AO Innovation Translation Center(ITC), Switzerland, 2026年5月〜7月 乾 貴博 先生 (帝京大学医学部整形外科学講座 / 帝京大学医学部附属病院外傷センター / 帝京大学臨床研究センター)

2026年5月から7月まで、AO Innovation Translation Center(ITC)のClinical Research Fellowとしてスイスに滞在しました。生活の拠点はZürichで、Davos本部との中間地点にあるLandquartのITCオフィスと、Zürichのサテライトオフィスの二拠点で研修しました。このフェローシップは臨床見学ではなく、診療から離れて臨床研究に集中するプログラムです。公募で世界で年4人が選ばれ春と秋に分かれて研修します。

AO ITCは、AOに関連する臨床研究について、研究計画の作成からデータ管理、統計解析、論文作成までを一貫して支援する部門です。リサーチコーディネーター、統計家、Medical Writerなど多様な専門職が在籍しています。私は、医師の臨床疑問を研究計画に落とし込むMedical Affairs部門に配属され、研究課題、研究デザイン、解析計画の組み立て方を学びました。講義・実習とミーティングがあり、同期のエチオピア人Dr. Alazar Haileと一緒に、AO ITCの様々なスタッフから20以上にわたる講義と実習を受けました。ホストのDr. Tracy Zhuとの週次ミーティングでは、進捗や問題を共有し、データ処理と解析計画を繰り返し見直しました。臨床疫学、研究運営、統計解析、論文作成を、講義と実際のプロジェクトから学べる密度の高い三か月でした。Alazarは若くとても優秀でヴィジョンがあり、またTracyは臨床現場に役立つevidenceを構築することに熱意をもつ素晴らしい臨床疫学家であり、非常に良い刺激を受けました。

写真1 チューリッヒのサテライトオフィスでAO ITCの同僚・メンターと

研究テーマはITCから与えられるのではなく、自分の研究プロジェクトを持ち寄ります。私のテーマは、脛骨遠位骨幹部骨折に対する髄内釘治療でのスクリュー機構と骨癒合の関連でした。多施設の臨床データと画像データを統合する過程で、入力誤りや定義の不一致が見つかり、最初の約二か月はデータの確認と修正に費やしました。信頼できるデータをつくることが研究の土台であり、レジストリ設計とデータ検証が解析と同じくらい重要だと実感しました。最終月には解析を完了し、臨床疑問を研究計画から解析まで進める過程を経験しました。

日々の診療から離れ、整形外傷の臨床研究にまとまった時間を使える機会は国内では多くありません。臨床疫学を専門家から学びながら、自分の研究課題を進められるコースも限られています。臨床疑問を研究計画に落とし込む方法を学びたい先生、国際共同研究を進めたい先生には、特に適したフェローシップだと思います。日本から次の候補者が続くことを期待しています。

AO ITCには多様な国や専門分野の仲間が集まり、日々の会話や食事からも学びました。休日にはスイスの美しい山々でハイキングを楽しみ、最後の一か月は家族も合流しました。今回の学びを国内の外傷研究教育に還元しできればと思っています。素晴らしい機会をくださったAO Trauma Japan、AO ITCの皆様、帝京大学の同僚と家族に心より感謝申し上げます。

写真2 AO ITC慰安旅行で全スタッフと記念撮影
写真3 アイガー北壁を望むハイキング