Erasmus MC, Nethrlands, 2018/4/9-5/18 土居 満先生 (長崎大学病院)
2018年4月7日から5月18日まで6週間、オランダのErasmus Medical CenterにてAOTrauma Fellowとして研修をさせて頂きましたので報告させていただきます。
Erasmus MCはオランダのロッテルダムにあるErasmus大学の附属病院で、オランダに11あるLevel1 Trauma Centerの1つです。ロッテルダムはオランダ第2の都市で、ライン川などが注ぐデルタ地帯の河口に近い貿易量としては欧米で最大の規模を誇る港町で、街中には奇抜なデザインの建物が数多くあり、観光地としてにぎわっていました。サッカーの好きな人にとっては小野伸二選手が所属していたフェイエノールトの本拠地といえばなじみがあるのかもしれません。自分もサッカー大好きなので滞在中に本拠地であるStadion Feijenoord通称De Kuipにホームゲームを見に行ったりしていました。 オランダを研修先に選んだのは、留学に行った移植外科の先生から外科のResidentが骨折を見ており、どうもオランダではTraumaは外科研修を終えた外傷医が治療をしている(開胸、開腹できる人間が四肢の骨折も治療している)と聞いたので、ある程度自分たちで完結できるTrauma診療を見てみたかった、ホスト病院を選ぶ際に学習できる項目に胸壁損傷(肋骨骨折)があり実際の手技を見てみたかった、自分のいる長崎はオランダとのかかわりが古くからあり、小さい時から目や耳にすることの多かったオランダという国がどういう所かを知りたいという点でした。
Erasmus MCのTrauma部門には教授を含め8名のスタッフに加えレジデント(自分がいたときには4名)が勤務しています。Traumaは外科系ユニット(一般外科、移植外科、胸部外科、血管外科など)に属しています。朝は7時45分から前日当直のレジデントによる前日の入院、病棟の患者で変化のあった人、本日の緊急手術予定のカンファレンス(申し送りがすっきりして短くあまり時間はかかりませんがオランダ語です)があり、途中で抜けてTraumaの手術に手洗いさせてもらいながら、夕方まで参加するという一日でした。また手術の早く終わった日や、朝の手術が少し遅くなった時には急患の初療を見たり、病棟の回診に参加させてもらいました。 手術に関しては日本と大きな違いはなくAOの原理原則に沿って治療が行われていました。基本的にはしっかり展開して整復して固定するので手術時間も短く、麻酔もどんどんかけていくので手術室の回転はかなり早く夕方にはほとんど手術も終わり緊急手術がある場合などには残って一緒に手術をしたりしましたが基本的には5時には終わっていました。ただ予定手術が延びたり、急患が入って時間外にかかってくると次の手術は予定手術でも翌日に回されていました。 症例としては長崎と比べるとハイエナジーが多く、銃で撃たれた人もいたりと日本ではあまり見ることのない症例も見ることができました。動機の一つであった胸壁損傷の症例は少なかったのですが、手術になった症例では週末前に手術した70代の両側多発肋骨骨折、フレイルチェストの症例が週明けには抜管し元気に話しているのを見て、日本ではこの分野は遅れているので積極的に治療をしていきたいと感じるとともに、日本では肋骨用のロッキングプレートがまだ使えないので、そのあたりの問題もクリアしていかないといけないと感じました。まだ数は少ないとのことでしたが肩甲骨裏の肋骨にプレートを当てる為のMISセットがあって歯科のドリルのようなもので上手に肩甲骨下にある骨折まで骨接合していました。
オランダでは整形外科医と外傷外科医のプログラムが異なり、過程も全く違うのですが、整形外科でも外傷をやる人はおり、実際にAOコースにも整形外科医と外傷外科医が参加しているとのことでした。週に1回整形と外傷の合同カンファレンスが行われており、そこで整形外科の症例も見る事が可能でした。Erasums MCでは週2日は整形、残りの5日は外傷が担当で分担してやっていましたが、病院によってはうまくいってない所もあるとのことでした。さらに小児外傷はケースによって小児専門医が見てピンニング程度であれば手術をする場合もあれば、オンコールのトラウマ、整形外科が見る場合があるとのことでした。三者の関係も難しいところがあるようで一つの領域を複数科で担当するのはどこも難しさがあるのだと感じました。
施設面では小児は小児専用の病棟(OPE室もありスタッフも小児専門)や一般病棟の中にも感染専用の病棟もあり、それぞれで特化した診療が行われていました。また滞在期間中にちょうど新病棟への移転が行われ、完全個室の病棟や広くてきれいな手術室を見学することもできました。新病棟では急患が初療室からエレベーター1本で手術室前まで行くことができるようになっていました。 またコメディカルも多く、麻酔や手術のアシスタントがいて、病棟も包交や疼痛管理はそれぞれ専属のチームがあって対応していました。またcastの専門家が病院に常駐しており、場合によっては手術室の術後から彼らが上手にcastを巻いていました。手術室アシスタントも手術の治療方針をしっかり把握し、機械にも精通していたので手術が流れるように進み、長崎大学病院も積極的にORPコースに参加しておりかなりレベルは高いと思っていましたが、まだまだ向上の余地はあるようでした。麻酔も次の手術の患者は前室で待機して、手術が終わると麻酔がかかったまま(結構すぐ覚醒して抜管しながら移動していることも多かったですが)リカバリーに行き、さっと掃除すると待機していた患者が入るようになっており、日本である病棟のオペ出し待ち、入れ替え待ちの時間はほとんどありませんでした。術中透視も基本的には放射線技師が来て透視を出していました。暇そうにしていることも多かったですが、日本と違いオランダの病院は連絡が院内PHSではなく携帯を使っていた(場合によっては自分の携帯で患者さんの携帯に電話していた!)ので、暇な時間は外回りのアシスタントでさえもスマホをいじっていました。 全てにおいて医者が時間を効率的に使うことができるようにシステムが作られていることが多く、日本と比べると羨ましい限りでした。向こうの先生に日本ではここまで効率的ではないと話すと、医者が生産的でないものに時間を使うなんてcrazyだと言ってましたが、全くその通りだと思います。
留学を通して外傷外科医がショックバイタルの腹腔内出血を開腹して止血したり、重傷外傷の初療のリーダーとなっているのを見ると、日本にもこれからこういう人間が増えてくればいいのにと思うとともに、自分としてはこれからその道を志すよりも、よりqualityの高い整形外傷の診療を目指していこうと思いました。 またオランダと言えば行く前はとにかく人がでかいという印象しかなかったのですが、人々は優しく、街中で困っているとすぐに手を差し伸べてくれますし、食事もおいしくないと聞いていたのですが街中で売ってあるFriet(フライドポテトにソースをトッピング)がとてもおいしくて頻回に食べていました。滞在中は天候にも恵まれチューリップや風車などリアルハウステンボスを体験することもでき仕事以外でもいい経験ができました。
最後になりましたが、サポートしていただいたAO Trauma JapanならびにAO Trauma Fellowship teamの皆さん、留学を心よく許可していただいた尾﨑誠教授、宮本俊之外傷センター長、そしてなによりも留守中に外傷センターで働いていた皆さんに感謝の意を伝えたいと思います。