General Hospital Celle, Germany, 2019/4/1-5/10 八幡 直志先生 (埼玉医科大学総合医療センター)

2019.04.01〜2019.05.10の期間、北ドイツにありますGeneral Hospital Celle(以下AKH Celle)で研修をさせていただきましたので報告します。
【渡航前準備と言語】
すでにfellowshipを経験されています先生方にアドバイスをいただき、渡航前準備をしました。インターネット環境についてのアドバイスは特に役立ちました。ドイツでSIMは容易に購入できますが、アクティベーションが面倒で(ビデオチャットで証明書を提示するなど)現地の人でも手続きが煩雑なようです。そのためヨーロッパで使用できるSIMを先に国内で購入し、渡航後すぐに使用できるよう準備したことは大変良かったです。一方、ドイツ語については準備不足で不安を抱えたままの出発となりました。

【目的】
この度の研修目的は、①骨盤寛骨臼骨折やAO治療法に基づいた一般的骨折治療がどのように教育され実践されているかを確かめる。 ②ドイツの労働環境を確かめる。 ③以上をもとに自施設の知識や技術が“現在どの位置にあるか”を確認すること。でした。 研修先を選ぶにあたっては、英語が母国語でないこと、労働環境に対する意識が高いという点でドイツを、骨盤治療を行なっており、手術の際scrub inできるという点でAKH Celleを選択しました。
【AKH Celle】
Celleは人口が約7万人程度の小さな町でHamburgから特急で約1時間程度の場所にあります。絵本に出てくるような木組みの家々、鳥のさえずり、ゆるやかに流れるアラー川…北ドイツの真珠と呼ばれているのも納得です。(写真1)この美しさゆえ、第二次世界大戦中にイギリス軍はCelleを攻撃しなかったそうで、現在まで古い木組みの家が多く残っています。 ドイツには公立病院(Öffentliche Krankenhäuser)、教会・赤十字社の組織などが運営する非営利(公益)病院 (Freigemeinnützige Krankenhäuser)、私立病院(Privatkrankenhäuser)の3つのタイプの病院がありAKH Celleは公立病院です。全病床数は650床で整形外傷部門が約80床を占めております。外傷部門のトップにはinfra acetabular screwで有名なProf. Culemannが、整形部門のトップにはProf. Mayerがおり、両部門が一体となって診療を行っています。屋上にヘリポートがあり、搬送患者の受け入れも行われています。

【診療】
(月)~(金)まで7:30~16:00が勤務時間です。毎朝7:30から夜間に来た救急患者のX線、昨日撮影したX線(術後X線、follow X線など)を放射線科医師がスクリーンに展開し担当医がプレゼンしていきます。(時間に正確で遅刻する人はほとんどいません。)(写真2)その後、手術予定がない医師は病棟へ向かいます。病棟では病室と並んで小さな医局がありますが、カンファレンス後、医局にいると理学療法士が訪ねてきて、その日の回診担当医師と受け持ち患者についてカンファレンスを行います。それが終わると病棟回診になります。病室は大きくても3人部屋で、入り口の扉は基本的には閉まっていますが、部屋のベッド間には仕切りのカーテンはありません。曜日ごとに決まった医師が回診をしているようで、リハビリの進捗状況を確認したり、術後の創部包交を行います。どの部屋に入っても毎回自己紹介をしていました。創傷処置は専用のアルコールスプレーを吹きかけるだけでしたがその他は特に日本と大きな違いはありませんでした。

一方、手術は8:00から開始となり担当医師はカンファレンス後、手術室に向かいますが、8:00にはすでに麻酔導入は完了しています。外傷専用手術室と整形専用手術室がそれぞれ一部屋あり、1列あたり6~7件ほどの予定手術が入っています。手術室の目の前には麻酔室があり、手術が終わる頃になると次の患者の導入やブロックが開始し、退室後30分程度で次の患者の入室となります。術者はほとんど休む間も無く、次から次に手術をこなしていきます。また、手術が長引いている際は空いた部屋に次の患者が入室していきますので、予定手術は16時にはほぼ終わっています。ドイツでは労働時間が8時間/日を超えてはならない(10時間/日まで延長できるが半年以内で平均労働時間が8時間/日にならなければならない)とのことで、医療現場でも浸透しているようでした。 手術手技はどの医師も大きな格差がなく一律に一定の水準は超えている印象です。AOのコンセプトもしっかりと理解し実現されていましたが、日本人に見られる細部へのこだわりはあまり無いように感じました。また、ベテラン医師が透視を出しすぎないよう、骨を感じて整復固定しているのは若手にも伝わっているようでした。毎日、15:30から30分ほど翌日の予定手術に対するカンファレンスを行います。手術の終わった医師から集まり議論をしますが、全てドイツ語で理解は困難でしたが、Prof. Culemannやスタッフが英語で説明をしてくれることもあり、なんとかついていくことができました。ドイツ人は「頑固で自分の意見を曲げない」「理屈っぽい」「愛想が悪くあまり笑わない」と聞いていたため、初めはとても緊張しましたが、実際は、自分の意見にも耳を傾けてくれ、状況によってはその意見を取り入れてくれることもありましたし、手術やカンファレンスでもよく笑い明るい雰囲気でした。様々な民族を受け入れてきた背景もあり、多様性を受け入れるような、いい意味での楽観主義もあるのかもしれないと思いました。(写真2)また、日本の外傷治療では病院間や医師間に格差があるように日頃から感じておりましたが、ドイツではその格差をシステムで埋め合わせているような印象を受けました。各国ごとの事情があるので、そのまま日本に持ち込めるシステムはないにせよ、日本人得意の“日本流アレンジ”でうまく取り込めることもありそうだと思いました。

【その他】
研修中は病院のすぐ裏にある寮の部屋を格安で提供いただきました。シャワー、トイレ、キッチン、冷蔵庫、洗濯乾燥機はすべて共用ですが、他の寮生と交流できたのも良かったです。食事は基本的に自炊ですが、近くにスーパーがあり新鮮な食材を手に入れることができました。ビールやワイン、乳製品は大変安かったので買いすぎに注意でした。
【最後に】
このfellowship programはどの経験年数で行っても必ず得られるものはあると思いますし、私は2回目の挑戦でなんとか機会を得ることができましたが、諦めずに申し込んで良かったというのが感想です。 このような貴重な機会をアレンジしてくださったAOTraumaの皆様、外傷患者搬送が増えている中で、研修に行くことを許可してくれた職場の上司や同僚、後輩、そして、いつも応援してくれる家族には本当に感謝しております。ありがとうございました。

写真1:Celleの町
写真2:朝のカンファレンス
写真3:カンファレンス後スタッフと