Germany, 2015/10/5 – 11/13 脇 貴洋先生 (神戸大学)

私は2015年10月5日から11月13日にかけての6週間、ドイツ・アーヘンにあるUniversity Hospital RWTH Aachenの外傷整形外科部門において短期研修を致しました。
アーヘンはドイツの最西端に位置し、ベルギーとオランダの国境に接し、フランクフルト空港からはICE(ドイツ版新幹線)に乗り約2時間で到着します。人口25万人の比較的小さな街ですが、温泉地そして学生の街としても知られ、5万人以上の学生が4つの大学で勉学に励んでいます。また、ドイツで最初に世界遺産として登録されたアーヘン大聖堂がある観光都市です。

University Hospital RWTH Aachen は旧市街から少し離れた郊外に位置します。工場のような外観を呈し、そして斬新なデザインのヘリポートが併設されています。外傷整形外科部門は、多発外傷におけるDamage Control Orthopaedics (DCO)を世に広めたPape教授が率いており、約25人の医師が外傷のみではなく人工関節、脊椎、スポーツ外傷なども治療しています。アーヘン大学の医療圏の人口は150万人で、日々たくさんの患者がヘリコプターで搬送されてきます。病院の総病床は1300床、年間の外傷搬入数は1万5000件、外傷手術件数は3000件あります。手術室は33室あり、外傷整形外科部門では2室を自由に使え、日本に比べて手術室へのアクセスは極めて良好でした。

朝は7時15分からの集中治療室(ICU)の回診から始まります。Pape教授を先頭に、外傷整形外科医、集中治療医、リハビリ医などでICUの患者を毎朝回診し、日々の診療計画を確認します。その後、7時30分から朝のカンファレンスを行い、それから病棟回診班、外来班、手術班に分かれます。保険制度の関係で教授指定の患者が存在し、その多くは大使館を経由してPape教授を頼ってきた中東方面の富裕層で、中にはシリアの内戦で負傷した兵士などもいました。
ドイツでの手術を見て感じたことは、dissectionが非常に早い一方で、整復にはとても時間をかけていました。髄内釘手術でもプレート手術と同じく、ちょっとした転位の残存も許容せず、なんら躊躇もせずに骨折部をあけて、完全な整復をしていました。また、手術室看護師のレベルも高く、医師の指示を待たずに、適切なインプラントを差し出したり、場合によっては勝手にベンディングしていたり、さらには、このスクリューの位置が悪いとか、長過ぎるといったことまで医師に助言していました。もちろん、医師も負けずに言い返したりしていましたが、多くの場合で看護師の方が正しくて、結局は看護師の指示通りにやり直していることが多く、ドイツの外傷治療を支えている一翼は間違いなく優秀なORPの存在であることを実感しました。

アーヘン大学に付属しているTscherne Research Laboratory For Orthopaedic Traumaも見学しました。室長であるPfeifer先生はアーヘン大学での外傷基礎研究を支えている先生で、まだお若いのですが多数の論文を世に出されています。私自身も今は大学で外傷基礎研究に没頭しており非常に仲良くしていただき、自宅にも招いてもらいました。Pfeifer先生は基礎研究医と外傷整形外科医を両立させており、そのような環境を羨ましく思いました。 研修期間中にちょうどDKOU(ドイツ整形外科学会)がベルリンで開かれ、ここで行われたPolytrauma Courseに参加してきました。Pape先生の主催で行われ、世界各国から有名な先生方が講師として参加し、現在あるEBMを2日間でレビューしてくれ、大変に役立つ内容でした。今後、日本でも開催してくださるようにお願いをしてきました。

この研修で得たことをまとめますと、Pape教授の提唱するSafe Definitive Surgery (SDS)という考え方は、多発外傷の患者をFour pathophysiologic cascades (hemorrhagic shock, coagulopathy, hypothermia, soft tissue injuries)を重視して繰り返し再評価し、根治的治療を安全にそして適切な時期に行うための動的なアプローチですが(Pape and Pfeifer. Injury. 2015)、実際にこの考え方に基づいて患者を蘇生・治療していくのを見られたのはたいへん有意義でした。これが行えるのは、例えば1日待って患者の状態が良くなったまさにその時を逃さずにすぐさまに内固定をできるという手術室の環境も必須であり、また周術期の全身管理を優秀な集中治療医がしてくれることも必要であり、日本で行うにはまだたくさんのハードルがあることも事実です。しかし、このようなドイツのシステムを目標の一つとすること、そして個人の頑張りや力量、経験にだけに頼らずに、継続性を持った外傷救急システムを構築していくことの必要性を改めて感じました。自分がレジデントの頃に、Pape教授のDCOの論文に非常に感銘を受け、また、外傷整形外科医も基礎研究をするべきであると感じ、いつかPape先生のところに行きたいと思いながら、大学院で基礎研究を学び、そしてこの度、このAO fellowshipのおかげでついに夢が叶いました。今後、この貴重な学びを生かして世界に情報を発信していけるようなClinical Scientistを目指して努力を重ねていきたいと思っております。

最後になりましたが、AO TraumaおよびAO Trauma Japanの皆様、1か月半にもわたる研修を認めてくださった神戸大学整形外科黒坂昌弘教授ならびに外傷グループチーフの新倉隆宏先生、および留守中にご迷惑をおかけした神戸大学病院の先生方にこの場をお借りして御礼を申し上げます。