Albert-Ludwigs-Universität Freiburg, Germany, 2018/5/7-6/15 佐々 貴啓先生 (四国こどもとおとなの医療センター)

2018年5月7日から6月15日までの6週間、ドイツのフライブルク大学(Universität Freiburg)の整形外科・外傷外科学教室(Department Chirurgie, Klinik für Orthopädie und Unfallchirurgie)で研修させていただくという貴重な機会を得ましたので報告させていただきます。これまでにも多くの先生方が当地で研修をうけておられますので重複する内容もありますが、ドイツ南西部に位置するフライブルク(Freiburg im Breisgau)はバーデン=ヴュルテンベルク州の郡独立市で、人口23万人(うち外国人が14%)の学園都市です。またフランスやスイスへもドイツ鉄道(Deutsche Bahn)の特急(ICE)で1時間足らずで足を運ぶことができるだけでなく、国際空港のあるフランクフルトへも2時間という非常に便利な立地です。
フライブルク大学病院はLevel 1 Trauma Centerであり、近隣都市からのヘリによる搬送患者だけでなくロシアやポーランドからの患者もフライブルク大学病院での治療をうけるために入院されていました。AOの重鎮であるSüdkamp教授を筆頭に14名のOberarzt(上級医師)、6名のFacharzt(専門医)、23名のArzt(医師、研修医)が所属しています。年間の手術件数は5,000件を超え、その約半数が外傷です。

病棟は3カ所に分かれ、ベッド数は約100床あり、午前7時からチーム毎に回診が始まります。自分は毎朝6時に起床し、路面電車(トラム)と徒歩で約20分かけて病院に通い回診に参加していました。電子カルテとiPadで主治医がプレゼンをおこなっていましたが、新患のたびにOberarzt が丁寧な英語で説明してくれるだけでなく、君ならどんな治療をする、といったdebateを積極的に投げかけてくれました。7時45分からカンファレンスがあり、前日の手術症例の報告と前夜の急患についての治療法が決定されていました。カンファレンスはドイツ語のためほとんど理解できませんでしたが、実習中の医学部6年生やArztにbroken Englishで質問しながら疑問を解決していました。Polytrauma caseが非常に多かったのですが、全身の造影CT検査が初診時からおこなわれており、ドイツ人の合理主義を垣間見ることができました。カンファレンスの終了を待たずして手術が8時頃から一斉に始まりますが、一日あたり15~20件の手術が効率よくこなされていました。教授からは興味のある手術は何でも手洗い可能だ、と言われていましたので、毎朝手術予定表を確認しながら3~4件の手術症例に手洗いさせていただいておりました。先に研修された先生も書かれていたように、閉鎖骨折であっても関節周囲骨折に対してはdamage controlのために積極的に創外固定が用いられており、直達牽引されている患者を見かけることはありませんでした。手術機器は外傷に関してはほとんどがAO製であり、ほとんどは見慣れたもので少しほっとしました。またTHAやBHPの手術では牽引手術台が用いられており、外回りの看護師が出際よく操作することにより脱臼や試整復をおこなっていたのには非常に感心しました。複雑な関節内骨折症例には術中CTを用いて整復状態を評価しており、うらやましい限りでした。Hot caseだけでなく、興味のあるHTOやRSAといったcold caseにも積極的に手洗いさせていただき、時には第一助手として参加していました。自分としてはとにかく一例でも多く手術症例を見学したかったので、一日中手術室で研修していたところ平日時間外や休日の緊急手術症例にも数例手洗いすることができました。

ほぼ全例が全身麻酔で行われ、手術終了前に次の患者が入室し前室で麻酔をかけることにより効率よく手術が進行し、午後4時頃には予定手術はほぼ終了して、仕事が終わった医師たちはArztも含めて午後5~6時頃には帰路に着くことが可能なようでした。自分も緊急手術のない日には定時に研修を終えて、市内散策やbeer gardenで独り飲みを満喫していました。ある日の術中にwork-life balanceについて尋ねたところ、彼らは年間6週間の有給休暇をいつでも自由に使うことができるとのことでした。自分の年間の休暇は平日5日であると言ったところ、なんてcrazyだ、と驚いており、人生は長いのだからもっと楽しめよ、と諭されました。合理性を追求したドイツの医療システムに改めて驚かされる毎日でした。
6週間と言う非常に短い期間でしたが、世界最先端のtraumatologyを垣間見ることができたという貴重な体験は、自分のこれからの整形外科医人生の大きな糧になると確信しております。研修の始まる約2週間前に家族とともにドイツへ入国し、各地を旅しながらドイツに少し慣れたうえで研修をはじめることができ、現地での生活にも適応できたと考えています。今回の海外研修を快諾いただいた西良教授ならびに留守中に御迷惑をおかけした医局員の方々と、四国こどもとおとなの医療センター整形外科の皆様にこの場をお借りして深謝いたします。

写真1:街のシンボルであるフライブルク大聖堂
写真2:フライブルク大学病院の整形外科病棟。庭園の手入れが行き届いていました。
写真3:お世話になったProf. Zwingmannと