「AO Trauma Course—Managing Pediatric Fractures」に参加して Davos, 2022/12/11 - 12/15 脇 貴洋先生 (明石医療センター整形外科)

この度、AO Trauma Asia Pacific からのサポートをいただき、ダボスで開催された小児コースに参加して参りましたのでご報告をさせていただきます.今回のサポートメンバーは4名で、上肢コースに産業医大の善家先生、大分大学の金崎先生、そして小児コースには香川労災病院の前原先生と脇が参加しました.私自身は、ダボスコースは2回目で2009年の参加から13年ぶりの再訪問となりました.初めてのダボスではPolytraumaコースに参加しましたが、スモールグループディスカッションがほとんどで、しかも英語力が今よりももっと拙く(今も全然だめですが..)、そして臨床経験も少なくて非常に大変な思いをしましたが(涙)、英語論文で見たことのある世界的に有名な先生方に直接会えて、若い自分にはとても刺激なものでした.当時、JATECのインストラクターなどをやり、重症外傷に燃えていた自分は国際的に有名なPape先生やGiannoudis先生に会いたくて参加しましたが、その後、2015年にはAO fellowshipでPape先生の施設で勉強することにもつながりました(https://trauma.aojapan.jp/reports/aotrauma-fellowship-23/)。今でもPape先生、そしてその右腕のPfeifer先生をはじめ、留学先の先生方とは交流が続いており、今回のコース前にはZurich大学外傷整形外科部門を見学し、交流を温める機会を得ました.私のAO fellowshipをきっかけに、神戸大学外傷グループから後輩の隈部先生がポスドクでPape先生の施設へ留学をし、2023年4月からはさらに後輩の澤内先生が留学予定です.私が若気の至りで無謀にも単身で乗りこんだ2009年のダボスコース、そして2015年のAO fellowshipと、その一つ一つが私や私の周りの先生方の未来につながり、AO財団には日頃から感謝をしております.そして2009年に参加したダボスコースの興奮が忘れられず、いつかダボスを再訪したいと思っていたところ、今回のような機会に恵まれて、大変嬉しく思っています.

(左)2009年のダボスコース:Giannoudis先生に指導を受けて、当時はまだ国内に入っていなかったRIAの実習
(中)2009年のダボスコース:Giannoudis先生とPape先生のツーショット
(右)Zurich大学のPfeifer先生、ポスドク中の隈部先生と再会

現在、私は自施設では総合内科の先生方と連携してhip fracture centerを設立し、orthogeriatric co-managementの導入や2次骨折予防の取り組み、そして総合内科と連携した高齢者四肢外傷センターの設立を目指して活動をしていますが、小児骨折も当院は地域中核病院ですのでもちろん取り扱っています.私自身、小児骨折はこれまで系統的に学ぶ機会がなかなかなく、小児骨折が来る度に井上博先生の「小児四肢骨折治療の実際(金原出版)」をかいつまんで勉強をしてきました. そして、2021年には自治医大の松村福広先生が書かれた「小児骨折治療(南江堂)」が出版され、こちらはTEN (Titanium elastic nail)を使った手術方法や、小児分野の最新の海外文献に基づいた新しい知見のみならず、松村先生の手術テクニックや外傷整形外科医の立場からの小児骨折への考え方が凝縮されたものですが、この2冊を自分の愛読書としてきました.今回参加するにあたって、どちらの本も細切れにしか読んでこなかったので、良い機会と思い、コース参加が決まってから2ヶ月かけて松村先生の本を最初のページから通読してから参加をしました.小児は大人と違って成長するため、骨折したあとに時に複雑な変形を起こすことがあります.私も自施設では四肢外傷のチーフの立場にあり、実臨床では色々と悩ましい小児の症例を経験し、小児骨折をもっと学びたいという思いを感じており、今回の募集案内がくると、すぐに応募をさせていただきました.

