Faculty Education Program Tokyo, 2018/4/14 – 4/15 矢形 幸久先生 (兵庫県災害医療センター)

実は今回、このFEPの受講者募集案内をいただいた時には、あまり深く考えもせずに応募してしまいました。

何年も前に、初期研修医指導者講習なるものを受講したことがありますが、記憶している中で成人教育論的な講習を受けたのは、後にも先にもその時だけでした。
「研修医を指導する時には、叱ってはいけない。」
「まず意見を傾聴し、『なるほど…』と同意を示しながらも、改めて考えさせ、答えを導く。」
会場に缶詰にされて3日間も過ごし、そういったことを繰り返し強調されました。最後には参加者が洗脳されてしまったような気分に陥ったことを覚えています。

このFEPもそんな感じなのかな?よく考えたら、そもそも自分がファカルティーになることはないだろうし、応募はしてみたものの自分は場違いなんじゃないか?などと思い、理事である土田先生に辞退することをご相談したところ、けんもほろろに諌められてしまいました。いずれにしても、国内での整形外科領域における専門教育講習の最高峰と言えるAO courseの、講義やハンズオンセッションの根底に流れる教育論を知っておくことは、自分にとってプラスにこそなれ損はないだろうと考え、参加することを決意しました。

コースの内容の詳細に関しては、過去に香港で参加された先生方のレポートに詳細に記載されているので、ここでは触れないこととさせていただきます。
香港受講の先生方のレポート同様、コース前のe-learningとネット上でのディスカッションから始まり本番まで、とにかくびっちり英語漬けでした。ただ今回は東京開催で、参加者が全て日本人、しかもほとんどが顔見知りでした。なので、コース全体は全て英語で進行していくとは言え、おぼつかない英語での発言も笑って許してもらえたり、二人一組でのハンズオンのデモについての作戦会議は日本語でできたり、そういう点では気持ち的には圧倒的に楽だったと思います。

印象に残ったことをいくつか挙げさせていただきます。

講義について。出だしの数秒から数十秒の間の「つかみ」が重要であり、ここが勝負(?)の分かれ目だとのこと。なんだか漫才のコンテストのようですが、通じるものはあるように感じます。Learning outcomeを設定して、そこに集約するように内容を構成することが大切で、講演中も常に視線を受講者に投げ、ジェスチャーを交え、時にはユーモアを潜ませて、いかに深く印象づけるかを工夫しなさいと強調されていました。
講義のスライドについては、日本でも昨今は帝京大学の渡部教授が提唱されている、シンプルなプレゼンテーションが浸透し始めていることもあってか、大きくて見やすいフォントを使って、カラーは3色程度まで、1スライドに載せる情報は数個まで、などといった内容を受け入れるのは至極容易でした。そして印象に残ったのは、表示される一番最後のスライドには聴衆に対するTake home messageを、簡潔な言葉で強く述べるべきであるということでした。決して綺麗な富士山や満開の桜、地元の夜景などで終わらせてはいけないそうです。これについては自分の過去を振り返ると反省しきりで、今後のプレゼンテーション作成に反映したいと思いました。

Small group discussionのモデレーター、Hands-on sessionのインストラクターについて。
過去に受講者としても、あるいはテーブルインストラクターとしても、何度もAOコースに参加していますが、Small group discussionとHands-onはコースのメインイベントと言えると思います。でも、どうしてもDiscussionはやや盛り上がりに欠け、Hands-onは大いに盛り上がるものの、手元ばかりに意識が集まるイメージがあります。ここには日本人の引っ込み思案な国民性が反映されるのだろうと思います。
今回、Discussionにおけるモデレーターとしては、講義と同様にLearning outcomeの設定がまずありきで、受講者の議論への参加を促して、個々の意見をうまく吸い上げ、ポイントとなる意見が出た時は議論を膨らませ、深めるように導いて、最終的にはTake home messageに繋げるような進行を、と習いました。なるほど、大変効果的な進行だと思いますが、これにはかなりの熟練を要するだろうと思いました。

Hands-onのテーブルインストラクターについてもやはり、達成すべきoutcomeに向かって補助をすることが求められるのですが、手技の遂行に走りがちな受講者に、その裏打ちをしている理論の再確認を促し、キーになる質問が投げかけられた時には、場合によっては全員の手を止めさせて議論して、最終的には全体に向けてポイントをsummarizeするなど、これもやはりかなり技術を要すると思われました。

モデレーター、テーブルインストラクター、いずれもにわかには上手くはこなせないと思いますが、引っ込み思案な日本人受講者に実りあるコースを経験してもらうには、実はとても重要なポジションなのだと認識を新たにし、過去のテーブルインストラクターとしての自分を振り返った時に、至らなさを痛感しました。

過去に参加された先生方のレポートでも度々述べられていますが、2日間のプログラムに一貫して求められたのが“Feedbackの4つのステップ”でした。すなわち、①学び手に自身に「良かった点、上手くいった点」を自己評価してもらう、②講師から見た「良かった点、上手くいった点」を評価する、③学び手に次の機会にはどう改善するかを自己評価してもらう、④講師から改善についてのアドバイスを送る、以上の4ステップです。
こういった指導の文化や経験を持たない日本人の我々にとっては、ある種カルチャーショックを感じもしました。しかし、「常にPositiveなfeedbackを。」と言われる方が、「研修医を指導する時には、叱ってはいけない。」と言われるよりもしっくりくるような気がします。

結果的には、過去に受講した初期研修医指導者講習の時と同じように、良い意味で何か洗脳されたような気分ではあるのですが、全編英語で受講したにもかかわらず、その時よりもしっくり腑に落ちているというのが実感です。

最後に、今回の貴重な経験の機会を与えていただいたAO Trauma Japanと、参加をためらっていた私を後押ししてくださった湘南鎌倉病院 土田先生に感謝いたします。