「AO Trauma masters course Current concepts-upper extremity courseⅡ(Hand, Wrist, Elbow)」に参加して Davao, 2022年12/12 - 12/16 善家 雄吉 先生 (産業医科大学 救急・集中治療科 外傷再建センター)

はじめに

2022年12月12日(月)〜16(金)の5日間、スイスのダボスで開催されましたAO Trauma masters course Current concepts-upper extremityⅡ(Hand, Wrist, Elbow)に参加して来ましたので報告いたします。今回AO Trauma Asia Pacificのサポートプログラムに応募して選考され、参加費、往復渡航・滞在費用など多大なるサポートを頂きました。金銭的な面で参加を躊躇してしまいがちですが、非常に有難い制度です。この場を借りて感謝申し上げます。

AO Davos courseの魅力

私は2005年12月にAOTrauma basic course(Davos)に参加したことがありましたので、実に17年ぶり2回目のDavos訪問です。今回、pediatric courseに参加された香川労災病院の前原孝先生も2005年コースに同じく参加されております。今回もDavosでの滞在をともにさせて頂き、旧交を温めることが出来ました。また世界各国からの参加者、論文で良く見かけるような非常に高名なfacultyたちと5日間にもわたり行動を共にするという体験はなかなか得難い貴重なものです。大袈裟ではなく、正に一生の財産と言っても良いでしょう。若いうちから是非ともこのDavos courseに参加されることをお勧めします。本コースではコースプログラム、それぞれのセッションの評価、参加登録は全てQRコードを読み取って行われていました(図1a,b)。

図1a:会場入り口にあるコースプログラムと評価表(QRコード)

図1b:QRコード入りネームカード

Mini lecture・debate session

Mini lectureは10-15分程度の短時間で様々な話題をfacultyが簡潔にまとめて講義してくれます。Current conceptsというコース名からもわかるように最新の話題が中心であり、知識の蓄積や問題点の整理に役立ちました。また、ある治療方法に対し(例:SLAC/SNAC wristに対するfour corner fusion vs proximal low carpectomy)ディベートするというセッションでは、faculty2名がプレゼンして参加者と共有するというもので、お互いの治療方法につき激しく?(演技も入っていましたが)討論を交わすという試みで楽しめました。ちょうどカタールW杯の準決勝を行っていた時期でもあり、サッカーでの戦いに扮してfaculty同士で熱く演じておりました(図2)。

図2:ディベートセッションで熱演するfacultyたち

Round table discussion

Masters courseはこのtable discussionがメインイベントでありますが、本コースでも7つの領域にわたる症例検討(1.手部複合損傷、 2.中手骨・指節骨骨折合併症、3.手根骨脱臼骨折、4.舟状骨骨折・偽関節、5.DRUJ損傷、6.手関節損傷合併症、7.肘関節複合損傷)について5つのテーブル(各5-7名:参加登録36名)に別れて濃密な議論をしました。進行スタイルはfacultyに依存するものの、参加者全員から出来るだけ多くの意見を取り入れようとされていました。また、この7分野の症例検討とは別に、1つの症例に対する治療戦略をテーブルごとにじっくりと検討し、皆の前で発表するというスタイルのセッションもありました。個人的には発表役にはなりたくなかったので、術前計画の作図を黙々と行いながら逃げ切りを企てていたところ、facultyに見つかり「面白い!君が発表したまえ!」となってしまいました。。。仕方なく、ホワイトボードに図を描きながら説明を行い、無事その役割を終えました。まあ、思いがけず良い経験となった次第です。饒舌に語れない分、visualで攻めたのは良い戦略だったとは思います。

Anatomical specimen(cadaver workshop)

本コースの参加費用が高いのはcadaver sessionが含まれているからでしょう。会場からバスで10分程度の近隣の病院(図3)の地下実習室で、半日コースを2回に分けて実施しました。内容は、手部や前腕領域の局所皮弁(Quaba flap, PIA flap, FCU muscle flapなど)やPIP関節掌側アプローチ(shotgun approach)、K-wireやheadless screwを用いたfour corner fusion、中手骨骨折変形癒合後の矯正骨切りとしてのstep cut osteotomyなど多岐にわたりました。馴染みのある術式も多かったですが、ペアの異国の先生たちと議論しながら実際に手を動かすことは良い刺激になりました。またCadaverはfresh frozenでありqualityは上々であったものの、血管を染色していないため皮弁挙上は実際よりも難しく、この点は日本で行なっているAO皮弁コースの方が視覚的にも教育効果は高いものと思われました。

図3:解剖実習で訪れた会場近くの病院

Universal learning module(ULM)

本コースは肘関節以遠のコースでしたが、5日間のうち4つのspecial session(1. External fixation, 2. Nonunion and malunion, 3. Fracture related infection, 4. Fragility fracture)もあり、moduleごとに著名なfacultyが担当してくれたことは刺激的でした。中でも個人的にFRI のmoduleは、特に興味深く参加させて頂きました。FRIの国際コンセンサスに関する執筆も多い、ベルギーのMetsmakers先生とバイオフィルムの成熟に関して議論できたことは非常に良い経験となりました(図4)。

図4:ベルギーのメッツメーカー先生(中央)たちと

Practical exercise(PE)

Masters courseにはPEはないものかと思っていましたが、6つ(1. 橈骨遠位C3症例の手術計画、2.橈骨遠位端変形癒合に対する矯正骨切り、3. 肘関節外傷に対するDCSとしての創外固定、4. 上腕骨遠位C3症例の手術計画、5. 橈骨遠位関節内骨折(脆弱性骨折)に対するプレート固定、6. 上腕骨骨髄炎症例に対するデブリドマン+創外固定)の内容が含まれ実にバラエティーに富んでいました。ただし、参加者が少ないPEもあり(*時間帯などにもよります)、内容に関して今後は再考した方が良いのではとも感じました。

さいごに

異国の地で親睦を深めることが出来るという点で、本コースは本当にpricelessな経験となります。5日間も行動をともにすると、はじめは赤の他人でも次第に同志のような繋がりが芽生えます(図5)。また、ドバイ経由で道中ともに長い時間を過ごしました大分大学救命救急センター金崎彰三先生、ダボスで連日懇親の場をご一緒させて頂きました香川労災病院前原孝先生、明石医療センター脇貴洋先生、皆さん(図6)有難うございました、とても楽しかったですね。そして日本からfacultyとして参加された諸先生方も大変お世話になりました。お疲れ様でした。さいごに、1週間もの不在期間中、日々の臨床業務を頑張ってくれた産業医大病院外傷再建センターのスタッフたちには深く感謝しております。

図5:U/EコースⅡの参加者たちと会場の中庭にて記念撮影

図6:DPSサポートプログラムで日本から参加した同志たち