このたび私はアメリカのワシントン州、シアトルにあるHarborview Medical Centerにて6週間のフェローシップに参加させて頂きましたので報告させて頂きます。この病院はアメリカの西海岸北部で唯一のLevel 1 Trauma Centerで、カナダの国境やアラスカからも重傷外傷が運ばれてくるそうです。手術室は28室あり、1日80件ほどの手術が行われています。この病院での手術はほとんど外傷手術で、人工関節やスポーツ手術は北にあるワシントン大学病院側に拠点があるようでした。整形外科の外傷チームは脊椎、手足の外科からは独立しており、3チーム9人のアテンディングから構成されていました。3人は骨盤骨折をメインに行なっておりますが、全てのアテンディングは、基本的に当番日に来た患者を手術することになっているそうです。手と足はチームが分かれていますが、それ以外の四肢手術であれば「飲み込める(くらい小さい)骨以外はなんでも」手術すると言っていました。
AOフェローも年間何人も来ているようで、アテンドの先生も担当の先生も特に決まってはいませんでした。その反面、院内での行動に関しては完全に自由な状態で、手術室の予定表を朝チェックし、自分の見たい部屋に行って執刀医に挨拶をして、見たいところを見学するという非常に恵まれた環境にありました。自分は脛骨高原骨折やpilon骨折のような関節内骨折と、骨盤骨折を中心に1日4〜5件の手術を見学することができました。

手術内容に関しては、しっかり骨折部をあけて、じっくり丁寧に整復し、骨折部に圧迫をかけてプレートを置くという手技を徹底的に行なっていました。これまで経験したアメリカの手術見学では、非常に早く一定の手技を行い、1日に何件もこなすという印象がありましたが、Harborviewではまったく逆でした。完璧な整復を目標としており、一例一例異なる骨折型を症例に応じたアプローチと整復でしっかり治療していました。そのためプラトー骨折や肘の粉砕骨折に6時間くらい平気でかけていることもありました。インプラント選択としてはプレート固定がメインであり、髄内釘かプレートか議論になるような骨折ではほぼ全例プレート固定を行なっておりました。プレートはすべてステンレスを用いており、髄内釘などでも仮固定に2.0mmのミニプレートで整復してから髄内釘を入れたり、開放骨折でも積極的に当日プレート固定を行なっておりました。整復操作では、シャンツピンによる牽引をFemoral distractorを用いて積極的に行なったり、横骨折は骨折部をまたいでドリルで骨孔をあけ、そこに骨把持を挿入して圧迫をかけるなど、普段あまり用いない手技を学ぶことができ、大変勉強になりました。Harborviewから出ている骨折治療の教科書では非常に綺麗な整復位の写真を見ますが、あれらは決してチャンピオン症例ではなく、全症例に徹底的に時間をかけてそのレベルまで整復していました。整復操作が多様で、整復位が大変綺麗な一方で、軟部組織への侵襲は比較的大きく、生物学的な骨再生よりは解剖学的整復と骨折部の圧迫に主眼をおいている印象もありました。術後フォローは2週間目、6週間目、12週間目と場合によっては半年目に行うというのが主流であり、日本と比べるとフォローの頻度が少なく、そういう面も手術形式に影響している印象を受けました。
手術室スタッフの業務は細分化、専門化が進んでいました。印象的だったのが、Radiology Technologistという放射線技師が20人程度手術室に待機し、術中の透視操作をすべて行なっていたことです。操作技術は非常に優秀で、骨盤や踵骨など難しい術中画像もスムーズに描出していたため、透視のコントロールというストレスはほとんどないようでした。アメリカでは外傷病院が土日に手術することも多いようで、シアトルでは6つの病院が週末手術を行なっているとのことでした。Harborviewでも週末1日ごとにオンコールのアテンディングが決まっており、1日4から6件の手術とそれに加えて緊急手術を行なっていました。手術室も週末でも6部屋は空いており、看護師や放射線技師、インプラントメーカーも平日と同じように待機しているため、効率よくまた待機時間を少なくして手術を行うことが可能となっていました。

シアトルの街の印象はというと、自分が訪れた時期は雨が多く、寒い時期でした。週末も手術室で見学をして、予定手術が途切れたら街を観光していましたが、冬の時期には見所も多くなく、十分でした。一度だけ電車でバンクーバーに行きました。
6週間の研修で、多くの骨折治療と整復方法、固定方法と全症例に真摯に向き合う世界トップレベルの先生方の姿勢を学ぶことができました。この研修で得た経験を現在までに自分が学んで来た骨折治療の知識と合わせて今後の研修に生かしていくことで、よりよい骨折治療ができるよう研鑽して行きたいと思っております。
最後になりましたがこのような機会を与えてくださりましたAO Trauma Japanの先生方、Harborviewでの生活について助言をくださった帝京大学の松井健太郎先生、市立吹田市民病院の松本真一先生と、快く研修を許可してくださった岩部部長をはじめとする済生会宇都宮病院の8人のスタッフの先生方に心よりお礼を申し上げます。