University Medical Centre of the Johannes Gutenberg-University Mainz, Germany, 2023/5/15-6/23 加来 拓実 先生 (東京医科歯科大学病院)
2023年5月15日から6月23日までの6週間、ドイツのマインツにあります、University Medical Centre of the Johannes Gutenberg-University Mainzにて研修させていただく機会を頂きましたのでご報告させていただきます。
マインツと大学いえば、脆弱性骨盤輪骨折の分類で有名な、Rommens教授の在籍していた大学であり、これまでも多くのAO Trauma fellowが研修した施設です。Rommens教授がすでに退官されていることは存じておりましたが、多くの先輩方が研修されたhigh volume centerであり、安心感もあったことから選択させていただきました。
私が研修させていただいたのは、Center for Orthopaedic and accident surgeryという部門であり、整形・外傷外科センターということになります。一般の整形外科(脊椎外科・関節外科・腫瘍整形外科など)と外傷整形外科の二つを主軸とする部門であり、それぞれPhilipp Drees教授とErol Gercek教授がいらっしゃいます。私は外傷整形外科Gercek教授の下で研修させていただきました。二つの主軸とはいえ、基本的には一つの組織として運営されており、専用のメイン手術室4室と外来手術室2室を使って、かなり多くの手術を行なっていました。スタッフは、若手のレジデントから教員・教授までで30人程度いたように思います。
研修中の生活は、先輩方がレポートしていた通りでしたが、朝のカンファレンスの開始時間が7時30分か
ら7時45分に変更になりました。朝カンファでは前日に行われた手術症例・夜間の新規入院症例のレントゲン写真等を検討します。その日の1例目の手術患者は7時30分には手術室に入室しており、麻酔〜体位設定までは麻酔科医と手術室スタッフが行なっています。整形外科医はカンファ後の8時過ぎに手術室に入り、手術を行います。各手術室で3-4件/日の手術を行なっていましたが、緊急でない手術が15時半以降に入室することはなく、間に合わない症例は容赦なく翌日に延期されます。この点は日本とは大きく異なるようです。部門ごとの専用手術室であるが故のシステムですが、予定手術の患者さんが、2-3日も延期されてしまうこともあり、その分入院ベッドを長く占有する問題も生じていました。開放骨折や小児骨折などの緊急手術は24時間体制で行うことができ、night shiftにあたっている若手医とon callの上級医で一晩に1-2件、多い時は5件程の緊急手術をこなしていた夜もありました。特に、小児骨折は小児外科部門と2週間ごとのシフトで分担しているようで、小児骨折シフト期間中はとても多くの緊急手術をしていました。毎日午後3時30分から(金曜日は3時から)は、夕方のカンファレンスが行われます。ここでは翌日の手術症例や日中に救急外来に来た症例などの検討が行われ、翌日の手術の担当医が決定されます。外傷患者においては、特殊な症例でない限りは主治医が執刀ではなく、その日にできる医者が執刀します。この点も日本とは違う点です。つまり、全ての上級医が基本的な骨折手術は全てできるようになっています。夕方のカンファレンスは、約1時間程度なので、毎日17時前にはdutyが終わります。な
ので、しっかり仕事終わりのeveningを楽しむことができます。しかし、若い先生たちは病棟管理があるので、なんだかんだ遅くまで仕事をしているようでした。この点は日本と変わらないようです。
肝心の手術についてですが、ここには多くの日本との「違い」をみることができました。一言で言えば、日本人は「完璧主義」、ドイツ人は「合理主義」です。私を含めた日本人の手術は、多少の時間・資材・放射線被爆を費やしてでも、完璧な手術を目指す傾向があると思います。一方ドイツでは、より少ない時間で、K-wire1本すら、1回の透視撮影すら、その必要性を吟味しながら、レベルの高い手術を行っているというように感じました。例えば、骨折の整復位がとれた自信があれば、仮固定は行わずにプレートを設置し、迷いなくドリルを掘ってスクリューを入れていきます。ネジが何本も入った頃にやっと、「Röntgen(レントゲン)」と言って透視を確認します。小心者の日本人(私)は恐る恐る撮影された透視画像を覗き込みますが、そこは百戦錬磨の達人外科医たちです、綺麗に整復固定された画像が映し出されていました。
