Gelenkchirurgie Orthopädie Hannover, Germany, 2016/10/31-11/11 五嶋 謙一先生 (富山市民病院)

2016年10月31日から11月11日までの2週間、AO Fellowとして、ドイツ、ハノーファーのGelenkchirugie Orthopädie Hannoverで研修させていただく機会を得ましたので報告いたします。このクリニックには、AO knee groupの膝周囲骨切り術で有名なPhilipp Lobenhoffer教授がおられ、私は膝関節手術(特に膝周囲骨切り術)を中心に勉強させていただきました。
(写真: 左より順にKley先生、筆者、Lobenhoffer教授)

ハノーファーは北ドイツの主要都市のひとつで、人口は52万人、ニーダザクセン州の州都です。18世紀にはイギリス国王も兼ねたハノーファー王家ゆかりの町でもあり、今でもヨーロッパらしい古い建物をみることができます。一方で、商工業が盛んで、年に一度、世界最大規模の国際産業技術見本市(ハノーファ・メッセ)が開催され、世界中から人々が集まる国際都市でもあります。


(写真: ハノーファー市庁舎) Gelenkchirugie Orthopädie Hannoverは中央駅から徒歩圏内の街中に位置します。膝周囲骨切り術を勉強に世界中から整形外科医が訪れています。私も4年前にTomoFix Clinical Training で訪れたことがあり、今回が2回目の訪問でした。Lobenhoffer教授の下、Agneshkirchner先生(肩関節)、Troger先生(膝関節)、Kley先生(膝周囲骨切り術、股関節)、そして肩関節を勉強中のfellowが1人という体制で日常診療が行われています。しかし、この人数で膝、肩関節を中心に年間3000件程の手術が行われており、1日に10件以上の手術がありますが、非常にSpeedyで、午後3時には全ての手術が終了します。手術時間はOWHTO20分, DFO30分, TKA30分, UKA30分, ACL再建30分, ARCR30分と、その早さには驚かされました。どの先生も手術が非常に上手く、手術が停滞することはありませんでした。また手術以外でも、入室から体位の準備、消毒、退室までの流れが、全てシステム化されていて非常に効率が良く大変勉強になりました。また、どのスタッフもprofessionalとしての意識が高く、見習うべきところがたくさんありました。

クリニックの1日は、朝7時からのmeetingで始まります。前日撮影した画像を全てスタッフでcheckし、meeting後はすぐに手術です。私はLobenhoffer教授の手術を中心に入らせていただきました。短い期間でしたが、TKA, UKA, ACL再建、Double level osteotomy, DFO, OWHTO, CWHTO, 脛骨高原骨折(後外側approach), 膝軟骨移植術, 脛骨粗面移動術、ARCR, 鏡視下Latajet, Reverse shoulder arthroplasty, TSA, THAなど、非常に多くの手術に入らせていただきました。 当初、Lobenhoffer教授は、膝周囲骨切り術ばかりをしているのかと思っておりましたが、TKA, UKA, 膝周囲骨切り術を年間に各々約300件ずつ行っていることは驚きでした。膝関節外科医であれば3つを平等に使い分けなければいけないということを力説されており、その明確な手術適応はとても勉強になりました。膝周囲骨切り術に関しては、やはり変形中心の部位、術後のjoint line obliquityを重要視されており、変形中心が大腿骨、脛骨両方にあれば、当たり前のようにDouble level osteotomyを行っていました。
(写真: Double Level Osteotomy )

我々の感覚では大腿骨、脛骨両方を骨切りするわけですから侵襲も大きいと思いがちですが、MISかつ軟部組織を愛護的に操作しており、double levelでも1時間以内に手術が終わっていました。術後の回復も早く、軟部組織を愛護的に操作することの重要性を改めて認識しました。 Kley先生には、このMIS手技のコツやpitfallについて多くの事を教えて頂きました。ただ、最初からMISをする必要はなく、やはり確実で安全な手技が重要だと説明されていました。研修は手術中心でしたが、術後は質問したことに対してLobenhoffer教授が、講義をして下さり、非常に教育的な方で感銘を受けました。
(写真: MIS DFO )

また今回の研修期間中にLobenhoffer教授主催の12th Hannover arthroscopy and arthroplasty courseに参加させていただきました。この会はヨーロッパの著名な先生方を招いてLive surgeryを行い、手術手技を解説しながら進行していくといったもので非常に勉強になりました。今回は肩、肘でしたが、膝関節も行うとのことで、また是非参加できたらと思います。また、最終日には、スイスでAOのJPEG(Joint Preservation and Osteotomy Expert Group) meetingに参加させていただきました。この会では、AO knee groupの有名な先生方と話ができ、また発売前のTomoFix anatomical plateを用いたOWHTOのdemonstration (cadaver膝)を見ることもでき、大変貴重な経験をさせていただきました。 私のFellowshipは、AO Trauma Visit the Expert Fellowshipといって今年度から新設されたものです。この制度は従来のAO Trauma Fellowshipと異なり、2週という短期ではありますが、専門的手術(私の場合は膝周囲骨切り術)を勉強するには非常に良い制度でした。私自身、4年前に訪問した時と違い、より詳しく手術のコツやpitfallに関して勉強することができたように思います。旅費は自費(食事代、宿泊代の支給はあり)ですが、何より海外での医療や骨切り術に対する考え方、文化の違いに触れることができ、私の医師人生の中で非常に貴重な経験となりました。 最後に、このような貴重な機会を与えて下さいました富山市民病院の澤口毅先生をはじめ、富山市民病院の同僚、そしてAO Trauma Japanの諸先生方に深くお礼を申し上げます。