AO Trauma Course―Basic Principles of Fracture Management コースレポート 新横浜プリンスホテル, 2023/2/23-2/25 帖佐 直紀先生 (宮崎市郡医師会病院 整形外科)
この度、2023年2月23日~25日の3日間、横浜の新横浜プリンスホテルで開催されたAO Trauma Course―Basic Principles of Fracture Managementに参加させていただきました。
現在、私は宮崎市内の救急病院に勤務し、外傷をメインに手術を行っています。卒後5年目の若輩者であり、本来であれば骨折の基礎や治療戦略について系統的に勉強した上で日々の診療や手術に臨んでいないといけないはずの学年ですが、系統立って外傷に関して学ぶ機会なく日常診療に従事しておりました。AOといえば整形外科医であれば知らない人はいない世界有数の学術的組織です。そのため、若い時からAOが提唱する骨折治療のglobal standardを学ぶことができればと思っていたところ、今回参加させていただくことができたため報告させていただきます。
このコースは基本的に①Lecture、②AO Skills Lab、③Practical exercise、④Small group discussionの4本立てで構成されています。①Lectureは1コマ15-20分程度で、骨折治療の基本から各疾患、感染、小児、粗鬆骨、抜釘など多岐にわたるテーマから構成されており、座学で骨折治療の基礎を学ぶ事ができます。②AO Skills Labは初日に実施され、様々な器具を用いて骨折の基礎や手術に必要なバイオメカニクスなどを学びます。③Practical exerciseでは座学で学んだテクニックをボーンモデルを用いて実際に行います。④Small group discussionでは約10名程度の人数に分かれ各症例について議論を行います。Lectureで学んだ事が復習できるような構成になっており、座学で学んだ事がさらにクリアカットになります。
1日目の最初はchairpersonの宮本先生のintroductionから始まりました。AOの歴史の説明の後にコースを受ける前の心構えについて説明がありました。「疑問を持ち帰らない、考え方を学ぶため間違ってもいいから発言してほしい」という事を強調されてから、本格的にコース開始となりました。
最初のlectureではこの3日間で重要な内容のlectureから始まりました。Bone healingの機序やAO分類、軟部組織損傷、absolute stability、relative stability、plate、創外固定の基礎について学びました。AO Skills Labでは鈍なドリリングによる軟部組織損傷、standard screwを挿入する際の自分のトルクが適切なのか、ドリリングでどれぐらいの発熱がおこるのか、骨折のメカニズム、鉗子やディストラクターの使い方、髄内釘の太さや横止めによる固定力の違い、plateのscrew挿入位置での固定力の違い、折損したスクリューの抜去方法などを学びました。特にstandard screwを挿入する際の自分のトルクが適切かどうかは感覚でしか分からない事であり、自分の感覚が正しいのかどうかが分かり非常に参考になりました。
Practical exerciseではlag screw techniqueやdynamic compressionでの骨片間圧迫をボーンモデルに行い体験しました。
初日の最後はsmall group discussionです。X線写真を読影し、AO分類に基づく診断を行い、その分類をもとにどんなbone healing・stability・reduction・implantが必要になるかを討論しました。
2日目はpractical exerciseから始まりました。脛骨骨幹部骨折に対して髄内釘や創外固定を用いた骨接合の実習を行い、entry pointの重要性やnailによる骨片間圧迫、脛骨のhalf pin刺入部のsafe zone、固定性を高めるためにはどのようにrodやbarを組み立てるのかを学びました。
その後のsmall group discussionでは四肢の骨幹部骨折の症例について討論を行いました。前日同様に各症例に対して分類を行ってから順序立てて議論を行いますが、上腕骨骨幹部骨折ではどの位置・どのような骨折型で橈骨神経損傷が起きやすいのか、大腿骨転子下骨折では手術する際に何に注意するかなど前日より深く討論しました。その後、作図の仕方を勉強し、実際に前腕骨骨幹部骨折の症例に対して作図を行い、その作図をもとにボーンモデルを用いて実習を行いました。実臨床では術前に頭の中でシミュレーションをして臨んでいましたが、今回、作図をしても思うように整復固定をすることができず、実際に手を動かして作図する重要性を再認識しました。
実習の後はtension band法の機序を含め、足関節骨折、脛骨プラトー骨折、大腿骨近位部骨折、大腿骨遠位端骨折、放射線後骨折、多発外傷、骨盤骨折、粗鬆骨に対しての骨接合について学びました。
3日目は上腕骨遠位端骨折、脛骨近位端骨折、脛骨遠位端骨折などの関節内骨折についてのsmall group discussionから始まりました。最終日ということもあり初日よりはスムーズに分類し順序だてて計画できるようになった自分がいてコースを通して成長できていることを実感できました。
その後、開放骨折や感染、偽関節のlectureの後に肘頭骨折に対してtension band wiring、足関節骨折に対して1/3円plateやscrewによる固定、大腿骨転子部骨折に対してTFNAを用いた実習を行いました。X線写真を見て骨折線ボーンモデル上に実際の骨折線を写実しましたが、なかなか思うように写実することができず、日頃からもっとX線写真を詳細に読影することが必要だと反省しました。
最後は抜釘、MIPO、小児の骨折、骨折治療の未来などの講義の後に、事前に提出していた質問について各先生方が回答するgrand final discussionで終了となりました。
この3日間は分刻みで構成されているタイムスケジュールで骨折治療についてひたすら考える濃密な時間でした。また、骨折治療だけでなく、各先生方が非常に熱心に指導してくださったのも印象的でした。course冒頭で宮本先生が述べられていたように質問しやすい雰囲気を各先生方が作ってくださっており、人見知りの自分でも質問や自分の意見を発言でき、それぞれについて丁寧に回答していただきました。AOのglobal standardな骨折治療を学び、自分が抱いた疑問点を解消するだけでなく、+αで各先生方の考え方も学ぶことができた本当に有意義な時間でした。
最後になりますがchairpersonの宮本先生をはじめ、facultyの先生方、table instructorの先生方、スタッフの方々に御礼申し上げます。今回、学んだことを実臨床に生かし、患者さんの利益として還元できるよう精進したいと思います。本当にありがとうございました。