私は外傷整形外科医として、骨盤外傷の手術も行っていますが、マインツで体験したいものの一つにこの骨盤手術がありました。実際、Gercek教授の骨盤輪骨折・寛骨臼骨折の手術に入るチャンスがありました。垂直不安定型骨盤輪骨折において、Triangular fixationを見させていただきました。私自身は経験のない手技でしたが、低侵襲かつスピーディーに十分な固定が得られる手技だと感じました。寛骨臼骨折においてはModified-Stoppa approachを好んでいるようでした。その手技は早く正確であり、スムーズな展開から正確な関節面の整復を得て固定していました。途中、多くのtipsを私に教えていただき、1例だけでしたが、多くを学ぶことができました。
骨盤以外で私がマインツで印象に残っているのは、足関節周囲の手術です。Foot and Ankle surgeonであるFelix Wunderlich先生は、私と同世代のくらいの足外科医で、いつも私と症例に関するディスカッションをしてくれていました。そしてこのFelix、かなりイケイケで、難しそうな足の手術をいっぱいこなしていました。特に印象に残るのは、外傷後遺症の手術です。足関節OAや下腿変形などに対する足関節固定術や矯正骨切り術などを多くみることができました。特に、足関節固定の方法について、症例ごとにしっかり理由を持って選択しており、彼とのディスカッションを通じて私も多くを勉強させてもらいました。
ドイツにはいくつかの、「日本にはないモノ」がありましたが、一つだけオマケ的な感じでご紹介します。それは、IlluminOssです。これは、光で硬化する樹脂で、骨髄腔内へカテーテルを介してバルーンを挿入し、液状の素材を注入して膨らませます。このバルーンの中心に光ケーブルを挿入して体内で光を照射して硬化させます。髄腔にフィットさせた即席髄内釘のようなものになり、スクリューを打ち込むことも可能なのだそうです。高齢者や病的骨折など、かなり限定的な症例でのみ使うことができるようですが、日本にはない新しい固定材料です。論文などでは「Photodynamic Bone Stabilization」と称されます。今回の研修中には、高齢者の外果骨折の固定に使われていました。骨の瞬間接着剤があったらいいのにと夢見たことのある先生は少なくないことと想像しますが、光を当てるだけで5分足らずで硬化するこの固定材料は、未来の整形外科手術あり方を大きく変えてくれるのかも知れないと、強い衝撃を受けました。ちなみに、私が見学した症例は、残念ながらその後に折損してしまい、Felixが足関節固定術をしたそうです。日本で使えるようになるにはまだ使用経験が積まれる必要がありそうです。
さて、せっかくのヨーロッパはドイツで過ごす6週間です。アフター5や週末などのオフの時間には、ドイツビールやドイツ料理、日本ではみられないような景色や建造物を観光して楽しませていただいたことは、いうまでもありません。私が研修した5-6月は、気候もとても穏やかで、日本よりも緯度が高いために21時頃まで明るい季節でした。ドイツ人は外でビールを飲むのが大好きなので、レストランのテラス席や、ライン川沿いの公園で、日が暮れるまでビールを楽しんでいました。本当は、ドイツでの生活やビールのこと、観光にでかけた多くの都市のことなどを語りたいのですが、おそらく誌面がいくらあっても足りません。興味のある方には個別にお話しさせていただきますので、学会等でお声がけください。
今回の研修では、6週間という限られた期間の中で、多くのことを学ぶことができました。そして遠い遠い異国に地においても、同じ志や同じ目標を持って、日夜患者さんに向き合っている「Fellow(仲間)」に出会うことができました。このような貴重な経験をご支援いただいた、AO Trauma / AO Trauma Japanの皆様には感謝しかありません。また、長期のお休みを許して頂いた、東京医科歯科大学の上司・同僚・後輩たちにも感謝いたします。すでに日常診療に完全に戻っておりますが、2ヶ月前とは少し違った視点を持って取り組めているような気もします。今後は、この経験を周囲に還元できるよう、精進してまいります。