2019年12月にスイス ダボスで行われたAO Pelvic Courseに参加してきました。参加レポートを分担することになり私は「講義」を担当します。ご存じの通り英語の講義になり、当然通訳はつきません。日本のAOコースも同様の仕組みですが単元(Module)毎に講義、プラクティカル、ディスカッションがセットになっており講義ではまず知識の整理と確認を行います。

コース全体としては
Module 1 骨盤輪骨折 患者評価と急性期治療
Module 2 骨盤輪骨折 治療方針と根治治療
Module 3 骨盤輪骨折 特殊な臨床問題と治療成績、サルベージ手術
Module 4 寛骨臼骨折 損傷の評価
Module 5 寛骨臼骨折 治療方針と治療
Module 6 ( 解剖実習)
Module 7 寛骨臼骨折 追加トピックス
から構成されています。

Module 1では骨盤輪骨折の画像評価と初期治療における止血と一時的骨盤固定についての2つについて講義でした。
画像評価では単純X線検査とCTの読影についてで日本でも馴染みのあるAO分類またはYoung Burgess分類が使用されていましたが2018年の改定でAO分類は新しくなっており特に骨盤輪骨折はBタイプが変更になっているのでしばらくは混乱があるかもしれないので注意が必要と思われます。簡単に述べると以前はB1が外旋(open book type)でB2が内旋(lateral compression type)であったのに対して新しい分類では外旋、内旋関係なく損傷の程度でB1,B2が分類されている点が変更されている。Cタイプは従来と同様である。
初期治療については止血方法、特に動脈塞栓術とガーゼパッキングについてと骨盤の一時的固定、骨盤バインダーや創外固定、Cクランプの適応についての講義でした。講義ではヨーロッパでも動脈塞栓が適応となることが増えてきている印象ですが、出血源が動脈性なら塞栓術、静脈性ならパッキング、骨折部からならば創外固定とは単純な話にはならないため個々の病院で治療戦略を立てておくことが必要です。固定の話ではCクランプが使われることが多いと感じました。前方要素の固定には前方創外固定で対応して仙腸関節付近の固定が必要な場合にはCクランプと明確に使い分けをしていました。

Module 2では骨盤輪骨折に対する内固定の適応と方法について前方、後方に分けて講義です。適応については再度分類が正しいかどうかが鍵となり、近年では全身麻酔下でのストレステストもよく用いられています。恥骨結合プレート、恥骨枝プレートから経皮的恥骨枝スクリューやISスクリューですが提示された症例は多くが経皮スクリューでした。肥満の人が多いので観血的手術をしたくないようでした。国内では仙腸関節固定用プレートは仙骨骨折用ブリッジングプレートが市販されていますが海外ではリコンストラクションプレートをベンディングして使用する方法が行われています。一度整復が破綻した症例やspino-pelvic dissociationの症例には脊椎―骨盤固定の適応となります。

Module3では骨盤輪骨折の様々な話題についてです。まず脆弱性骨盤骨折(Fragility Fracture of Pelvis: FFP)についてMainz大学Prof. Rommensより分類と治療について講義がありました。骨粗鬆症を基盤としたFFPは高エネルギーの骨盤骨折と異なる発展の仕方をするため受傷後より分類が進行することがあるという特徴を持ちます。日本ではPTH製剤を使用することもあり薬物療法がどこまで治療に影響するかが今後の課題だと思われました。そのほかには寛骨臼骨折の癒合不全や変形癒合に対するサルベージ手術や再建手術についての講義は大変興味がありました。しかし話を聞くだけでは計り知れない問題が山積みな分野だと思います。個人的には大きな変形矯正手術は経験なく、なかなかプランニングから方針がつかないハイレベルな講義でした。最後に澤口先生から長期成績の講義があり、1年2年と言わず術後患者をフォローしていく必要性を教えていただきました。

Module4からは寛骨臼骨折へ話題が変わります。まずは分類からです。普段から骨盤単純X線検査の正面、両斜位を読影に慣れていないと辛い時間になります。Letournel分類をよく理解してX線検査で分類、CTで確認といった手順が勧められます。その後のディスカッションではたっぷり3時間分類の問題が出されました。この時間で徹底的に理解させる目的だったのでしょう。

Module5では寛骨臼骨折の手術適応の話と各種アプローチの各論になります。
手術に関するアプローチ選択は骨折の特性、骨折型の把握などからアプローチ方法や体位を決定していきますが、レベルの高い世界では得意、不得意でアプローチを選択することはできず少なくとも前方はIlioinguinalアプローチと後方のKocher-Langenbeckアプローチは習得すべき技能となります。その上でStoppaアプローチやPararectusアプローチなど特徴を生かした症例には適応を検討していくべきと考えます。このモジュールの最後に寛骨臼と骨盤輪合併損傷の講義がありました。ベネズエラの先生からの講義でしたがこれもかなりの症例数で驚きました。トラウマセンターで集約されていることと交通ルールを守らない輩が多いお国事情がなせる結果だそうです。

Module6は解剖実習になるので講義はなく割愛します。

Module7は寛骨臼骨折の最後で付随する特殊な問題についての講義になります。まず大腿骨頭骨折についてインドのProf. Senから豊富な症例提示がありました。治療方針を決定するにはPipkin分類よりもBrumback分類の方が適しており、それに沿って長期にわたるフォローがなされていました。インドでは胡座をする必要があるとのことで胡座できている写真を多く出されていました。日本で正座できないと困るとよく言われることに似ていると思いました。次はPrimary THAについてでした。骨盤・寛骨臼手術と人工関節置換術の両方に長けていないと適応が偏る可能性があり難しい問題に感じました。あとは寛骨臼の人工関節周囲骨折で骨粗鬆をベースにしたカップの変位と外傷性の症例があり、外傷性は非常に少ないが治療が難しく、特にカップの緩みの判断は画像だけではわかりづらく、迷うのですが間違うとそれが治療成績に影響するといった落とし穴があります。最後にProf. Eric JohnsonからLetournel先生の話と難しい寛骨臼・骨盤輪骨折に立ち向かう姿勢や心構えを感動的に伝えてもらいました。

5日間に渡り骨盤漬けの日々でした。講義だけではなく、ディスカッション、プラクティカルと盛りだくさんで大変有意義なコースだったと思います。全体として入門編ではないので一通り経験があってから受講した方が参考になるので推奨したいです。