AO Trauma Fellowship Report Leeds Teaching Hospitals, NHS Trust(LTHT), England, 2022/11/7-12/12 上原 健敬先生 (岡山大学整形外科)

今回、2022年11月7日より12月12日まで英国のLeeds Teaching Hospitals, NHS Trust(LTHT)にて研修させていただきましたので報告致します。2020年、2021年と2回にわたりCOVID-19のため延期となりましたが、ちょうど英国のロックダウンが解除されたタイミングでAO本部よりフェローシップ実施の連絡をいただき、2年越しの実現となりました。

Leedsはイングランド北部、ヨークシャー地域に位置し、居住人口は約80万人です。LTHTは6箇所に分野別に分かれた8個の病院を統括する教育病院群で、西ヨークシャー地域の約210万人を対象に医療を提供しています。Major Trauma Centre(MTC)を擁するLeeds General Infirmary(LGI)はLeedsの中心街に近接し、Leeds大学のキャンパスと隣接しています。

外傷整形外科部門を主宰されているGiannoudis 教授は骨折治癒におけるDiamond conceptを提唱され整形外科外傷に関する数多くの論文を発表されているtop researcherの一人であり、LGIもイギリス内での有数の症例数があるMTCであることから、イギリスの外傷診療システムとDiamond conceptに
基づく骨欠損治療を学ぶことを今回の渡航の目的としました。

生活面ではCOVID-19に関する制限としては診療場面と職員用バスの中ではマスクが必要になる程度で、日常生活での制限はありませんでした。宿泊は職員用バスで15分程度の距離にあるSt. James University Hospital内の単身寮を使用させていただきました。

研修は朝8時からのカンファレンスから始まり、当日の手術症例、ディスカッション症例、前日の入院・術後症例のプレゼンテーションとディスカッションを聴講し、その後は手術見学となります。ただし、教授の外来がある場合は外来見学や病棟回診をご一緒させていただきました。

外傷の手術は土日を問わず3列の手術室を使用(うち1室はhip fracture専用)して行われていましたが、開放骨折や大腿骨骨幹部骨折が入ると待機可能な手術は翌日に延期になるなど、手術当日であっても頻繁に予定が変更になりました。それぞれの手術室に一人のコンサルタントが監督者として配置され、スタンダードな手術は若手が、複雑な手術はコンサルタントが執刀するという体制で毎日10例以上の手術が休みなく行われていました。開放骨折に対しては骨再建を担当する整形外科医と軟部再建を担当する形成外科医が合同で治療を行うortho-plastic approachで行われており、受傷から1週間以内の創部閉鎖を目標に治療を行っていました。2018年のレポートで原田先生が報告されているように、Ilizarov法も多用しており、特に下腿開放骨折では一時的創外固定のまま軟部組織再建を行い、軟部が安定化した後にリング型創外固定へ変更するケースもしばしば見られました。

他にも治療方法に関しては興味深い違いがいくつかありました。hip fractureを例に挙げると、転子部骨折よりも頚部骨折の頻度が高く、印象としては7:3程度の割合でした。高齢者の頚部骨折は転位の程度によらず人工物置換(もちろんセメント)が行われ、頚部骨折に対する骨接合は活動性の高い若年者に対してのみ実施されていました。転子部骨折に関しては基本的にsliding hip screwを用いていましたが、日本でよく行っている前内側のover reductionはまだ十分に認知はされていないようでした。渡航目的の一つである骨欠損に対する治療もGiannoudis教授によるMasquelet法も含め数回見学することができ、一連の手技や注意点を学ぶことができました。

最終週はAmsterdamに移動し、1st Triennial IOTA Meeting に参加しました。自身の発表もありましたが、最も印象深かったのはAO Trauma UkraineのOleksandr Rikhter先生の講演でした。実際に爆撃を受けて破損した病室や手術室の写真をもとに医療を継続して提供することの重要性、継続した支援の必要性を訴えられました。ウクライナはヨーロッパの一部であり、決して戦場は遠い場所ではないことを強く感じた講演でした。

最後になりましたが、渡航中業務をカバーいただいた岡山大学整形外科ならびに救急部の先生方、このような貴重な機会を与えてくださったAO TraumaならびにAO Trauma Japanに心より感謝申し上げます。

写真1 日の出前、朝8時のLGI玄関前。建物の2階に手術室がある。

写真2 多国籍なコンサルタント達と(左よりギリシャ、ハンガリー、英国、イスラエル、イタリアおよび筆者)

写真3 IOTA出発前夜の会食(左より筆者、Mr. Kotsarinis, Prof. Giannoudis, Mr. Santolini)。この後教授の運転で宿舎まで送っていただきました。