2019年5月に台北で行われた4th AO Trauma Asia Pacific Scientific CongressにおいてMerit Best Poster AwardとFellowship Awardを頂きました。当初2020年の秋に予定されていましたが、コロナパンデミックの影響で1年間延期となり、2021年10月にドイツのザールラント大学病院(ドイツ語: Universitätsklinikum des Saarlandes)の外傷、手と機能再建センター(ドイツ語: Klinik für Unfall-, Hand- und Wiederherstellungschirurgie)において、AO Trauma fellowshipとして研修して参りました。ここにご報告させていただきます。

写真上)ザールラント大学病院。手前のモダンな建物が内科病棟、内科病棟の左奥の建物に外科病棟や手術室があります

ザールラント州立大学であるザールラント大学(ドイツ語: Universität des Saarlandes)の医学部とザールラント大学病院がホンブルク(Homburg)にあります。ホンブルクはドイツ連邦共和国南西部のザールラント州ザールプファルツ郡にある市で、同郡の郡庁所在地です。ザールラント州の北東にはラインラント=プファルツ州があり、南にはフランスのロレーヌ地方、西端はルクセンブルク大公国に接しています。文化圏としてはフランスの文化の影響を受けている地域です。寛骨臼骨折と骨盤輪骨折の手術の勉強がしたいという私の希望のもと、AO Traumaの本部がザールラント大学病院を選定してくれました。

外傷・手と機能再建センターでの1日の流れを紹介します。毎日教授・指導医(ドイツ語:Oberarzt)陣と6時55分から外傷専門のICU・HCU回診がありました。7時30分から朝のカンファレンスがあり、こちらには学生から若手医師まで全員が集まり、前日のER症例と外傷・手の外科再建センター新患、前日の当直帯に行われた手術時画像を供覧し、治療方針の確認と報告を行っていました。7時に1件目の患者が手術室に入室して7時45分くらいには1件目の手術が始まります。2室が外傷手術 の占有で、毎日エクストラで他の部屋でも行っていました。1日平均12件で8割外傷、2割は感染などその他の手術という感じでした。前室で挿管・抜管を行うため、 患者の入れ替えはとても早く行われていました。術後レントゲンは撮影せず、手術の終盤にCアームを用いて確認し、この画像をオーダーリングに保存して終了としていました。手術はほとんどを指導医(こちらでいうOberarzt)以上が執刀していました。

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上写真)Fellowship 最終日のカンファレンスでの
Tim Pohlemann教授と筆者

Tim Pohlemann教授も抜釘であってもご自身で執刀されていました。時々整形外科 8年目前後の若手医師が橈骨遠位端骨折や足関節骨折を執刀させてもらっていました。自分は自身が興味のある手術を中心に1日4、5件ほど手洗いして参加させてもらいました。予定手術は月から金まで毎日このペースで手術を行い、夕方以降にERに来た緊急・準緊急は当直帯で当直担当医が行っていました(転子部骨折が夜来たら全身状態が許せば夜のうちに手術)。外傷用手術室付きの手術室放射線技師が 2名いました。Cアームのセッティング、透視画像の出し方がとても上手でした。医師はCアームの準備は行わず技師が行っていました。術中の整復の程度やインプラント設置に関して、医師とディスカッション出来てしまうほど習熟していたことが印象的でした。Tim Pohlemann教授には術者目線で、寛骨臼骨折と骨盤輪骨折の手術を丁寧に指導していただきました。そのほか日本での自身の症例をカンファレンスでプレゼンテーションする機会もいただきました。Tim Pohlemann教授をはじめ、外傷・手と機能再建センターのスタッフの方々から、数多くの学びを得ることができました。

上写真)Hornbach WorkshopでAOの研究者グループと筆者。左端からGueorguiev教授(Vice President  of the European Orthopedic Research Society)、Ernst氏、Buschbaum氏、Windolf氏。個人的に兼ねてから彼らの研究に注目していたので、一緒に写真を撮ってもらいました

大学病院での研修以外にもいくつか勉強する機会に恵まれました。1つはSmart Implants ProjectのWSS Scientific Hornbach Workshopです。WSSとはWerner Siemens-Stiftungの略ですが、こちらの財団から研究資金をもらい、次世代骨折治療インプラントを開発するプロジェクトで、Hornbachというフランス国境沿いの小さな町で年に1回各国の研究者を招待して研究発表とディスカッションを行うWorkshopに参加しました。参加する研究者は整形外科や医学に限らず、情報理工学、機械工学、マテリアル工学など多岐にわたり、またそれはドイツ国内に限らずイタリア、スイス、ルクセンブルク、デンマーク、イスラエルと広くから集まっていました。Maurice Edmond Müllerらが確立し現在用いられているX線の定性的評価からなる骨癒合判断手法に対し、新たに定量的評価法を持ち込み骨折治癒過程を判断し、その経過からオーダーメードの後療法を実現する強度可変式インプラントを開発するという、骨折治療の質を向上させることを目指したbig projectです。1泊2日の泊まり込みで参加したこのWorkshopから受けた刺激はとても大きなもので、私の将来に対し示唆に富んだかけがえのない経験となりました。

写真)コースの講師陣と参加者での集合写真。最前列右から3番目がTim Pohlemann教授、その左後方にはAlexander Hofmann教授。ドイツ国内外の整形外科外傷分野でご高名な先生方が講師陣でした。

もう1つ、AO Trauma Course(ドイツ語:Homburger Beckenkurs Teil)に参加し勉強することができました。コロナ禍で多くの研修会・研究会がweb開催となりました。 AOの研修会も違わず中止やwebでできる範囲(ハンズオンを除く)で開催されてきましたが、今回対面でハンズオンを含めて行うドイツ国内でのコロナ後初のAO courseでした。コースはドイツ語で行われましたが、骨盤骨折と寛骨臼骨折の座学、スモールグループでの実技、スモールグループでのディスカッション、ご献体での手術手技習得と最後に筆記試験まで3日間の濃密な時間を過ごし、知識と手技に関して深く学ぶことができました。

最後に、この6週間の研修を快諾し送り出してくださった山崎正志教授をはじめ筑波大学整形外科医局の先生方、また私の所属する筑波大学附属病院救急・集中治療部の先生方に深謝いたします。この経験を最大限に生かし、今後とも整形外科外傷医療の発展のために取り組んでいきたいと思います。