AO Trauma Faculty Education Program (FEP) Hong Kong, 2016/9/3 – 9/4 土田 芳彦先生 (湘南鎌倉総合病院)

2016年9月3日から4日までの1日半、香港で開催されたAO Trauma Faculty Education Program (FEP) に参加させていただきました。帝京大学の小林先生も一緒だったこともあり、楽しいひと時でした。また、効果的な教育法について再認識することができ、非常に有意義であったと思います。
さて、このFEPは、pre-course、post-courseとしてのe-learningと香港でのFace to Faceコースで構成されていますが、その内容は過去に掲載されている諸先生方の参加者レポートとほぼ同じでした。今後も参加される先生は目を通されて準備すると良いかと思います。

e-learningについてもう一度かいつまんで申し上げますと、5週間前から1週ごとに課題をこなしていきます。1週目は「Introduction」ですがweb上で自己紹介を行い、Q&Aで「教育における自己評価」を行います。2週目は「How people learn」、3週目は「Giving a lecture」、4週目は「Leading group discussion」、5週目(直前)は「Running a practical exercise」で、それぞれテキストを読みQ&Aに答え、そしてweb上のdiscussionに参加します。そして本番のFace to Faceコース用に「7分間のレクチャー(自分で任意にテーマを選択)」、「10分間のSmall group discussion(これも自分で任意にテーマを選択)」、「20分間のPractical exercise (これはlag screw、locking plateなどの模擬玩具?での実習)」を準備し、香港へ向かうことになります。せっかくの機会ですから十分に時間をかけて準備した方が楽しいに違いありません。

本番のFace to Faceコースは香港のMira Hong Kong Hotelで1日半かけて行われます(ここはかなりオシャレなホテルです)。日本からの移動はCathay Pacificで行きましたが、さすがに機内食は美味しくないですね。JALを選択すべきだったと後悔しています。香港国際空港の出口にはホテルからの迎えが待っており、リムジンでMira Hong Kongへ連れて行ってくれます。そして、その夜はホテル近くの場末の匂いのする中華店で怪しい料理を食し、眠りにつきました。

私は朝が早いので香港時間の朝4時には起床し、本などを読みゆっくりと過ごしました。6時30分に朝食会場へ行きますと、そこにはすでに小林先生がおり、近況などをお聞かせいただきました。

1日目の朝7:45にホテル内の会議室へ集合しますが、Faculty 3名と参加者19名がゆるりと集まってきました。
8:00-9:45は「Introduction」セッションです。Hong KongのLap Ki Chan先生の司会でtalkが進んでいきます。参加者の幾人かから今まで受けた「良い教育と悪い教育」についてプレゼンしてもらい、それを元に話し合うという形です。1つの話題で10−15分ほどtalkが行われますから、全員がプレゼンする時間はありませんでした(これはラッキーか、アンラッキーか)。  20分のcoffee breakをとり、10:05-12:35は「Giving a lecture」セッションです(参加者を2つのグループに分け、もう一つのグループは「Small group discussion」になります)。ここでは事前に準備していた7分間のlectureを行い、その進め方についてfacultyを中心に討論します。良いレクチャーを行うために多くのポイントがありますが、私が重要だと思ったことを挙げてみます。

1. 「最初の掴みが重要」:これは刺激的な症例提示やARSの事です。日本のAO講義でもARSなんかいるのだろうかと思っていましたが、これは「掴み」のために重要なのですね。再認識しました。

2. 「Learning outcomeとTake home messageの明確な設定が何より大切」:この2つは必ず呼応していなければなりません(考えてみれば当たり前)。そしてレクチャーの内容はこのLearning outcomeを明確に伝え、Take home messageにつなげるように構築します。

3. レクチャー自体の内容、スライドの構成、表現の仕方などたくさんのポイントがありますが、これについては多くの講義をされてきた先生方なら十分理解されていることでしょうから、今更言うべきこともないかもしれません。

