Faculty Education Program Tokyo, 2018/4/14 – 4/15 北田 真平先生 (兵庫県立西宮病院)

2018年4月14日・15日に東京・汐留で開催されたAO Faculty Education Program(以下FEP)に参加したので、ご報告いたします。このFEPはAOコースの講師として、身に付けておくべき教育者としての方法論を体系的に学ぶコースです。これまで、日本からは2名の先生方が香港で開催されるFEPに参加されていました。しかし、本年は初めての東京開催で、しかも参加者は全員日本人という、参加者にとっては非常に有難い環境でした。

このFEPの特徴は、2日間のface to faceイベントの5週間前からインターネットの仮想学習スペースで行われる事前学習をすることです。また、掲示板上において本コースのEducatorであるChan先生や他の参加者の先生方とDiscussionを行います。これらもCourseの修了に必須となっているので、臆せず発言することが大切です。

事前学習1週目は、仮想学習スペースの利用の仕方などを学びます。2週目は、「人はなぜ学ぶのか」という深淵なテーマを配布された論文やブックレットを読んで学びます。この週の内容がFEPの最も核をなす部分で、「学習サイクル」や「7つの原則」といった、学びという行動の背景にある基礎知識を勉強します。しかし、これまでの全く教育学については門外漢であった私にとっては、一読しただけでは頭に入ってくる訳がなく、何度も資料を読み直す必要がありました。3週目は講義の仕方について学びます。講義の冒頭で学習目標を設定して受講生のゴールを提示することや、設定する学習目標は受講生が講義を聴いた直後から行動に移せるものでなければならないことなど、沢山の講義の基本事項を学びました。すなわち‘After this lecture, you will know about~’という目標設定は間違いで、‘you will explain~’や‘you will describe~’というのが正しいということになります。単に知るだけでは学習したことにはならず、能動的に説明し詳細を述べられるようになることが学習の本質だということを知りました。4週目は、スモールグループディスカッションの運営方法について学びます。受講生どうしの議論を深めるための方法や、議論の場を支配しようとする攻撃的な受講生への対処方法、また逆にあまり議論に参加しない消極的は受講生に対し発言を促す方法など、モデレーターとして実際に遭遇しうる場面に対する解決策を学びます。5週目はPractical Exerciseの運営方法を学びます。FEPの本番コースで使用する玩具版プレート・スクリューの取り扱い方法を学びます。以上で事前学習は修了なのですが3週目と4週目の事前学習のタスクでは、本番のコースでプレゼンをするためのスライド作りをするよう求められます。私は本番前日の深夜までこれらのスライド作りに追われましたので、可能であれば早めに着手しておくことをお勧めします。

本番のFEPコースは、東京汐留のホテル・ヴィラ フォンテーヌの会議室で行われました。参加者の先生方は、普段から学会や研究会などで顔を合わせることの多い、先生方でとても安心しました。Facultyの先生方との顔合わせと自己紹介からコースはスタートしました。その後、‘これまで経験した最も良い学習体験’について各々発表します。私は、学生時代のアメリカンフットボール部での体験について発表しました。各受講生の発表についてChan先生を中心としてディスカッションするのですが、我々が経験した良い学習体験はすべて良い学びの「7つの原則」にCategorizeされるということを学びました。

次に、「Giving a lecture」と「Facilitating small group discussion」へとコースは進んでいきます。この2つのセッションではあらかじめ課題として与えられたプレゼンテーションを行う必要があります。スライドの構成やプレゼンテーションを流暢に行うことも重要な要素なのですが、このセッションで重要なことはフィードバックを受けること、そして自らが他のプレゼンターに適切なフィードバックを行うことです。適切なフィードバックとは、まず「What went well?」と質問しフィードバックを受ける人に自らのプレゼンテーションの良かった点を自己評価してもらうことです。そして次に「What will you do differently next time? 」と質問し、より良いプレゼンテーションを行うには次からどうすれば良いか聞きます。ここで自らの悪かった点に気付いてもらうというのが重要な点です。評価者から一方向的に改善点をフィードバックされると多少気分が落ち込んでしまいがちですが、自らの発表を省みて自分から改善点を引き出すこの方法は、気分を損ねることの少ない良い方法だと感じました。実際にコース終了後、小学校4年生の息子の算数の勉強の手伝いをしているときにこの方法は役に立ちました。以前であればガミガミと一方的に悪い点を指摘して、息子が途中ですねてしまうことが多々ありました。しかしコース終了後は、多少の間違いには目をつぶり、「上手に解けたね。どこが良かったのかな。」と聞き、最後に「じゃあ、次のテストでもっと正解するには、どうしたらよいかな?」と聞くと、今までの息子が嘘のように改善点を自らスラスラと口にしました。これは医療関係者だけではなく、子供にまで通用するとても普遍的な内容だと実感しました。次は夫婦間のコミュニケーションでも応用してみようと思います。

2日目はPractical Exerciseのセッションでした。Oskitという骨接合の簡易モデルを使用しインストラクターと受講生に分かれてセッションを運営します。実際のAOコースでもPractical Exerciseの前にはビデオが流されることがありますが、このOskitも解説用のビデオがあり、私ともう一人のインストラクター役の北原先生も本番のAOコース同様にビデオをまず流し、その後Exerciseに移るという進行をしました。北原先生とはJATECコースでも一緒にインストラクションする機会も多いので、息が合ったナイスコンビだったと自負しています。

Practical Exercise終了後、今回のFEPのまとめを行いました。やはり最後もFEPコースのキーフレーズである「What went well?」「What will you do differently next time? 」というフィードバックの言葉の大切さを再確認し、コースは終了となりました。

今回のコースでは沢山の外傷整形外科および骨切り術関係のご高名な先生方と濃厚な2日間を過ごすことができました。参加メンバーの中では最も医師としての経験が少なかった私としては、すべてが勉強になることばかりでした。今後のAOコースにおいても、FEPで学んだことを実践し、受講生の先生方の良き学びの場を提供していきたいと思います。

熱心にご指導いただいたDr. Lap Ki ChanをはじめFacultyの先生方、そして心地よい環境を提供して下さったAO Traumaのスタッフの方々に深謝いたします。