AO Trauma Course Basic Principles of Fracture Management 横浜, 2022/08/27~08/29 山城 正浩 先生 (松田病院 整形外科)

この度、2022年8月27日~29日の3日間、横浜で開催された「AO Trauma Course Basic Principles of Fracture Management」に参加させていただきました。

私は卒後20年近く経過し、現在市中病院に勤務しています。脆弱性骨折により治療に難渋する症例が増加してきており、骨折治療に関する知識を基本から体系的にアップデートする必要があると感じていたのが、当コースに応募した理由です。当初2020年春に当コースを受講する予定でしたが、COVID-19の流行による延期に次ぐ延期の末、ようやく今回受講できました。

今回の参加者は6-10年目の医師が多かったようです。48名の参加者に対し、Chairpersonの野田先生以下、二村先生、林先生、北田先生、前川先生、松井先生、峰原先生、宮本先生、重本先生、塩田先生、依光先生、善家先生、乾先生、神田先生といったオールスターゲームのような著名な講師陣の指導を受けつつ質問し放題というまさに夢のような3日間でした。

1日目は野田先生のイントロダクションから始まりました。「この講習会は実習・ディスカッションを伴うことが特徴で、講師と双方向に密なコンタクト・コミュニケーションをとって欲しい。」「考え方を学ぶ場なので間違っても良いのでどんどん発言して欲しい。」「疑問を残して帰らないようにして欲しい。」といった趣旨の訓示をいただきました。

その後、総論の講義が始まりました。AO財団について、骨癒合、AO分類、軟部組織損傷、絶対的安定性、相対的安定性、プレート、創外固定といった項目に関し1項目約15分ずつの講義でした。これらは知識の整理に役立ちました。

次にSkills Labです。ここでは10ヶ所のブースを10分ずつ回りながら、総論に関連する様々な事象を実際に見て触って体感していきます。「スクリューのトルク、鈍なドリルの見分け方、鈍なドリルほど熱を発すること、鈍なドリルほど軟部組織損傷を起こしやすいこと、捻り・曲げ・圧迫といった外力による骨折型の違い、鉗子・ディストラクターの使い方、髄内釘の歴史、髄内釘の径・横止めスクリューの有無による固定強度の違い、プレートに対するスクリューの挿入部位による固定強度の違い、プレートの当て方による剛性の違い、折損スクリューの抜去」等、教科書もしくは動画でしか見たことがなかった様々な事象をまさに体感することができ、知識が血となり肉となった気分でした。10分間では時間が足りないと感じるブースも多々ありました。

次に実習(Practical exercise)です。ここまでに学習した事項を骨モデルを用いて2人1組で実践してみます。数分間の英語の動画を見てから、その通りに実践します。ラグスクリューテクニック、プレートのoverbendingによる圧迫、MIPOによる架橋プレートなどの基本的手技を試してみました。当初器械の取り扱いに若干手間取ってしまい、普段優秀な器械出し看護師に依存しすぎていることを痛感しました。講師、インストラクターの先生方がどんどん話しかけてくださり、質問しやすい雰囲気を作ってくださいました。

骨幹部骨折に関する総論の講義をはさみ、次はSmall group discussionです。8人ずつの小グループに分かれ、それぞれのグループを講師の先生1-2名ずつが担当します。症例提示に対し、骨折の分類、必要な検査、絶対的安定性を目指すのか、相対的安定性を目指すのか、どのインプラントを用いてどの順番に固定するか、といったことをこれまでに学習した事項をベースにディスカッションしていきます。これを時間いっぱい何例も繰り返します。それぞれの症例で皆の疑問点がなくなるまで討議しました。

2日目は脛骨髄内釘の実習から始まり、これは前日夕方のリーミングに関する講義やSkills Labの内容に直結していました。その後、2回目のSmall group discussionでした。主に骨幹部骨折の症例を昨日と同様に検討しました。

その後、関節内骨折に関する講義、術前計画に関する講義があり、創外固定器の実習を行いました。

ここからが一つの山場です。まず前腕骨幹部骨折のXpを元に作図・術前計画を各自で作成しました。「骨片を一つ一つずらしてトレースする」「スクリューを挿入する順番を記載する」等のステップを通常の実臨床では省略しがちでしたが、きちんと基本通りに作図し、術前計画を作成しようとしてみると、思いのほか時間がかかってしまいました。自分の作図・他の参加者の作図・講師の先生の作図・術前計画を比較してみると、様々な考え方があるのが分かるとともに、大変勉強になりました。実習では各自の作図に基づいて骨モデルを用いた骨接合を実施しました。

講義ではFacultyに積極的に質問

2日目の最後は、テンションバンドの原理、足関節果部骨折、脛骨高原骨折、大腿骨頚部/転子部骨折、大腿骨遠位部骨折、放射線被曝、多発外傷、骨盤骨折、粗鬆骨の固定といった講義が続きました。Cアームによる散乱線の話に関しては若干自分が勘違いしていたことに気付かされましたし、海外では日本国内以上に被曝に厳しいという話が印象的でした。

3日目はSmall group discussionから始まり、関節内骨折の症例を検討しました。Small group discussionは3回とも60-70分の時間が確保されていました。毎回グループのメンバーは同じで、講師の先生が入れ替わりました。毎日これを繰り返すことにより、知識がどんどん整理されていくのが実感できました。

その後、開放骨折、感染、遷延癒合に関する講義の後、テンションバンドワイヤリングおよび脛腓間固定を要する足関節果部骨折の実習を行いました。軟鋼線を2ヶ所で捻るという操作が推奨されているのを知ってはいましたが、正直なところ実践したことはありませんでした。今回その有用性を改めて感じました。

最後の実習ではTFNAの実習を行いました。始めにXpを元に骨モデルに骨折線や腸骨大腿靭帯の付着部を書き込んでみましたが、改めて3DCTの有用性を実感しました。

その後抜釘、最小手術、小児骨折、骨折治療の未来などの講義があり、最後のGrand final discussionでは各自が質問しそびれた事項を記入した事前アンケートを元に時間の許す限り講師の先生に回答していただきました。

COVID-19の流行後、各種ウェブセミナーは増加しました。地方の市中病院に勤めていても講演を受講して知識を得ることは容易になりましたが、コミュニケーションの双方向性に関しては充分ではありませんでした。また通常の臨床では目の前の仕事をこなすのに精一杯で、ディスカッションが疎かになりがちだったことは否めません。今回のコースでは職場・家庭から解放され、会場に缶詰になった状態で3日間集中的に講師や他の参加者と対面で密なコミュニケーションをとり、ディスカッションを重ね、考え方を学ぶことができました。些細な疑問点も沢山質問できました。骨折治療に関し、本を読んでも話を聞いても十分には理解できていなかった様々な事項が多数解消され、頭の中がだいぶスッキリしました。

専門医習得前後くらいの若いうちにこのコースを受講しておくのが一番良かったと思いますが、私のように少々年齢を重ねてしまってからの受講でも大変得るものが多かったように思います。帰宅後すぐにAO Trauma Membershipに入会しましたが、近いうちに次のステップにも進んでみたいと思います。

最後になりましたが、Chairpersonの野田先生をはじめ、講師・インストラクターの先生方、今回のコースに関わった多くのスタッフの皆様に熱く御礼申しあげます。また留守を預かって頂いた職場の皆様、そして家族に感謝します。ありがとうございました。