AO Trauma Course—Hip Preservation with Anatomical Specimens Nagoya, 2019/11/21 – 11/23 石丸 大地先生 (郡上市民病院)

2019年11月21日から23日にかけて、TKPガーデンシティ PREMIUM名古屋ルーセントタワー及び名古屋市立大学医学部(桜山キャンパス)で開催されたAO Trauma Course—Hip Preservation with Anatomical Specimensに参加させて頂きましたので報告いたします。
私自身は股関節外科専門医ではなく、主に外傷を診療する小規模の公的病院に所属しています。股関節疾患は高齢者大腿骨頚部骨折、転子部骨折が多く、人工骨頭置換術や観血的骨接合術を行っています。本コースのprogramを確認すると、寛骨臼形成不全の疫学、股関節形態の成長に伴う変化、股関節レントゲンの読影方法といった基礎的な内容から、股関節専門のfacultyの方々からの股関節周囲骨切り術の手技の講義やcadaver trainingを含む多彩な内容が3日間に盛り込まれており、明らかに私の病院での股関節疾患に対する治療レベルを凌駕していましたので、本コースに参加する事に少し尻込みをしました。しかし、何事も経験してみないとわからないという気持ちと、個人的な目標として大腿骨頚部骨折に対する骨接合術後の偽関節の大腿骨外反骨切り術について学びたいと考え、本コースに参加する事としました。

初日は、寛骨臼形成不全の疫学・成長における大腿骨形態の変化、臼蓋の正常解剖についての講義が行われました。引き続いて、安永先生から寛骨臼回転骨切り術(RAO)、糸満先生からChiari骨切り術及び大腿骨外反骨切り術、飯田先生からShelf法、原先生からspherial periacetabular osteotomy(SPO)、長谷川先生から偏心性寛骨臼回転骨切り術(ERAO)の手術手技についての講義がありました。それぞれ術前プランニング、手術時に注意するべき点などについてお話され、臼蓋側の骨切りに関してのハードルの高さを感じました。安永先生が講義で提示された症例は、寛骨臼形成不全を有する進行期変形性股関節症の40代後半の女性患者で、個人的には待機しての人工股関節置換術(THA)かと考えましたが、安永先生は良好な外転位股関節適合性が得られているという事でRAOを施行され、結果的に長期的な症状改善とTHAを回避できたという非常にimpressiveな症例でした。最後に澤口先生から若年者に対するTHAの治療成績についての講義があり、ノルウェー、スウェーデン、日本各国の人工関節レジストリーの結果から50歳代の女性に関しては、10年、20年での人工股関節の温存率がそれぞれ約90%、80%程度である事が示され、平均寿命が90歳に達した本邦では、THA術後の緩みに対するrevisionが増える可能性がある事、近年の人工関節周囲骨折の増加からも、50歳前後の寛骨臼形成不全の患者に対するTHAを行うことは控えたほうがいいと感じた一方で、同患者に対する治療は、治療の選択肢が医師によって大きく異なり、安永先生のようにRAOを選択できる様な判断ができる医師が少ないとも感じました。

2日目は、Chen先生による股関節関節包、関節唇解剖・機能、股関節不安定性の要因について、股関節周囲骨切り術の手術成績についての講義がありました。股関節周囲骨切り術は本邦では術後10年で約80-90%の股関節温存ができる良好な結果を示され、寛骨臼形成不全に対して非常によい治療方法であることがわかりました。その後も、femoroacetabular impingement(FAI)、Perthes病、大腿骨頭辷り症、大腿骨頭壊死、大腿骨頚部骨折後偽関節に対する関節温存による治療方法について網羅的に講義を受けました。特に大腿骨頚部骨折後の偽関節に対しては、大腿骨外反骨切り術を行う事で骨折部に掛かるせん断力を圧着力に置換する事で80-100%で骨癒合が得られる非常に良い手術であると学びました。
最終日はcadaver workshopで、私は、糸満先生のChiari骨切り術・大腿骨外反骨切り術、長谷川先生のERAO、弯曲内反骨切り術(CVO)を見学する事ができました。糸満先生の大腿骨骨切り時のサジタールソーの使い方、Chiari骨切り術時の骨のみの使い方の正確さに驚きました。また、長谷川先生については、安全かつ正確に臼蓋周囲、大転子を骨切りするためのガイドを作成しておられ、同ガイドを用いる事で臼蓋や大腿骨転子間の骨切りを非常に綺麗に施行されていることに驚きました。どのfacultyの先生も、骨盤の解剖を熟知した上で、いかに神経血管を損傷しないように正確に骨切りを行うための工夫をされており、ホルマリン固定されたcadaverでもスムーズに手術を敢行されていました。
実際は、私の勤務する病院では外傷がメインの治療対象となりますので、骨盤の骨切りを行う可能性は低いと考えられますが、若年者の大腿骨頚部骨折後偽関節の症例には、今回のcadaver trainingでの経験をもとに、十分な準備をしたうえで大腿骨外反骨切り術などは計画してみようと思いました。

今回、股関節温存手術法に関して上記のような3日間のコースを受講する事ができ、tightでしたが非常に勉強になりました。また、本コースを受講して、股関節周囲骨切り術の適応患者がいましたら、適切なタイミングで股関節専門医に紹介すれば、股関節温存とADL改善につながると理解できたことが大きな収穫となりました。
このようなコースを計画して頂きましたChairpersonの澤口先生を始め、多忙のなか講師として参加して頂いたfacultyの先生方、植木教授を始めとした名古屋市立大学医学部総合解剖学教室の皆様、スタッフの皆様にお礼を申し上げます。また、ご献体くださった皆様とご遺族の方々に、厚く御礼申し上げます。