AO Trauma Faculty Education Program (FEP) Hong Kong, 2016/9/3 – 9/4 小林 誠先生 (帝京大学)

2016年9月3日~4日に香港で行われたFaculty Educational Programの体験記を報告します。
過去の報告と同様に、本番の5週間前からネット上の仮想学習空間を用いて事前学習を行いました。
1週目は仮装学習空間の使用法説明、自分の顔写真をアップロードして簡単な自己紹介を行う、といった簡単な内容でした。
2週目は、「人はいかにして学ぶのか?」と題して「学習の科学」を学びました。皆さんが臨床研修指導医講習会で学んだであろう、有名なBloomのtaxonomy、すなわち学習の認知的側面、スキルの側面、態度の側面などなど、テキストを読んだり動画を見たりした後で、オンラインのクイズに答えます。私はロックウッドの教科書や骨折関係の医学英語論文を読むのに全く不自由を感じないのですが、本プログラムのテキストやオンラインクイズでは、「英語の意味がわからない」ことがしばしばありました。教材がスクールイングリッシュで書かれていないことは我々にとって問題だと思います。
3週目は講義の仕方について学びました。学習とは、経験によって己の行動が変わることである。講義を聴いた後、学習者は何かができるようにならなければならず、講義の後にできるようになることが学習目標である。講義の最初に学習目標を掲げなければならない。15分の講義では、掲げる学習目標はせいぜい三つである。例えばコンパートメント症候群に関する講義をするとしたら、掲げる学習目標は、診断方法を述べることができる、筋膜切開のやり方を説明できる、などの具体的で教師からみて測定可能な目標でなければいけません。スライドに多くの文字が書いてあると、聴衆はスライドの文字を追うのに気をとられてしまって演者の話に集中できません。したがってスライドは視覚的内容(つまり写真や図などの画像)を中心にして、文字はどでかいフォントで必要最小限にしなければいけません。
4週目はスモールグループディスカッションの進め方について学びました。講義は主に知識を伝える手段ですが、ディスカッションは知識を臨床例に応用する訓練です。参加者が知識を臨床例に応用できるよう、参加者の発言をうまく引き出さなければいけません。ディスカッションの場でモデレーターが延々と講義をしてはいけないのです。
5週目はプラクティカルエクササイズの進め方を学びました。エクササイズではBloomのtaxonomyの中のスキルを伝授します。したがって、専ら技術の伝授を行わなければなりません。エクササイズの時間に小講義をしたり、グループディスカッションをしてはいけないのです。

わけのわからない生の英語で書かれたプレコースを終え、いよいよ本番にのぞみました。
会場は九龍のMira hotelでした。初日の朝8時から9時45分まで、18人の参加者が「生まれてから今までのベストな学習体験とワーストな学習体験」を発表し、それを題材にして教師が「学習の科学」を解説しました。日本からは土田芳彦先生と私の二人が参加したのですが、二人ともまんまと最初のセッションでは何も発言しないでやり過ごすことができました。

10時5分から12時35分までは講義法です。18名の参加者が9名ずつの2グループに分かれ、各人が7分の講義を行います。その後、参加者の一人が評価者となり、演者に対して「自分ではどこがよかったと思う?」と尋ねます。次いで評価者がよかったと思う点を述べます。人は誉められることによって脳内にセロトニンがあふれ、気分がよくなります。気分がよくなるとその後に行われる教育的指導を受け入れやすい気持ちになります。これが、「とにかく誉めろ」という方針をとる理由です。次に、評価者が演者に対して「次にやるときはどこをどんな風に変える?」と尋ねます。これはちょっと困った質問なのです。自分ではこれがベストだと思って講義をしているので、講義をした直後には自分の改めるべき点がよくわからないに決まっています。これは今回の参加者が口を揃えて言っていたことで、「一晩経てばどこを改めたらいいか思いつくよね」ということです。最後に評価者が「次にやるときにはこれこれをこんな風にしたらいいよ」と助言します。「こんな風に改めろ」というのを、オブラートに包んで伝えるということだと受け止めました。参加者の多くが犯した誤りは、学習目標を明確に述べない、スライドを字で埋める、というものでした。

昼食を挟んで、13時30分から16時30分まではスモールグループディスカッションです。講義の実習と同じ9人ずつのグループで、各人が10分ずつのディスカッションで座長を務めます。参加者はわざと座長を困らせる役目を演じます。間違った意見を延々と述べる、全然議論に参加しない、ポケモンGoをやる、等々。私は座長から発言を促されたとき、「俺は英語が苦手だから当てないでくれ」と言いました。これはかなりウケました。ここで多くの人が犯した誤りは、各症例の最後に明確なtake home messageを示せないことでした。学習とは経験により行動を変えることである以上、スモールグループディスカッションを終えたら何かが変わらなくてはいけないのです。どう変わるべきかを示すのがtake home messageなのです。
夕食はホテルから徒歩7分ほどのところにあるHing Kee Seafood Restaurant に行きました。小汚いレストランなのですが、とても有名なんだそうで、壁や天井に多くの映画スターや歌手のサインがマジックで書いてありました。

二日目の午前はプラクティカルエクササイズです。参加者は二人ないし三人のグループを作り、それぞれがモデレーター役、参加者役、評価者役を10分ずつ交互に行いました。参加者役はビデオを観ずにモデルボーンを触る、決められたテーブルと違うテーブルに移動する、「こんな実習はばからしい、自分はもっと良い方法を知っている」と騒ぐ、などモデレーターを困らせます。騒ぐ参加者の気分を害さないようたしなめる、これは私の英語力では不可能です。10分ごとに「What do you think went well?」「How do you do differently next time?」が繰り返されます。
最後に一時間ほどグランドファイナルディスカッションがあり、みんなで昼食をとってプログラムが終わりました。日本のAOコースとFEPで学んだ内容は大きく乖離しています。これまでFEPに参加した先生方が、遠慮せずにAOコースのプレコース、ポストコースで意見を述べて、FEPで教わった通りのAOコースを作っていかなければなりません。行く前にはいやでいやでたまらなかったのですが、実際に受講してみると大変勉強になりました。まさに今後の自分の振る舞いが変化すると思います。

写真1: ベスト、またはワーストな学習体験を発表するセッション
写真2: 講義をするセッション
写真3: スモールグループディスカッション
写真4: プラクティカルエクササイズ