2020年1月-2月にタイのバンコクにあるBhumibol Adulyadej Hospital で6週間の研修を行って来ましたので報告致します。
前年に台北で開催された4th AO Trauma Asia Pacific Scientific CongressにてYoung Investigator Awardを頂き、その副賞としてFellowshipに行かせて頂ける事になりました。私がタイを選んだのは、①アジアの学会で頂いた機会なのでアジアの国の中から選びたかった、②タイは外傷症例が多く外傷診療が盛んという話を聞いていた、③過去に数度訪れた経験から純粋にタイという国の雰囲気や国民性が好きだった、といった理由からです。
Bhumibol Adulyadej Hospitalは国民から絶大な支持と敬愛を集めた前国王である故ラーマ9世の名を冠した1949年創立の歴史ある総合病院です。病床数は約700床で、バンコク第2の空港であるDon Mueang国際空港のすぐ近くに位置しており、バンコク中心街から北に車で30分程の距離です。王室空軍が運営していますが軍関係者だけでなく広く一般市民を診療し、またタイ全土から多くのレジデントやフェローが集まるteaching hospitalでもあります。制服をパリッと着こなした軍関係者や、レジデントやフェロー、一般市民の患者が行ったり来たりしているたいへん賑やかな雰囲気の病院でした。

整形外科では毎朝8時から約1時間のカンファレンスがあり、レジデントが前日の手術、夜間救急症例、予定手術の内容をプレゼンします。基本的にはタイ語で行われ、時々私のために英語で話してくれるのですが、その英語が皆とても流暢で日本との大きな差を感じました。スタッフのドクターから厳しい突っ込みが入り、レジデントが汗をかきながらなんとか返答するといった光景は日本と変わりありませんでした。朝カンファ後、週3日はそのまま手術見学、週2日は外来見学後に手術見学といった流れでした。手術室は病院全体で13室あり、そのうち2室は整形外科専用で、毎日外傷だけでなく人工関節や手外科などあらゆる領域の手術が行われていて、数多くの症例を手洗いして見学させて頂きました。
外傷手術の実際ですが、皮膚切開は大きめで余裕を持って骨折部を展開し、解剖学的整復を確実に行うことが重視されていました。髄内釘とプレートのどちらとも言えないような症例では基本的にプレートが選択されます。安価なステンレスプレートが常に準備してあり、bendingを加えながら骨折部にプレートを沿わせ、整復と固定を同時に行っていくような手技がどのドクターもとても巧みなのが印象的でした。全体として、あらゆる方針や手技がAO法に則しており、改めて基本の重要性を認識することが出来ました。
私を迎え入れて下さった外傷グループチーフのDr. Rahat Jarayabhandは外傷の中でも特に骨盤骨折手術を得意とされており、AO Pelvic Courseのfacultyを務められ、研修中に参加したタイ外傷学会では骨盤骨折の教育講演をされていたのを聴講させていただきました。周辺病院から毎日のように助言を求める電話がかかってきており、誰も手を出せないような難症例は彼の元に集まってくるとの事でした。私も4例の骨盤手術を見学することができましたが、解説を交えながら教科書通りで美しくスピーディーな展開を見させて頂き、理解を深めることが出来ました。また、スクリューの挿入方向を意識したアプローチ選択や、整復困難例における創外固定や鋼線牽引の利用、転位の大きな陳旧例でも丁寧で確実な瘢痕組織の剥離によりしっかり整復できるということを実際に見ることが出来たのは非常に貴重な経験でした。また、Dr. Rahatはご自身で骨盤のキャダバートレーニングも主催されているとのことで、日本からも是非参するようにとお誘い頂けました。
Bhumibol Adulyadej Hospital 整形外科のドクターやスタッフ達はみな気さくでやさしく、和気あいあいとした雰囲気があり、疎外感を感じることもなくリラックスして研修を行うことができました。もちろん手術中は皆真剣ですが、途中に奥さんや彼女から電話がかかってきたり、そしてそのままスピーカーモードで普通に通話し始めたりする事があるのもタイらしいおおらかな感じで好きでした。

同じアジアの、外傷診療が活発でパワフルなタイという国でその医療の実際を肌身で体験する事が出来て非常に大きな刺激をもらうことができました。この研修で得たものを今後の診療活動に活かし、さらに研鑽を積んで参ります。また今後も学会やキャダバートレー二ングへの参加を通じてこの研修で知り合ったドクター達と交流を続けていきたいと考えております。
最後にこのような貴重な機会を与えて下さったAO Trauma の方々と職場のスタッフに深く感謝致します。

写真1:Bhumibol Adulyadej Hospital
写真2:術中風景
写真3:Dr. Rahat、フェロー達と