さて、討論は常に“Feed back形式”で行われます。これはSmall group discussionでもPractical exerciseでも同様であり、「何がうまくいったのか:What went well ?」「次にはどうするのか:What you would do differently next time」を本人と評価者が順に述べていきます。lectureをすること自体や自分のlectureについて述べることは準備をしていればあまり問題ないのですが、人のlectureの評価を行うことは日本語でも難しいのに、英語で行うことにはさらに難しい事でした。
この後、参加者全員で昼食タイムとなりますが、ホテルの昼食はなかなか充実しており堪能しました。
13:35-16:05は「Facilitating small group discussion」セッションです。事前に準備した10分間のCase discussionを他の参加者を対象に行います。AO courseで今まで幾度となくSGDは取り仕切ってきましたので、それほど問題はないかと思っていましたが、何点か再認識させられました。Lectureでも共通していますが、”Learning outcome”と”Take home message”を明確に設定し、受講者が生きた知識として会得できるように、討論のやり取りの中で伝えていくことです。決して知識を伝えるmini lectureなどになってはいけないことは認識していても、ついしてしまいがちです。そして、常にinteractiveであり、open question、reflection、そしてpositive feed backです。これらのことは、次のAOコースで如何なく発揮させていただこうと思います。
1日目の最後(16:25-17:00)は「Summary」セッションです。4人ずつのグループに分かれて、教育的手法において何を学んだかを話し合い、代表者が発表します(してもらいました)。

これでようやく長い1日も終わり、楽しいWelcome dinnerです。会場はMiraホテル近くの中華料理店で、Movie starが幾人も訪れるほどの有名店に行きました。どう見ても、その内装は場末の飲食店風なのですが、料理は確かに美味しい。もう一度行きたいものです。Dinnerでは他の参加者と「アジア諸国の外傷整形外科事情」を始め色々なことを聞かせていただき、とても楽しいひと時でした。そして「ダメだダメだ」と思っていた日本の外傷整形外科医療も案外捨てたものではないかもしれないという印象を持ちました。アジアの外傷医療はこれからですね。

1日目の夜はしっかりと睡眠をとり、そして例のごとく朝4時に起床しました。
しっかりと朝食を摂り、2日目は朝8時集合、8:00-10:30まで「Teaching practical skills」セッションが行われました。これは持ち時間20分で行うPractical exerciseで、「骨接合おもちゃ」を使用しlag screw, neutralization plate, locking plateなどの模擬実習を行うものです。2-3人で一組となり、モデレーター役が1回、参加者役が2回、オブザーバー役が1回の計4クール行います。
モデレーター役の際は1人がmoderatorとなり、もう1人あるいは2人がtable instructorになります。オブザーバー役では他のモデレーションに対するfeed backをするのですが、これは例によって、「何が良かったか? できたか? 次はどうしたらよいか? 」を述べます。やはりこれが難しいですね。
さてさて、その後1時間まとめのセッションがあり、このコースで何ができたか、次にどう生かすか、またコース全体についてのアンケートを記載して、このコースは終了となります。
最後には自分のlecture、small group discussionの映像を記録したUSBが配布されます。あとで、自分の姿を見て反省しましょう。
昼食をまたみんなで摂り、後は帰国を待つのみです。フライトまでの時間に余裕がありましたので、昼食でたらふくシャンペンを飲みながら、また「各国の事情」をお聞きしました。さて、短い期間でしたが帰国の途につくことになりました。家に着いたのは日曜の夜11時です。明日も4時に起きなければなりません。疲労感がいっぱいです。早く寝ましょう。

本コース後の第6週目は、post-courseとしてのe-learningがあります。Q&Aに答え、そしてweb上でのdiscussionに参加し全てが終了になります。
今回のFEPへの参加は、正直な所、些か「面倒だなー」と思っていましたが、予想に反して(?)かなり楽しいものでした。
今回、参加する機会を与えていただいたAO Trauma Japanの関係諸氏に深謝いたします。