AO Trauma Faculty Education Program (FEP) Hong Kong, 2019/9/28 – 9/29 依光 正則先生 (岡山労災病院)

この度2019年9月28―29日に香港で開催されたAOFEP(AO Faculty Education Program)に参加させていただきました。 昨今の香港では自治権の維持や民主化を掲げたデモが頻発しており、治安悪化の懸念から本会の開催も危ぶまれておりました。 「意外と行ってみるとなんてことなかったよ!」というような言葉を耳にすることが多々あります。実際に空港に併設されたホテルに会場を変更したことで、現地での移動に関する問題が発生することはなく大きな不自由を感じることはありませんでした。しかし、到着するまでは不安がなかったという訳ではなく、AO Trauma Japan事務局の皆様にも直前まで現地の状況をチェックしていただきご心配をおかけしました。 このような環境の中で参加したコースであること、しかも、FEPはわれわれが学ぶことの少ない教育に焦点をあてた内容であったことから、一生忘れることのないイベントであったと思います。 インド、インドネシア、オーストラリア、韓国、シンガポール、タイ、ニュージーランド、フィリピン、香港、マレーシアそして日本の11か国から計20人の参加がありました。われわれ同様に各国からの参加者も現地の状況に関しては不安に思っていたようです。渡航制限がかかっている国もあったようで、会場が変更されなかったらキャンセルしていたかもしれないと話している参加者もいました。

このセミナーは、AOに限定することなく教育者(Faculty)として、より効率よく教育を行い、かつトラブルを回避するということに重点をおいた内容です。当然、教育、学習に関連した用語が多く使用されます。これらの用語は、我々臨床医にとっては日常的には聞きなれない言葉であり、まずは、そこに慣れることに時間を要しました。 本会の5週間前にメールでプレコースイベントが開始することを告げられ、参加者同士のあいさつをかねた自己紹介のチャットからスタートしました。その後、毎週AOTAP(AO Trauma Asia Pacific)から、今週のタスクとして宿題を与えられます。これがボディブローのようにじわじわと日常生活を圧迫し始めるので、できるだけ早めにクリアしておき、先延ばしにしないことが重要です。私は1週間遅れてしまい、最後に遅れを取り戻すのに大変な苦労を要しました。そして、プレコースの内容を十分に理解せずに本会に参加すると内容はほとんど理解できないと思います。

コースの構成に関しては、これまでのFEPに参加された先生方のレポートと同様の内容です。最初にLap Kiのトークがあり、その後2グループに分かれて講義、スモールグループディスカッション(SGD)、プラクティカルエクササイズ(PE)のデモンストレーションを行い、それに対するコメントをしていくという形式でした。同じく日本から参加した善家先生とは、お互いに支えあえるかと思いきや、グループに分かれた時点で早速のお別れとなりました。
最初は自分の用意した7分程度の講義スライドを10人のグループ相手に披露するわけですが、英語での対話で一番苦労しているのは自分か、隣に座っているインドネシアのThomasかなと思っていました。その後Thomasとはなんとなく仲良くなってしまいました(笑)。 講義のプレゼンテーションは練習さえしていれば、さほど苦労はしません。しかし、理解を高めるためには、一方通行にならないように質問を入れたりするとよいことを知りました。
ここでの学びは、“Learning outcome”です。これまでの自分を振り返ってみると、”今日の講義の内容“などと題して、これからの話の目次という形でしか認識しておりませんでした。これは学習者側のoutcomeであり、自分の話の内容紹介ではなく、ここを理解してほしいというポイントを示すべきであることを知りました。

その次のSGDやPEは、参加者と会話をしつつ進行する必要があります。ただしゃべって終わりとはいかないのです。難易度はけた違いでした。そして、他の参加者のプレゼンテーションの中にとても参考になるものがありました。
我々が陥ってしまいがちなミスとして、内容を盛り込みすぎる、というのがよくあります。英語が苦手で早く話すこともできないくせに、言いたいことはたくさんあるので、いっぱいスライドを作ってしまいます。
オーストラリアのポールは違いました。ネイティブなので早く話をして進めようとすればできるはずです。しかし、彼はあえてゆっくりと、ポイントを絞って語り掛けるように、そして相手の理解度を確かめるように講義、ディスカッションを進めていました。
ここでの学びは、“Time keeping”です。限られた時間の中で、効果的に伝えるためには、不必要なものを削って、最終的なoutcomeを強調する必要があります。ついつい盛り込みすぎて早口になったり、一番言いたいことがぼやけてしまったりしないような注意が必要です。多くの参加者は、時間オーバーしてoutcomeにたどり着けずに終了させられていました。これでは言いたいことも伝わりません。なぜか私のターンでは、モデレーターが時間を測り忘れていたようで、延々と最後までやらせてもらいました(笑)。モデレーターも私のSGDの進行に惹きこまれてしまったのかもしれません。
これ以外にもたくさんの学び;“立ち振る舞い”、“準備の重要性”、“双方向のコミュニケーション” … があり、非常に有意義な時間でした。
この会ではFeedbackの方法の重要性が特に強調されます。私がFEPに参加するよりも以前に、先に受講した医師からポジティブ・フィードバックについて聞かされました。 「(What went well?)、(What would you do differently next time?)って質問しなきゃいけないのだ」、と言われたことを思い出し、「これか!」と思いました。この質問を投げかけることや、投げかけられて答えることは日本語でも難しいと感じていたので、今回英語ですることの難しさをさらに実感しました。帰国後、院内でもこうした教育を取りいれていこうと思い、試行をしております。が、まだ私はそれほど人間ができていないようで、ついつい否定的な言葉を使用してしまいます。もう少し時間をかけて修正していきたいものです。
最後にこのような貴重な学びの機会を与えていただきました、AO Trauma Asia Pacific, AO Trauma Japan関係者の皆様に感謝いたします。