Charité - University Medicine Berlin, Germany, 2018/10/15-11/9 櫻井 敦志先生 (兵庫県立淡路医療センター)
2018年10月15日から11月9日までの4週間、AO Trauma Visit the Expert fellowshipにより、ドイツのベルリン医科大学シャリテ(Universitätsmedizin Berlin、Charité)を訪問する機会をいただきました。AO Trauma Visit the Expert fellowshipでは通常のAO Trauma fellowshipと違い年齢制限はないのですが、hostとなるAO Traumaの先生と自分でコンタクトをとり了解を得る必要があります。私は10年程前に、オーストラリアのブリスベンにおられたMichael Schuetz 先生の所を2週間ほど訪れたことがあります。今回ベルリンに移られていたSchuetz 先生の施設を訪問しようと思い、AOコースの際に相談し準備を進めました。ただfellowship直前にSchuetz 先生が再びオーストラリアに移られたため、後任のSven Märdian先生に連絡していただきベルリンでのfellowshipとなりました。
ベルリンはドイツ最大の都市(人口360万)であり、プロイセン王国、ドイツ帝国、第二次世界大戦、東西冷戦と壁による分断、ドイツ統一後に再び首都、など数多くの歴史を経てきた街です。様々な国や人種の人々が集まっており、ドイツでも英語が通じると言われます。 シャリテは1710年ペスト患者の検疫所として建てられました。その後貧しい人のための病院となり、1727年にフリードリヒ・ヴィルヘルム1世によりシャリテと名付けられました(Charitéは仏語でcharityの意味です)。1828年にはフンボルト大学の医学部に組み込まれました。ベルリンの東西分裂時には東側にフンボルト大学、西側にベルリン自由大学の医学部がありましたが、ドイツ統一後少したった2003年に両医学部はベルリン医科大学シャリテの名のもとに統合されました。シャリテからはRudolf Virchow、Robert Koch、Emil Adolf von Behringなどドイツのノーベル医学賞受賞者の半数が出ており、日本から北里柴三郎や森鴎外もここに留学しています。
現在シャリテは4つの施設にわかれていますが、整形外科はCCM: Campus Charité MitteとCVK: Campus Virchow-Klinikumにあります。外傷については主にCVKの方に運ばれるとのことで、私が今回訪問したのもCVKの方です。病床はCVK だけで1200床あります。整形外科は120床ですが、主に3つの病棟(13,16,17)に分かれています。特徴的なのは13病棟で、様々な整形外科の感染症例に対して、感染症内科からの医師と合同で治療方針を決めています。整形外科はSven Märdian先生のもと、コンサルタントが10人とその他35人で総勢45人です。チームが3つに分かれ、病棟と同様にTeam13、16,17と呼んでいました。CVKでは年間に4500件ほどの整形外科手術を行っており、対するMitteの整形外科でも同程度の件数の手術を行っていますが、より待機的手術が多いとのことでした。 毎朝カンファレンスが7時半から始まり、前日の手術症例や救急入院症例を提示していきます。CTなどの画像については放射線科医が毎朝来ており、必要に応じて説明します。火曜と木曜は朝7時から若手の先生対象にミニレクチャーが行われていました。手術は8時から開始なので、準備のある若手の先生は8時前に抜けていきます。カンファレンス後には救急入院患者や重症患者のICU(数か所)を回診します。術前カンファレンスは毎日午後3時から病棟で行っていました。 手術室については、整形外科は毎日5室を使用していました。休日でも大腿骨頸部骨折などはしていますが、前日夜間入院の外傷症例は、当日に手術室を調整して組み入れるようになっていました。ただ調整の難しいこともしばしばあり、夕方になってからの入室などもありました。 外傷手術については、髄内釘やプレート固定等大きな違いはないのですが、脛骨高原やピロン骨折など関節内骨折は十分に時間をかけて納得できるまで整復していました。骨盤骨折の前方アプローチでは、ほぼ全例pararectus approachで行っているとのことでした。またIS screwでの固定は、術中に3Dイメージで挿入後の確認を行っていました。大学病院ですので外傷手術以外にも様々な手術を見学することができました。股関節や肩肘関節の関節鏡や人工関節、骨切り、靱帯再建や、脊椎、腫瘍、手、足など、普段では見る機会のない手術も見学することができ大変興味深かったです。研修中、医師とは英語で話しができ、ドイツの医療事情なども聞くことができました。が、やはり少しでもドイツ語ができればと思いました。救急部には重症外傷対応の部屋は2つあり、整形外科は2人常駐しています。必要があればオンコールの整形外科レジデントが呼ばれ、そのまた上級医もオンコールを決められているとのことでした。
期間中にドイツ整形外傷学会が開かれていましたので参加することができました。会場は毎年メッセ・ベルリンで、欧州で最も大きなコンベンションセンターです。もちろん学会はドイツ語で行われますが、英語でのinternational sessionもあり、ドイツおよびヨーロッパの外傷治療の事情も垣間見ることができました。
ベルリンには多くの美術館や博物館があり、また歴史的な観光場所も豊富です。4週間の間には少し体調を崩した時もありましたが、休日にはベルリンだけでなくドイツ鉄道を使ってドイツ国内外にも足を延ばし、充実した期間を過ごすことができました。 長期に海外に出て他国の医療に触れることはなかなか難しく、今回大変貴重な経験となりました。このような研修の機会を可能にしていただいたAO Trauma、および県立淡路医療センターの先生方に感謝いたします。
写真1:手術室から
写真2:Dr. Sven Märdian
写真3:Dr. Pouly他、肩関節の先生