急手術の症例の検討が行われ、30-40分程度で終了します。病院全体の業務も7時半から開始され、全身麻酔の導入が終わる直前に若手医師は手術室から呼ばれ、カンファレンス室から出ていきます。カンファレンス終了後は手術室へ向かい、自分が入りたい手術室へ見学行きました。手術室は地下1階にTrauma Center・整形外科専用の手術室が4部屋、外来に日帰り手術用の部屋が1室あり、1日平均20件程度の手術が行われていました。MainzのTrauma CenterはいわゆるHigh Volume Centerではなく、外傷の手術は1日3-4件程度で、日によっては外傷の手術が無い日もありました。外傷症例が無い日は、整形外科の手術に参加させて頂きました。大学病院ということもあり、感染人工関節のRevision手術や悪性骨軟部腫瘍の手術にも参加させて頂く機会があり、Trauma以外の勉強もさせていただきました。16時からは翌日の手術症例のX線カンファレンスが放射線科と合同で行われ、これが終わると当直医師以外は帰宅するので17時には病院には誰もいなくなります。日本の病院との大きな違いだと思いました。
今回の私のFellowshipのテーマは骨盤寛骨臼骨折の手術を学ぶことでしたが、6週間の研修期間中に7件の骨盤・寛骨臼骨折の手術がありました。6例が高齢者の骨折、1例が若年者の症例でした。高齢者の骨盤輪骨折は全例転位のない症例だったため、Rommens先生が提唱されている低侵襲な経皮的な固定手技を見学することができました。恥骨骨折に対しては、逆行性のScrew固定を、仙骨骨折に対してはSacral Barを腸骨翼から第1仙椎椎体を通過させ、対側の腸骨翼に抜き、左右両側からwasherで締めこむ固定手技を初めて見ることができました。殆ど出血もせず、翌日から全荷重で歩行が可能となるこの手技は、是非日本でも普及させるべきだと思いましたが、Sacral Barが流通していない現在の日本では、まだ先の話になりそうです。この経皮的な手術手技はすべて通常のイメージ操作のみで行われており、骨盤後方の正確な側面像の描出と評価の方法についても詳しく教えて頂くことができました。
骨盤以外の外傷の手術も多数手洗いで参加させて頂きました。日本と違って、研修医にはほとんど執刀の機会は無く、転子部骨折や橈骨遠位端骨折であってもOberarztが執刀していました。また手術室のスタッフも非常にプロ意識が高く、特に器械出し看護師は全ての手術の流れを把握しており、非常にスムーズに手術が流れていました。またちょっとしたことですが、手術器械を渡してもらう時、ドイツ語でお願いするとスタッフとの距離が縮まり、その後のコミュニケーションがとても取りやすくなりました。事前に基本的な手術器械の単語を勉強していくと良いと思います。
また時間がある時は、基礎の実験室を見学させて頂きました。第一線で活躍されている先生方が寸暇を惜しんで実験と論文執筆に勤しんでおられる姿を拝見し、臨床の疑問点を基礎実験で解決することの大切さを改めて実感しました。臨床一辺倒の私にとっては、とても良い刺激になりました。
最終週には、プレゼンテーションを行う機会を作って頂きました。テーマには、日本における大腿骨転子部骨折の治療方法を選びました。ドイツではあまり一般的ではない3D-CTを用いた術前評価を行う事や、側面での整復位を非常に重要視していることを中心に発表させて頂きました。特に側面像で、近位骨片が髄内型転位している場合、スライディング量が多くなるという、日本ではほぼコンセンサスが得られている内容も、ドイツ人医師にとっては新鮮だったようで、沢山質問を頂きました。プレゼンテーション終了後には、「ドンドンドン」と机を叩く、特有のセレブレーションをしていただき、強く思い出に残りました。
また居住環境は、大学まで徒歩1分のマンションを準備して頂きました。マンションを出て目の前には大手スーパーがあり、日常の買い物は全て事足りました。インターネット環境は備えていなかったため、テザリング機能付きのプリペイド携帯を現地で契約し、使用していました。家賃は6週間で10万円ほどでしたが、一人で生活するには十分すぎる環境でした。
最後に、6週間という長期に渡り留学することを快諾して頂いた当院整形外科部長の正田悦朗先生をはじめ、私の留守の間に病院を守って頂いた整形外科スタッフおよび研修医の先生方に深謝いたします。今回の経験を生かし、日本の整形外科外傷治療に貢献するとともに、外傷に遭われた患者さんを一人でも多く救うことができるように尽力していきたいと思います。
写真1: Rommens教授と筆者
写真2: 大学病院の中庭。奥にそびえ立つのがTrauma Centerのある診療棟
写真3: プレゼンテーション中の筆者
写真4: Trauma Centerの若手医師と記念撮影。右端は麻酔科の部長先生