AO Trauma Course– Surgical Preservation of the Hip with Anatomical Specimens Sapporo, 2016/11/24-11/26 岸田 俊二先生 (聖隷佐倉市民病院)

2016年11月24日から26日にかけて札幌で開催された、AO Trauma Course – Surgical Preservation of the Hip with Anatomical Specimens に参加しましたので報告します。本コースはAO Traumaでは日本で初開催となる股関節温存手術に主眼をおいたコースでcadaverを用いた手術手技ワークショップを主目的としたものです。 氷点下を下回る寒冷な気候でしたが関東から参加した私にとっては寒さも楽しみの一つでした。

初日は札幌プリンスホテルに集合しました。まずChairperson の澤口毅先生から本邦では初になる股関節領域の関節温存治療のコースであること、献体をご提供いただいた方達の尊い意思に基づくcadaver workshopであることの説明がありました。講義は飯田寛和先生から寛骨臼形成不全の本邦における疫学と諸外国との比較からスタートしました。その後、寛骨臼形成不全の診断、治療と続きました。手術法のセッションでは米国のMayo先生から米国における関節温存手術の意義についての講義がありました。 海外の講師からスイス、米国を中心とした欧米の事情のほか、中国、インドの先生からも、話が聞け、興味深いものでした。AOのコースでは講義の後に徹底したケースディスカッションをすることが特徴です。各講師がモデレーターになり、グループに分かれました。典型的な寛骨臼形成不全から始まり、骨切り後のリビジョンケースまで講師の先生が持ち寄った症例に様々な意見が出ました。国内外の著名な講師と近い位置でディスカッションでき、貴重な経験となりました。  2日目は寛骨臼形成不全の手術成績の報告のあと、近年、日本でも注目されているfemoroacetabular impingement(FAI) について病態、注意すべき類似疾患、手術法について講義がありました。ベルン大学のSiebenrock先生からFAIの体系的な講義がありました。FAIはベルン大学のGanz教授が提唱した概念であり、ベルン大学の豊富な症例の長期成績と最新の知見が紹介されました。豊富な知見に基づいたお話しは説得力のあるものでした。加屋光規先生からは股関節鏡治療についてメリットと今後の課題について美しい動画と共に紹介がありました。その後、大腿骨頭壊死症のセッションがあり、渥美敬先生の講義から始まりました。大腿骨頚部の血管走行に始まり、先生のライフワークである骨頭壊死の病理、病態、手術方法まで丁寧な講義がありました。その後、ペルテス病の講義がありました。小児股関節疾患を扱っていない私にもわかりやすい講義でした。二日目最後の講義は大腿骨頚部骨折の偽関節についてでした。インドのMagu先生からインドでの骨折治療の現状を講義して頂きました。特にアジア人に特有の胡座(あぐら)をするためには関節温存が有効であることを強調されていました。二日目のケースディスカッションでは中国のChen先生が中国での関節温存術の現状について話してくださいました。座長の糸満盛憲先生にはご自身の骨頭すべり症の治療経験や手技のコツを伝授頂きました。 

3日目は札幌医科大学に場所を移動し、献体を用いた実習を行いました。各講師が実際に行う手術法の手技を一緒に体験する形式で行われました。内藤正俊先生のcurved periacetabular osteotomyの実演では、骨きりノミのスタート地点や恥骨部の展開など学会での講演やスライドだけでは把握できないポイントについて直接ご指導を受けることが出来ました。渥美先生の大腿骨頭回転骨切り術は海外講師陣も注目しており、渥美先生は英語で解説しながら手術を実演されていました。原俊彦先生のsperical peciacetabular osteotomyでは、解剖学的見地にたった骨きり位置の決定方法と低侵襲な展開を実演していただきました。安永裕司先生のrotational acetabular osteotomyではノミの入れ方や内板にノミが当たる時の音の変化を実演して下さいました。

Chairpersonの澤口毅先生をはじめ講師の先生方、札幌医科大学解剖学教室、整形外科学教室の皆様、そしてこのcourseを支えてくださったAO Traumaのスタッフの皆様、ほんとうにありがとうございました。最後に尊い意思を持って献体くださいました献体者の皆様とご理解を頂いたご遺族の方に深謝いたします。