AO Trauma Course―Basic Principles of Fracture Management 横浜, 2022/08/27-08/29 乾  貴博 先生 (帝京大学医学部附属病院 整形外科)

2022年8月27日から29日まで横浜市で開催されたAO Trauma Course―Basic Principles & ORP にテーブルインストラクターとして参加させていただきました。このようなレポート執筆の機会をいただきましたことに感謝いたします。Basic Courseは川崎医科大学の野田知之先生を、ORPは旭労災病院の花林 昭裕先生をChairpersonとして同一日程で開催されました。TIは2名で、Skills lab 2ステーション、Small group discussion 1セッション、Practical exercise 13セッションを担当しました。

Pre-Course

Pre-Courseとしてコースの前日の26日に講師とテーブルインストラクターが集合し、Skills-labの内容および進行のチェック、コース全体の内容についてのoverviewを行いました。
私自身がSkills-labを受講したのが10年前で、当時の記憶も薄れていたため全ステーションをチェックできたのは個人的にも大変勉強になりました。今回は講師及びインストラクターの2人で1ステーションを担当することになったため、先輩の二村 謙太郎先生から、ステーションの意義・指導方法など細かくみてもらい安心して指導に臨むことができました。
コース全体のoverviewでは使用する用語の確認、指導の基本原理などを再確認し、一貫した指導内容を行うように周知されました。指導時には講義にならないように心がけることを重視しており、インタラクティブなAOコースはここから生まれているのだということを再確認しました。

Skills lab

Skills labは骨折治療に関連する生物学的および物理学的な基礎内容を学ぶための実技実習です。全体で10ステーションが用意され、午前に5ステーション、昼食をはさんで午後に5ステーションが行われました。1ステーションの担当時間は10分で、私は2ステーションを担当しました。
1ステーション目はドリリング時に発生する熱に関する実習でした。複数の太さで、それぞれ先端が鈍・鋭になっているドリルを使用して模擬骨に穴をあけ、そのドリル先端の温度をセンサーで測定します。先端が鈍であると、発生する熱が高くなり、骨壊死を誘発しスクリューのゆるみや感染の原因になることを質問と実技で段階を踏んで参加者に理解してもらいました。また、ドリルだけでなく手術でよく使用するK-wireを使った実技も行いました。先端鋭のK-wireと先端鈍のドリルを比較すると、K-wireの方がより熱を持つことが体験できました。参加者たちは、体験する前に思っていた答えと逆だったようで、驚いている姿が多く見られました。驚きは記憶に残りやすく大変教育効果の高い良い内容だと思われます。
2ステーション目はプレートの引き抜き強度とレバーアームの関係・スクリューのワーキングレングスについて学ぶ実習でした。プレートにおけるスクリュー間距離の長さが長いとレバーアームが大きくなり、スクリューの引き抜き強度が上がるということを、簡単な重錘を使ったモデルで体感していただきました。また、ワーキングレングスの実習は模擬骨に対してロッキングスクリューを挿入した場合、太い皮質にモノコーティカルで挿入するよりも、薄い皮質である粗鬆骨でもバイコーティカルで挿入する方が、固定力が上がることを実習していただきました。粗鬆骨モデルの方が弱いと考える参加者が多く、これもよい「気づき」が得られるステーションだと思いました。
事前チェックのおかげでどのステーションもトラブルなく終えることができました。

Small group discussion

今回、Small group discussionの1セッションを担当し、講師の林 博志先生がメインでサブとしてディスカッションに参加しました。私が担当したセッションでは絶対的安定性と相対的安定性について、10人ほどのグループでいくつかのケースディスカッションを行いました。分かりやすい症例が選択されており、似たような症例のディスカッションを繰り返していくことで、日常の骨折治療に対する考え方がクリアになる良いセッションだと思いました。積極的に発言してもらえるよう林先生が積極的にファシリテートされており、参加者は心理的負担がとても少ない状況でディスカッションに集中できたのではないかと思います。

Practical exercise

ついに私のメインの仕事である、Practical exerciseです。Basic Course、ORP Courseともに、機械の使用法・絶対的安定性・相対的安定性についてしっかり学ぶところから始まります。ラグスクリューやダイナミックコンプレッションによる整復固定の手技は、うまくいくとギャップが閉じる瞬間が見えるため、参加者の皆さんは驚きをもって実習されていました。また、実習中は講師とインストラクターには質問し放題のためインストラクターとしていい加減な返答をするわけにはいきません。参加者の先生達からは、十分に経験を積まないと出てこないような鋭い質問も多く、適切な答えができるかとっても緊張しました私自身もしっかり勉強をしようと身が引き締まりました。
Basic CourseとORP Courseではプレートの基礎・下腿の髄内釘・創外固定・転子部骨折に対する髄内釘固定の内容がオーバーラップします。しかし、2回同じ指導をするわけではありません。Basic Courseではこれから骨折治療のエキスパートを目指す医師が対象であるのに対して、ORPでは骨折手術チームの一員である手術室看護師が対象であるため目線を変える必要がありました。
Basic Courseでは固定法の選択、より良い整復・固定の工夫、模擬骨にはない軟部組織をどうイメージするのかといった点を参加者とディスカッションしながら基本手技を進めました。模擬骨だけでは現実的に不可能な方向から鉗子で固定する、プレートを設置するということが起こります。ディスカッションによってその点に「気づく」と、かなり記憶に残ります。実習しながら間違いを正していくことは教育効果が高く、AOコースが世界中で支持される理由なのだと思いました。
対して、ORP Courseでは医師が行う手術手技を体験することによって、器具の準備する順序、渡し方、手術台上での配置をイメージしてもらいながら基本手技を学んでもらえるように目線を変えて指導します。
共通していたのは、どの参加者も器具を使う実技はとても真面目に、楽しそうにされていたということです。

Post-Course

各コース終了後、講師とインストラクターによる振り返りが行われ、時間配分や内容について討議を行いました。翌週にBlended Courseが予定されていたこともあり、綿密な打ち合わせがされていました。一回一回しっかり振り返り、問題点を共有し解決することで、質の高いコースが運営され続けていることを実感しました。初めての参加で私にとっても大変「気づき」が多く、一回り成長できたと思いました。また機会をいただけましたら、是非参加させていただきたいと思います。最後に、今回のコース運営にご尽力された、講師の先生方およびサポートスタッフの皆様方に深謝いたします。