AO Trauma Course―Managing Pediatric Musculoskeletal Injuries Yokohama, 2019/3/22 – 3/24 光石 直史先生 (彦根市立病院)

今回2019年3月22日‐24日に横浜で行われたAO Trauma Course―Managing Pediatric Musculoskeletal Injuriesに参加しましたので報告いたします。 市中病院での整形外科勤務では小児骨折は、比較的よく見かけるものではありますが、実際治療に際して系統だった知識の享受はこれまで皆無であり 、On the job trainningで経験を積んで行きますがこの治療がよかったかどうかのフィードバックを受けることも皆無であり、また症例は突然やってきて大人の骨折とは違い準備を十分にすることができず、また経験のあるドクターに相談する暇も与えられず手術室に向かう状況が整形外科医のよくある日常でしょうか? どこかで小児骨折に対しての正しい知識の獲得と整理ができないか常日頃考えていましたが3年越しに念願の当コースに参加する機会を得ることができました。 海外のFacultyとしてスイスのTheddy Slongo先生、ドイツのDorien Schneidmuller先生、インドのAlaric Aroojis先生を迎え、国内Facultyのサポートを受けながら30名程の参加者で少人数授業が始まりました。

Introductionとして、ARS Warm Up Caseで講義が始まる前にトピックスを象徴する3-4例のCaseについての治療法の選択をスマホで行い、そのあとで講義を受けて再度同様のARSを行って教育効果を確認する手法が導入されており、最後にCaseが正解に導けるような知識の伝授を短い講義で行うことが繰り返されることで講義を聞くことに対するモチベーションをかなり高めて頂きました。 これ以外に、Small group discussion10回、Practical exercise5回が織り交ぜられており、Small group discussionは手関節 前腕、肘関節 上腕 肩関節、股関節、大腿骨、膝関節 下腿、足関節それぞれに骨折部の分類治療法、なぜそれを選択するかを小グループで海外のFacultyと国内のFacultyをモデレーターとして議論をしていきます。Discussionの内容やケースについては、比較的よく経験する症例もあれば、専門施設でないとそれほど扱うことのない症例もあり、自分の臨床感覚に沿って議論できる領域と、こういう風にやるものなのだと納得する分野がはっきり分かれました。議論の内容については英語で理解ができる内容から、理解の際に誤解を生じるような内容のものまで多岐にありましたが(海外のFacultyの英語がかなり流暢で聞き取りにくいところもあり)、ここはさすがに日本でのコースの良さで、わからないところは国内のFacultyの方にうまく意訳していただいて消化不良が起こらないような配慮がされておりました。

小児骨折治療の要点は、骨端線損傷の特殊性とリモデリング能力の高さ(特に手関節 上腕骨近位)で年齢を考慮すると保存的治療の範疇は思っていたよりも広いということを強調されていましたが一方でその人の社会的背景を考えてその特性をどう治療に適応させるかは治療者の判断にゆだねられているというメッセージでした。 また今コースならではのメッセージとしては小児に対するレントゲン検査についての厳格さは、海外ではかなり共通認識になっているようで、日本での日常診療では考えられないようなレントゲンフォローアップの少なさなど自分の日常臨床を振り返るとフォローアップ中の不安をなくすために繰り返し撮影するレントゲンは、世界的には極力少なくしていこうというものがありました。ただこれも、小児骨折も、1施設で小児の専門家がたくさん扱うという海外の小児骨折治療事情だからこそできることなのかもしれません。 Practical exerciseは多くが今回大きな興味の一つであったESIN (Elastic Stable Intramedullary Nail)実習であり、大腿骨antegrade retrograde固定、前腕両骨などが中心でK-wireやエンダ―釘を中心にそれなりに経験がある領域でありましたが、ESINの方が操作性がよく、コークスクリュー現象を回避し、理想的な3点固定を作ることにより強固な固定を得られるということでした。それぞれの骨折に対するアプローチ、エントリーの選択、エントリー場所について細かい講義を受けました。このコースを受けた上で必要に応じて経験値を上げたい領域でありました。 そのほかには、triplane骨折モデルを自作したうえで、有効な骨接合の方法を検討するセッションは、非常に斬新で、固定方法も非常に理論的でした。triplane骨折はほとんどが同じパターンなのでレントゲンで判断してCTはとらないようにねというSlongo先生のお話にはみな苦笑いしていました。上腕骨両顆骨折の創外固定のセッションなどは、臨床応用がすぐできる非常にいいExerciseでした。 最終日は、感染のセクションがありました。インドのAlaric Aroojis先生から、日本ではあまり見ることのない重症骨髄炎症例の提示があり、Masquelet法を併用しながらの再建治療例には目を見張るものがありました。

2日半に凝縮されたコースを総括しますと、自分が我流にやっていた治療には、誤解が多く、古いものが多く(特にESIN)勉強になることばかりでした。 成人の外傷同様、小児の外傷についても、系統化されたアップデートされた知識を得る機会は、やはり必要で個人的にはキャリアのもっと早い時期(Principle Courseと同時期)に参加できてもよいのかなと思われました。 今回のコースの合間にも過去の難渋症例、現在進行形の症例についていくつか海外のFacultyに相談できたのはとても良い経験になりました。
新しい発見がたくさんできるコースであり、小児外傷を集中的に学ぶには有用でありぜひ参加をお勧めします。