Medical University Innsbruck, Austria, 2016/9/12-10/21 重本 顕史先生 (富山市民病院)

2016年9月12日から10月21日までの6週間、AO fellowとしてオーストリアのインスブルック大学病院外傷外科学講座で研修させていただく機会を得ましたので報告させていただきます。
今回お世話になりましたBlauth教授は現在AO Trauma Europe Research Committee Chairpersonを務められており、また日本にもAO Geriatric Courseなどで来ておられます。(写真: Michael Blauth教授と筆者)


インスブルックはオーストリアの最西端チロル州の州都で、人口は約13万の小さな街です。周囲は3000m級の山がそびえ立ち、夏はハイキング、冬はウインタースポーツの拠点として海外からの観光客も多く、1964年と1976年には冬季オリンピックが開催された場所でもあります。
(写真: Innsbruckの街並み)

インスブルック大学病院はこの地域の外傷センターであり、チロル州はもちろん、隣国の北イタリア、スイス、ドイツの一部もカバーし、医療圏としては100万人をカバーしています。病院の屋上にはヘリポートがあり、滞在中も絶えずヘリコプターでの搬送が行われており、年間約50000人が救急外来を受診するとのことでした。これら救急外傷に対しては昼夜問わず5人(2交代)の外傷外科医が救急センターに待機し、軽症から重傷患者の治療にあたっていました。外傷外科が所属する外科棟の中央手術室には14室の手術室があり、外傷外科は毎日5部屋を使用し、1日約15件の予定手術を行い、その他緊急手術も含め、年間手術件数は6600件程度あるとのことでした。
外傷外科はスペシャリストが28名、レジデントが22名の総勢50名在籍しております。大きく5つのチーム(Hand、Shoulder、Knee and Sports、Ankle and Foot、 Spine)に分かれており、私は今回Hand teamに所属させていただきました。また現在はまだ整形外科と講座が独立しておりますが、統合に向けて準備がすすんでいるとのことでした。

1日の業務は朝7:00から各部門の回診が始まり、その後7:30から全体のカンファレンスがあります。最前列には教授および各チームのleaderが、そして最後列にはレジデントが座るという状況でした。
(写真: 朝のカンファレンス)

手術は8:00過ぎから開始され、私もカンファレンス終了後はすぐに手術室に向かい、1例目から手術に参加していました。Hand teamに所属していましたが、どの手術にも参加してよいといわれ、カンファレンスの際に興味がある症例のメモをとり、滞在中のほとんどを手術室で過ごしました。各手術室には専属の麻酔科医がおり、各部屋の患者の入れ替えも非常に円滑で、予定手術は遅くとも16:00には終了していました。また午後は14:30より全体のカンファレンスがあり、その後曜日によって各病棟の教授回診が行われていました。
(写真: 手術室にて)
実際の手術に関しては、手術手技は我々の日常の手技と大きな変わりはなく、違和感もありませんでした。ただ非常に多発外傷が多く、患者一人に4か所,3か所という手術も多く、なぜか得した気分を味わっていました。

また今回私の研修目的のひとつに2009年より開始されているTyrolean Geriatric Fracture Centerの見学がありました。特別なセンターがあるというわけではありませんが、外傷外科医・麻酔科医・内科医・老年科医、そしてコメディカルが協力して高齢者骨折の治療に取り組んでいます。特に日本と大きく異なる点は、病棟に専属の病棟内科医がおり、周術期の全身管理を行います。朝の回診では病棟内科医も一緒に参加し、お互いに情報を共有し、共同で治療にあたっており、外科医が外傷治療に専念できる環境が非常に羨ましく思いました。また70歳以上の患者においては老年病科医も診察を行っており、滞在中2日間でしたが老年病科医の先生の回診に同行させていただきました。特に病棟で印象的なことは、せん妄に関する評価が細かくされ、病棟内の至る所に評価シートがはられており、スタッフ全体で予防・早期治療に取り組んでおりました。また疼痛コントロールも充実し、回診の際には苦痛表情の患者さんはおらず、今後の我々の施設でもせん妄対策をさらに充実させていかなければと感じました。

また今回滞在中に、Blauth教授のご厚意でドイツ、テュービンゲンで開催された11th European AO TK Experts’ Symposiumに参加させていただきました。参加者は約80名程度でしたが、高名な先生方が多数出席される中、ディスカッションも活発に行われ、非常に有意義な時間を過ごすことができました。

6週間という短い期間でしたが、海外の実際の治療現場に触れたことで、現在の自分を見つめ直し、今後の進むべき方向性を考える上で大いに役立ったように思います。

最後に、私にこのような貴重な機会を与えて下さいました富山市民病院・澤口毅先生をはじめ、富山市民病院の同僚、そしてAO Trauma Japanの諸先生方に深くお礼を申し上げます。