(左)今回のコースが開催されたダボスコングレスセンター
(中)コース前日のレセプション
(右)レセプションパーティー

小児コースは4日間で、下肢から始まり、肩甲帯、上肢、そして変形癒合に対する矯正骨切りまで小児骨折についてコンパクトにまとめられておりました.各moduleが症例提示から始まるため、その後のミニ講義も非常に頭に入ってきやすくて、とてもよく洗練されている内容でした.小児特有の話題としてNAI(Non Accidental Injury)について詳細な講義があり、特に虐待の問題は大きく取り上げられました.小児の大腿骨骨折では鑑別診断として虐待を忘れてはいけませんが、虐待を疑う他の部位の骨折パターンについても詳しく講義があり、非常に勉強になりました.また、NAIの鑑別診断として骨形成不全症なども忘れてはいけないということも強調されていました.

計10回ものスモールグループディスカッションがあり、世界各地からの参加者とディスカッションはとても充実したものでした.教育的な症例がたくさん出題され、AO分類から始まり、受傷メカニズム、治療法、なぜその治療を行うのかと一つ、一つ、ディスカッションを丁寧に行なっていきます.日本のAOコースとは違って、講師の先生によっては時間配分が大雑把で、数例をみる時間があるのに一つの症例しか終えられないようなこともありましたが(笑)、それも海外コースの面白いところかなと思います.他のコースでは受講生が途中でいなくなったりすることもあったようですが(自分が学ぶ必要がないと思えば、そのmoduleには出ない.この辺りはなかなか真面目な日本人にはできないことですが)、小児コースでは全員が最終日まで全moduleに出席をしており、参加者の熱意を感じましたし、講師の指導やコースの内容が充実していたということだろうと思っています.

practical exerciseは7回あり、TENを用いた実習や、顆上骨折における創外固定、triplane骨折への骨折形態を考慮した斜め方向へのスクリュー固定など、興味深い内容ばかりでした.最終moduleでは陳旧性のモンテジア骨折の治療などについて講師の先生たちがパネルディスカッションを受講生の前でするという形式がとられ、小児整形外科医のプロフェッショナルの熱い議論を聞けて、内容はとても高度でしたが論点が明確となり、非常に刺激的でした.

(左)各テーブルごとにコース中に学んだことを発表
(中)同じグループで記念撮影
(右)practical exerciseの光景

小児コース以外にもたくさんのコースが2週間の会期中にダボスで開催されていますが、コース期間中はハイブリッド手術室が会場に設営されており、休憩時間にはカダバーを用いた公開手術がなされていたり、コース前日のレセプションではARでの手術など近未来的な内容が紹介されていたり、ダボスでの毎日は子供のようにワクワクと心躍るものでした.また、会場内には様々な展示ブースがあり、局所への抗生剤投与キットや骨癒合をモニターするデバイスの展示もありました.

(左)会場でのカダバーを用いた公開手術
(中)局所への抗生剤投与キット
(右)骨癒合をモニターするデバイス

昔のダボスコースでは昼間に数時間の休憩時間があり、スキーをできる時間もありましたが、今はそのような時間もなく、朝8時から夕方6時頃まで英語にまみれる生活で、時差ぼけもありなかなか大変でしたが、非常に充実した毎日を送ることができました.サポートメンバーの先生方との交流や、講師で来られていた新百合ヶ丘総合病院の澤口先生、峰原先生、自治医大の松村先生、岡山医療センターの塩田先生ともお話しできる機会があり、たくさんの刺激をいただけた4日間でした.ダボスにまた来られる日を願いながら、今回学んだことを活かして日々の臨床に精一杯とりくんでいきたいと強く感じました.私のこのレポートを読んでくださった先生方も、機会があればダボスコースに参加して、医師人生を熱く、深く、豊かなものにしていただけたらと思います。

今回、ご一緒させていただいた香川労災病院の前原先生からは創外固定の立て方や、CCSを打つ際の一工夫など、色々なテクニックを教えていただけ、とても有り難かったです.コース期間中、前原先生のおかげで楽しく過ごすことができ、この場をお借りして御礼を申し上げます.

(左)会場での記念撮影
(右)前原先生とのツーショット

最後になりましたが、このような機会をいただけましたAO Trauma Japan理事の先生方、AO Trauma Asia Pacificのみなさま、そして不在期間中に病院を守ってくださった明石医療センターのスタッフの先生方に厚く御礼を申し上げます.