Denver Health Medical Center, USA, 2023/7/10-8/18 屋良 卓郎 先生 (済生会福岡総合病院)
2023年7月10日から8月18日までの6週間、アメリカ・コロラド州のデンバーにあるDenver Healthにて研修を行う機会を頂きました。研修先は3施設まで希望を出すことができたのですが、現在fellowshipを検討されている方の何らかの参考になればと思いますので、私の選択方法をお伝えしようと思います。世界中に数多くの研修施設があり非常に迷ったのですが私の場合は、カンファレンスや術中の会話がなるべく理解できるところと考え英語圏であること、重症外傷が数多く搬送されてくる施設、フェロー教育に力を入れていそうな施設(これはhomepageやyoutubeで情報収集しました)という点を重視し北米のlevel1trauma centerを希望しました。北米はscrub不可の施設が多いのでその点は迷いましたが6週間という短期間でしたので、並列で行われている手術の見たいポイントが終われば次の手術の見学に行くというスタイルで多数の手術見学ができました。
Denver HealthではDr. Cyril Mauffreyを中心として20名程度のチームにて整形外傷、関節外科、手外科の症例を取り扱っていました。私は12年ぶりの日本人フェローとして歓迎していただきましたがアジアを中心にAOフェローやそれ以外のobserverが年間合計10名以上研修されるとのことでした。
毎朝6時半からカンファレンスが始まり前日の急患症例、術後症例が提示されレジデントの先生がスタッフの先生方からの数々の教育的質問に答えていくという形でした。またレジデントへの質問以外でもスタッフの先生方は非常に活発に教育的発言をされており、勉強になるとともに日本でのカンファレンスももっと教育的で有意義な時間にしたいと感じました。
手術は朝7時半に搬入となります。曜日によって異なりますが整形外科は毎日2、3部屋並列で朝から夕方まで多数の手術が組まれ骨盤骨折、偽関節、gunshot injuryを含む多数の症例を見学できました。骨盤輪骨折の手術は年間約120例程度とのことですが日本ではなかなかお目にかからないような激しい転位を呈している患者が多かったです。寛骨臼骨折はtrauma fellowで整形外科6年目の先生がメインとなり上級医と共に執刀しておりましたが、年間60−70件程度の寛骨臼の手術をしているだけあり整形6年目とは思えないほど手術に慣れている様子で集約化と教育の力を感じました。gunshot injuryはこれまで日本で見たことがありませんでしたがDenver Healthでは週に1、2件あり大抵の患者には手錠がされており手術には警察官が立ち会っていました。また多発外傷以外のほとんどの手術が日帰り手術であることも衝撃的でした。下腿の開放骨折やプラトー、ピロンでも創外固定つけて歩行器にて帰宅し、基本的には内固定当日に来院するという方針でした。「病院はホテルではない」と日本でも言いますが、Dr. Mauffreyも「hospital is not hotel」とおっしゃっており入院費が財政を圧迫するとのことで日本の医療システムも変えるべきと助言を頂きました。
医師も機械出しのscrub practitioner (機械出しは看護師ではない)もインプラントメーカーの業者さんも大抵明るく親切で手術中はmusic爆音で楽しく協力しながら手術をしていました。日本の手術室でありがち(?)な手術中に怒鳴り散らす人や、ゴミを床に投げ捨てる人などおらずお互いが対等で尊重しあっている様子に非常に好感が持てました。大きいことから小さいことまで日本で当たり前のようにされていることがDenver Healthでは全く異なる、ということが数多くあり、毎日多くの質問をしましたがいつも質問に対し丁寧に返答して頂きました。意見の異なる点があっても「その考えもいいと思う」「文献を送ってくれ」など前向きに捉えて頂き非常に質問がしやすい環境でした。
土日はフリーでしたのでレンタカーにて1時間半程度の Rocky Mountain National Parkでmarmot、elk、mooseなどの野生動物に癒されつつハイキングしたり、また1泊2日の小旅行でColorado National Monumentやユタ州のCanyonlands National Park、Arches National Parkを訪れアメリカの絶景に驚かされました。またコロラド州はロッキー山脈の豊富な雪解け水のおかげで全米No.1のビール生産地ですので町中にbreweryが無数にあります。滞在した6週間の間にここぞとばかりにしこたまビールを飲みまくりました。MLBのColorado Rockiesの本拠地Coors fieldで野球観戦しつつロッキー山脈に沈む美しい夕陽を見ながらビールを飲む。これは控えめに言っても最高でした。
Denver Healthは外傷研修先として非常に勉強になる施設であることは間違いなく、Denver、Coloradoはアウトドア天国とも言われるだけありアウトドア好きの私にとっては最高な場所でした。私の人生において何ものにも代え難い最高の6週間を与えて頂いたAO関係者の方々に心より感謝申し上げます。ありがとうございました!