Australia, 2015/7/20 – 8/28 依光 正則先生 (岡山労災病院)
2015年7月20日から8月28日までAustraliaのBrisbaneにあるPrincess Alexandra Hospital(以下PAH)にてAO Trauma Fellowshipの研修をさせていただきました。Brisbaneは人口約200万人、Australia では三番目に大きな都市で、そこでの重傷外傷はPAHともうひとつの外傷センターで治療を行っているとのことでした。そこで私がさせていただいた貴重な経験につきご報告させていただきます。
PAHは、Brisbane市街地の中心からまっすぐ南にあり、徒歩であれば1時間ぐらいで行くことができます。同病院には宿泊施設がなかったため、病院から徒歩で15分ぐらいの場所に個人的にアパートを契約しました。7月17日の夜8時にBrisbane空港に到着し、空港からはタクシーを利用して約30分でアパートに到着しました。目の前にはクリケットスタジアムと大きなバスストップ、敷地内にはスーパーマーケットもあり、とても過ごしやすいところという印象でした。しかし、到着した時間が遅かったため、アパートの受付には鍵が掛かって真っ暗、入口の前でスーツケースにもたれかかって途方に暮れておりました。するとアパートから出てきた全身入れ墨の若い男性が声をかけてくれました。事情を話すとアパートの管理者に連絡をとってくださり、何とか入居することができました。Brisbaneは真冬でしたので、あのひとに助けていただかなければ凍えていたかも、と今思い出しても恐ろしくなります。でも、なぜあの人はタンクトップで歩いていたんだろう・・・。
PAHは、毎日が朝7時からのカンファレンスで始まります。約20人のレジデントと数人の海外からのフェロー、そして約10人のコンサルタントが集まるため、すし詰め状態になります。そこに看護師や学生も入ってくるので少し遅れようものなら立ち見になってしまいます。内容は当日手術予定の外傷患者とすでに緊急手術を行った患者をプレゼンし、その日の予定を確認することです。毎朝10例程度のプレゼンを行い、予定手術と合わせて1日25件ぐらいの手術を行っていました。外傷は3人のコンサルタントが、週に1回それぞれ別の曜日に手術をおこなっていました。開放骨折や骨幹部骨折の多くは夜間に行っており、できなかった症例は8時半からの手術でこなしておりました。脊椎外傷も、ほぼ毎日緊急手術をしている印象がありましたが、なんと年間200件ぐらいの脊椎外傷の緊急手術もしているとのことでした。夜間緊急手術は脊椎フェローが呼び出されて執刀します。通常は2-3人いるという脊椎フェローが私の滞在中には1人だったとのことで、その1人は心配になるほど働いていました。また、週に一度は外来があります。Prof. Schuetzの予約患者をResidentやRegistrarが診察をして報告するという形で、時に自分で声をかけたりもします。そのためProf.自身は時間に余裕があり、チップスをかじりながらうろうろと見て回っていました。そして、難治症例の診察があると、突然症例検討会が始まります。過去にさかのぼって症例を提示し、私とRegistrarに質問を投げかけてDiscussionを誘導してきます。多くのRegistrarの経験年数は10年たらずでしたが、こういったトレーニングを日々受けているせいかとても流暢に治療方針をプレゼンします。私も負けじと・・、と思いますが、やはり言葉の壁が邪魔をして、自分の意見の十分に伝えられませんでした。こうした悔しい思いを忘れないようにして、日々の英語トレーニングは継続する必要があることを感じました。
週に2回はPrivate hospitalに連れて行っていただき、一般的な骨折の手術も見させていただきました。残念ながら手洗いをしての手術のサポートはできませんでしたが、沢山の手術を見て回ることができたのは良い経験でした。Prof. Schuetzの手術はとても繊細で、術後の患者さんのケアも自身で行っていました。これは私がいままで海外の医師に対して抱いていた印象とは正反対であり、共感できるとともに多くのことを学ぶことができました。手術室では、男性の助手が患者の搬送、体位確保を行い、看護師は手術に専念して、高いレベルでのサポートを行っていた点もとても印象的でした。
最後にProf. Schuetzは、Queensland University of Technology(以下QUT)の教授としてもたくさんの研究やインプラント開発にも携わっています。QUTでは、AO Research fellowが2人働いており、紹介していただきました。彼らに研究施設を見せていただいたり、研究の内容をプレゼンしていただいて意見交換をしたり、そして、実際にインプラントの解析を行っている医師からも多くのことを聞かせていただきました。時には研究室で、そして時にはビールを飲みながらいろいろな話ができたことはかけがえのない財産になりました。一方で、日本国内においてこのリサーチという分野はとても弱い分野であることを思い知らされたことも事実であり今後の課題にしていきたいと思います。
私は今回のAO Trauma Fellowshipを通して、多くのことを見て学び、そして今後自分に必要なことが何かを考えるきっかけを与えていただきました。日々の忙しい診療から離れてまったく違った世界を見ることは、多くの医師にとって必要なことです。こういった機会を与えていただいたことに感謝を忘れないよう、今後の外傷治療の発展に貢献していきたいと思います。
写真1: PA Hospital 外観
写真2: 手術室スタッフとともに(遺伝子の違いを感じた瞬間)
写真3: Prof. Schuetzの骨盤骨折の手術中
写真4: Brisbane cityを見渡せるMt.Coot-tha頂上にて
左からDr. Jeffrey(インドネシアからのAO Trauma fellow)、Prof. Schuetz、
Dr.福島(東京大学からのAO Spine fellow)、筆者本人