University Medical Center of the Johannes Gutenberg University, Germany, 2017/7/24-9/1 山川 泰明先生 (岡山大学病院)

2017年7月24日~9月1日の期間にドイツ・マインツのUniversity Medical Center of the Johannes Gutenberg University(ヨハネスグーテンベルク大学病院)にAO Trauma fellowshipにて研修させて頂きました。過去に日本から多数の先生が同施設に行っており、それらの先生のレポートと重複する部分も多々あると思いますが、以下報告させていただきます。

私は現在大学病院の高度救命救急センターに勤務しており、重症外傷症例の初療などに携わることも多くあります。自分のAO Trauma fellowship渡航の目的としてはドイツのレベル1トラウマセンターで外傷症例の初療からの一連の流れを把握すること、骨盤骨折の大家であるRommens教授のもとで勉強することでした。
ヨハネスグーテンベルク大学病院は多くのfellowshipを受け入れている病院であり、毎年10名前後の受け入れをしているとのことで、日本からも毎年のようにfellowshipに訪れています。ちょうど私の訪問中にもイランからのfellowshipの方と期間が重なりました。またドイツでは10年ほど前に整形外科学講座と外傷学講座が合併しており、整形外科・外傷外科センターの主任教授をRommens教授が務めておられましたが、実質には外傷学講座(Unfallchirurgie)はRommens教授、整形外科学講座(Orthopädie)はDrees教授が統括されていました。
直前にあった第43回日本骨折治療学会にRommens教授とDr. Kuhnが来日されており、事前に顔合わせすることができ、安心して渡航することができました。家族で渡航したため自分で事前にアパートを押さえていましたが、現地到着後にほかの人と契約してしまったとメールが来ており、急きょ滞在ホテルを探すという幕開けとなってしまいました。結果としてマインツから電車で20分ほど離れたRaunheimという街にホテルを借りて滞在しました。

1日の流れとして、朝は7時30分からカンファレンスが開始され、前日の手術症例の術後、夜間に来院した外傷患者、問題のある患者のプレゼンテーションが30分-1時間程度で行われました。毎週水曜日はミニレクチャーもあり、Oberarztの先生や他科の先生が20分程度の講義をしていました。カンファレンスの内容はドイツ語だったので分からない部分もありましたが、あとで質問すれば快く答えていただけました。8時半ごろには手術室に行き、その日の手術にどれでも入っていいと言っていただけました。整形外科と外傷外科が合併した際に専用手術室が7室から4室に減ったとのことでしたが、連日整形外科と外傷外科合わせて10-15件の手術を行っており、年間3000件の手術をしているとお聞きしました。私は夜間・休日の緊急手術などには入りませんでしたが、毎週末5件程度の緊急手術(骨端線損傷のピンニングや創外固定など、時に長管骨骨折の内固定)も行っていました。手術はほぼ外傷チームの手術を見学もしくは手洗いをさせてもらいましたが、一般的な手術が多く、橈骨遠位端骨折や大腿骨転子部骨折などを中心に日本との違いなどを議論しました。最初2週間はRommens教授が夏休みだったのですが、帰ってこられてからはそれまでの間に来ていた骨盤骨折が毎日のように手術が行われ、6週間の中で計12例ほどの骨盤・寛骨臼骨折の手術に入らせてもらいました。当病院では脊椎インストルメントを使う場合は脊椎チームに依頼していますが、Rommens教授は自らがpedicle screwを打ち、ロッド操作なども行っており、驚嘆しました。IS screw刺入は全例透視下に挿入しており、当院ではナビゲーションを使用してIS screwを挿入していることもあり、ナビゲーションについても質問したところ、10年ほど前に試していた時期もあったとのことですが、精度や時間がかかるとのことで使用してないと話してくださいました。夕方には4時からカンファレンスがあり、翌日の手術症例とその日に外来に来た相談症例の提示がなされていました。4時半過ぎにはカンファレンスも終わり、帰宅してフリータイムとなります。

レベル1トラウマセンターの見学としてはヘリが頻繁に飛んではいるものの、転院搬送や外傷以外の症例の搬送にも使われているため、ヘリの音が聞こえて外来に行ってもはずれが多く、気管挿管や大量輸血が必要な重症外傷症例の初療に携わるということは1度もありませんでした(夜間・土日などには重症症例も来ていました)。診療体系は麻酔科、外傷・整形外科、放射線科が初療に参加し、あとは必要な科があれば応援に来てもらうという体制でした。全例がJATECのような標準化されたプロトコールで診療するのではなく、症例によっては直接CT室へ搬送したり、エコーを丹念にしたりと状態によった対応をしていました。
Rommens教授の外来が木曜日にあり、見学させていただきましたが、フォロー中の脆弱性骨盤輪骨折の患者さんをたくさん見させてもらいました。知人の知人という下腿骨折後の患者さんがおられ、日中一人になってしまうため在宅での生活が困難となっているという方には、Rommens教授自らが施設を見つけてきてあげたとのことで、お人柄がしのばれるエピソードも垣間見られました。

最終日になってはしまいましたが、プレゼンテーションを行う機会も与えていただきました。マインツで開発され、日本で製品化された脛骨遠位端骨折用逆行性髄内釘DTN(distal tibial nail)の症例発表をかねた内容を発表し、2018年の岡山での日本骨折治療学会も宣伝させてもらいました。終了後には拍手でなく椅子をたたくという特有のセレブレーションに加えて、いくつかの質問もうけ好評いただけたようです。
研修外の話題としては、ドイツは朝夕がとても涼しく走るのに最適だったためランニング練習を行い、現地でハーフマラソンに参加したり、そのほかおいしく安いビールやソーセージを食べたり、期間限定のフェダーバイザー(発酵途中のワイン)を飲んだりとスポーツ・食についても満喫しました。

最後に、6週間という長期に渡り留学することを快諾し送り出して下さった岡山大学病院整形外科の尾崎教授、野田先生をはじめ、留守中を支えて下さった整形外科・高度救命救急センターの諸先生方、さらにはAO Trauma Japanの諸先生方に深謝いたします。今回の経験を生かし、今後の診療へと役立てていきたいと思います。

写真1: 手術室で(右からRommens教授、Dr. Wagner、私、Dr. Wollstädter、学生さん)
写真2: プレゼン最中
写真3: 修了証授与、Rommens教授と