University Medical Centre of the Johannes Gutenberg-University Mainz, Germany, 2019/5/13-6/21 井上 智雄先生 (香川県立中央病院)

僕は2019年5月から6月にかけて6週間、ドイツのマインツにあるThe Johannes Grutenberg-UniversityにてProf. Rommensの元で研修をさせていただきました。 一昨年、AOのfellowに行ってみたら?と提案してくださったのは当時部長であった長野博志先生でした。またとないチャンスを与えていただきながらも、自分にその行動力と自信が無く、『ちょっと・・。』と言っている間に、申し込みの締め切りは過ぎ、チャンスを1年棒に振りました。不安の大きな理由の一つは英語力が全くない事でした。当時、本当に英語は全く喋れなかったのです。それを、自分自身への言い訳としていました。しかし、長野先生が香川県立中央病院を退職される事が決まっており、このような機会は今後無いかもしれないと、昨年思い切ってAO Trauma fellowshipに申し込みをし、その結果、今回のチャンスをいただく事ができました。
ドイツへの出発前にはAO Trauma fellowshipに参加された経験のある、佐々貴啓先生、中山雄平先生、山川泰明先生に連絡を取らせていただいて、様々な情報を教えていただき、心の支えとしました。 ドイツには高層ビルは比較的少なく、大都市の中にも豊かな緑があり、歴史的な建造物が数多あります。街は音楽に包まれ、週末観光に出かけると、そこかしこでお祭りが催されていました。日曜日は主要な駅に入っている店舗以外はスーパーを含めほとんど閉店になります。自分が思い描いていた先進国に対する定義は何か間違っていたんだなと理解しました。ほっこりとした豊かさを感じる事ができるビールとチーズが美味しい素敵な国です。

平日は毎日、朝7時半からのカンファレンスに参加し、その後は夕方までずっと手術室で過ごすという6週間でした。朝のカンファレンスでのドイツ語は残念ながら、僕には全く分かりませんでしたが、気になった症例については、手術中などに質問をし、知識を補完しました。少しでも有意義な研修にしようと、開始に間に合った手術には全て手洗いをして入らせていただきました。どの先生も快く受け入れてくださりました。今回の研修の一番の目的は骨盤輪・寛骨臼骨折手術について学ぶことでしたが、骨盤手術の無い日は、他の外傷手術を見つけて手術室に引きこもりました。 The Johannes Grutenberg-Universityで研修して本当に良かったなと思う事は、骨盤の執刀医がProf. Rommensのみなく、もう一人、Dr. Wagnerがいる事です。2人の執刀医による手術は、それぞれ少しずつ細かい手技が異なっており、このため考え方、知識共に幅を持った経験ができたと感じています。 骨盤手術のみならず、四肢骨折手術においても、日本ではまだ使用できないインプラントも多くありましたが、明日にでも使えそうな新しい手技、知識では知ってはいたものの見た事がなかった手術など、学ぶことが豊富にあり、毎日がワクワクの連続でした。経験した手術については、iPadのノートアプリに写真を取り込みながら、手術の待ち時間に簡単なオペレコを作成し、感じた事、新しく知った知識・手技、ヒラメキなどを1枚のページにまとめるように努めました。

大学から、歩いて5分の宿舎に帰ってからは、プツプツ切れるWi-Fi環境の中、英語のオンラインレッスン(ドイツ語は始めの2週間ですっかり諦めました)を受けたり、Rockwoodの教科書を読んだりして過ごしました。ドイツには単身で行ったため、英語のオンラインレッスンでフィリピン人と話すのは精神的にも意外と良い効果があったように思います。 始めの2-3週間は、手術室のスタッフ始め、整形外科の先生方達とも上手にコミュニケーションが取れていたとは言えません。しかし、手術室で、自分にできる事を探しながら生活している内に、ゆっくりと打ち解けられるようになりました。僕自身も少しずつ、積極的に質問もできるようになってきました。これは性格にもよるかもしれませんが、僕にとっては6週間という期間はちょうど良かったなと思っています。 勝手に研修を決めてしまった私に対して快く理解を示し、いつも笑顔で支えてくれている妻と子供達には感謝の言葉もありません。 長野先生が退職された後、病院との調整を引き続きしてくださった川崎啓介部長を始め、多大な迷惑をかけました諸先輩方、後輩達、病院スタッフの皆様に対しても、深く感謝しています。 ドイツでの6週間の研修で僕は、自分の知らなかった技術についてももちろん多くを学びましたが、自分の無知と改めて向き合い、勉強する事の大切さを改めて感じる事ができました。また、知らない世界に目を向ける事ができたこの研修は、今後の僕の人生にとってかけがえのないない財産になると確信しています。 このレポートを読んでくださっている、これからAO Trauma fellowshipに申し込もうか迷われている先生、何かご質問がありましたら、お気軽にご連絡ください。

写真1:Prof. Rommensと共に
写真2:Dr. Wagnerと食事の後
写真3:休日は電車旅に出かけました